第91話 お嬢様と再会しちゃいました

 ドヴェルグのヴェストリと、彼の契約者に『鉱山の小さきものの会』という、カヴンについて尋ねてみた。

 この鉱山は水晶が多くて、ガーネットやメノウなど、色々と採れる。最初はドワーフを召喚して、使役する感じで採掘をしてきた。その時の待遇が良くなかったので、『鉱山の小さきものの会』というカヴンを創設し、待遇改善や召喚術の啓蒙に努めた人物がいたんだとか。

 今ではドワーフと人間が協力して採掘をするようになり、これまで以上の成果を上げている。家事妖精なんかも多く働きに来て、工房を支えるようになった。なので、このカヴンの会員はほとんど、この町に住んでいる。

 ヴェストリの契約者の工房は一等地にあって、王室に献上する宝飾品も作ってるんだって! すごいなあ。

「まあ、当然といえば当然だね。ドヴェルグの作品は、神族も喜ぶからね」

「なんでお前が偉そうなんだ」

 ふふんと自慢げに説明するフォルネウスに、マルちゃんがつっこんでいる。

 神族ってことは、キングゥ達みたいな竜神族、バイロンの龍神族とかかな。

 

 石だけじゃなくて、装飾品を眺めるのも楽しそう。これからご飯を食べて、迎えを宿で待つ。明日もう一度、ゆっくりと街を散策したい。

 ちなみにずっとフォルネウスの奢りだ。スイーツも食べちゃお。

「すいませーん、イチゴのガレットをお願いします。あ、コーヒーのお代わりも」

「君の契約者、遠慮がないね!」

「俺もデザートを食べるかな」

 珍しくマルちゃんも頼むと言い出して、メニューを開いた。

「マルショシアス君は、甘いものは好きじゃないだろう」

「たまにはいいだろ。おーい、唐揚げポテトを追加だ」

「唐揚げはデザートじゃない!!!」

 声を張り上げるフォルネウス。店員さんも笑っているよ。なんだかんだで、いいコンビだね。


 ちょっと食べ過ぎちゃったかな。宿の部屋で待っていると、ついに代官さんからのお迎えが来たと、宿の人が知らせてくれた。マルちゃんは騎士姿になっている。

 ロビーで待っていてくれたのは、見覚えのある女性。

「マルショシアス様……っ! またお会いできて嬉しいです」

 山を下る時に会った人だ。カフレというイノシシ型の魔物に襲われていた。ここの代官のところで働いているんだ。

「へえ~。モテモテだねえ、マルショシアス君」

「……じゃな。俺は留守番をしている」

 マルちゃんはくるりと回れ右して、部屋へ戻ろうとした。それをフォルネウスが、腕を引いて止める。

「イヤだなあ、主役が参加しないといけないよ」

「そうですわ、馬車を用意しています。参りましょう。申し遅れました、私はユーニスと申します。代官を務めるのは親戚で、両親を亡くしてから引き取ってもらっています」


「苦労しているんだね。マルショシアス君、優しくしないと」

 フォルネウスは、またけしかけようとしているのね。マルちゃんに天に戻って欲しくないのかな。

「いえ、皆に優しくして頂いています。恩返しがしたいと仕えているんですが、病に伏すことが多く、むしろ迷惑を掛けてしまっているのです。それで、あの山にある温泉で療養していました。冷えにいいんだそうです。私の病は、冷えからくるものが多いと指摘されておりますので」

 ユーニスお嬢様のお話を聞きながら、馬車に乗った。

 代官はお祖父さんの兄弟の息子さんだそうだ。ふむ、なるほど。

「そのわりには護衛が少なかったんじゃないか」

「実は、もっと付けようと申し出てくださいました。しかしお世話になっている身で、あまり大勢で行くのもどうかと、お断りしたんです。普段は人の往来も多く、そんなに危険のない場所なんです」


 最小限の人数で向かったのね。フォルネウスがニコニコしながら耳を傾けているのが、むしろ気持ち悪い。何か企んでいないかな。

「気を付けろ。身内を不注意で亡くすなど、マトモな人間なら酷く悔やむ」

「ええ、反省いたしました。ですがおかげで、マルショシアス様との縁が結べたのです! これが運命というものかしら……。ところで、付きまとっていた女性はどうされたのですか?」

 おおっと、ヘルカに敵意き出し。マルちゃんを好きになる人って、恋をすると攻撃的になるのかな。泰然たいぜんと構えたマルちゃんを狙う、狩人の目になる。

「……ヘルカか。アイツは国へ戻った」

「まあまあ、それは良うございました! どうぞマルショシアス様、ごゆっくりなさってください。一生でも宜しいんですのよ」


「マルショシアス君、一生だって! 住んでしまったらどうだい? 君の屋敷は私がもらい受けてあげるよ」

「お前は黙ってろ!!」

 ここぞとばかりに小突いてくるフォルネウスに、マルちゃんが声を荒らげる。

 フォルネウスはマルちゃんをからかいたくて、同行しているのかな。マルちゃんの一生って、どのくらいの長さになるんだろう。

 やたら上機嫌なユーニスお嬢様との会話も弾み、代官のお屋敷に到着した。

 塀に囲まれた石造りの家の門を、門番が二人でギイイィと開く。左右に道が伸びて、左側を進んだ。

 中央には大きなモニュメントが飾られている。鉱山で採れた石で作ってあるのかな。かなり精巧な、魚や小人、エルフなどの像だ。

 

「明日は鉱山を見学されますか? ぜひぜひ、本日はこちらにお泊りになってくださいまし」

「いや……」

「いいねえ~、鉱山! 行きたいな~」

 マルちゃんが断ろうとするのを、すかさずフォルネウスが承諾する。鉱山が好きそうにも思えない。もしかしてマルちゃんとユーニスお嬢様の、ラブラブ大作戦!?

 それはともかく、私も鉱山に行ってみたいな。

「では、手配しておきます。さ、こちらへ。まずは代官様が挨拶されたいそうです。あ、結婚の報告をしてくださっても構いませんのよ」

「するかっ!」

 うーん、ヘルカ以上に押しが強い。頑張れ、ヘルカ!

 案内された部屋は棚に大きな原石が幾つも飾られていて、机の上には書類や本が散らばっている。一番上にあるのは、宝石の町へようこそと書かれた、パンフレットみたいなものだ。


 五十代くらいの茶色い髪の男性が、代官さんかな。

「ようこそ。ユーニスから聞いていた通り、立派な方々だ! 地獄の貴族を召喚して怒りを買うという、どんでもない事案を解決して頂いたそうで。領主様がご不在の折に、大変なことになるところでした。感謝してもしきれません!」

「……まあな」

 原因はフォルネウスで、解決したのがマルちゃんですよ。

 フォルネウスは素知らぬ顔で握手している。図々しいなあ。

「それで、これは些少さしょうですがお礼です」

 代官さんは布袋に入った金貨をくれた。やったあ。え、三カ月くらい楽に暮らせるほどはありそう! すごい金額だ。

「あ、ありがとうございます。いいんですか?」

「もちろん。ちょっとしたティーパーティーの準備もしています、ゆっくり堪能してください。そして本日は泊まって、明日は鉱山の見学ですな!」


 しまった、お昼に食べ過ぎちゃった。こんなことなら、余裕を持たせるんだった。

 泊めてもらうことになったので、宿に連絡を入れてもらった。最初から宿泊の可能性も考慮されていたのかな、三人分の部屋が用意されている。宿の部屋の何倍も広いよ! 得したなあ。ベッドはフカフカ。

「こちらのお部屋で宜しいでしょうか?」

「はいはい、もちろん!」

 メイドさんが確認してくれる。私は荷物を適当に放り投げて、ティーパーティーの会場へ向かった。

 庭が見渡せる広いテラスで、白くて太い石の手すりの向こうには、小さな花が咲いている。その先に、来る時に迎えてくれた彫刻が並ぶ。


 テーブルの上にはスイーツがたくさん用意されていて、庭を眺められように並べられた椅子に座って、ゆっくりと食べられる。これはいいね。

「美味しい~! 小さいケーキは全種類、制覇しなきゃ!」

 ベリーのケーキ、チーズタルト、ガトーショコラ。それから手作りプリン!

 どれを食べても美味しいし、紅茶も美味しい!

 ユーニスはマルちゃんにスイーツを取ろうとするけど、マルちゃんはあんまり甘いものは好きじゃなかったんだよね……。しかしめげずに、生ハムとチーズとアボカドをお皿に盛り付け、給仕にお酒を注がせている。

「ほら、マルショシアス君お礼は?」

「……ありがとよ」

「いえいえ、いくらでもお取りいたします!」

 フォルネウスはとにかく楽しそう。ユーニスも幸せそう。

 マルちゃんを好きになる人って、マルちゃんの反応を気にしないよね!

 強いメンタルが求められるようだ。

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