第90話 鉱山の小さきものの会
「キイイイィイイ!!」
ベンヌ鳥が
風圧で私の体が揺れ、よろけてしまった。
金に輝く鳥は、体当たりをしてくる。なんとか避けるけれど、羽根の先が当たって飛ばされた。
やめてぇ、この先はガケだから!!!
落ちずにガケの近くで踏みとどまった。しかしベンヌ鳥は無慈悲にこちらへ向かって来る。ヤバい、ヤバい!!
「粘るね~」
フォルネウスは相変わらず高みの見物だ。
「わわわ、ひゃあああ!」
クチバシを突き出して、飛んでくる。辛くも当たらずに済んで、そのまま地面に転がった。ベンヌ鳥が地に激突して振動が起き、崖の近くの地面が崩れて。
お、お、落ちる~!
「アウトー!」
「フォルネウス!! 貴様……、ソフィアはバイロン様より頼まれた、バイロン様の子孫だぞ……! このことはバアル閣下もご存知だ。何かあれば、お前の首を龍神族に差し出すからな!!」
「は? 龍神族のバイロン様!? まさか……っ!」
マルちゃんがベンヌ鳥に追いついた。けど、遅かった。
私の足元には何もない。空が細長い崖の形になって、谷底を流れる川が真下にある。どんどんと落ちていくよ!
ベンヌ鳥の声が響く。今度はマルちゃんに襲いかかっているみたい。
死ぬ……っ!
空気を切る感覚が、やけに冷たい。落下する私の耳を風の音が塞いだ。
どうしよう、今からバイロンを呼んでも間に合わないよ。どうしよう!
ドン、と衝撃は早く訪れた。でもほとんど痛くない。
「間に合った……」
「た、助かったの……?」
フォルネウスだ。バイロンと聞いて、結局助けてくれた。ありがとう、バイロン……! フォルネウスは信用できないよ。
彼に抱えられて地表に出ると、ベンヌ鳥はマルちゃんが倒した後だった。
フォルネウスに下ろされても、私の膝はガクガクしていて立ち上がれず、ペタンと地面に座った。ふう……、生きてるって、いいな。
「ヒドいじゃないか、マルショシアス君! そんな大事な情報、先に教えてくれないと!」
「お前は手札を全て晒して、カードゲームをするのか」
マルちゃんは冷たい視線を送って、ベンヌ鳥から討伐の証拠の羽根と、アレクトリアの石を取り出している。
「カードゲームには、負けたら首を差し出すルールなんてないよ……」
「お前のゲームには付き合いきれん。そもそも、人の契約者に手を出そうなんてのがルール違反だろうが」
ルール違反。決まりでもあるのかな。悪魔同士のことは、よく分からない。上に逆らわないのは知ってるけど、同じランクだと普通に友達っぽいよね。
「私は害をなそうとしたわけじゃないよ。不慮の事故だよ、運が悪かったんだ」
「ソフィア、そうバイロン様に報告しろ。それで済むか賭けよう」
アレクトリアの石を、無造作に私へ投げるマルちゃん。羽根は全部で四枚、手の中にある。フォルネウスとのベンヌ鳥の討伐勝負は、引き分けだね。
「助けたじゃないか! そもそも知っていたら、こんなことは絶対にしない。お願いだよ、ソフィアちゃん。バイロン様には内密に……!」
「おかしいな、お前の好きな賭けだぞ。一世一代の大勝負だ」
「それ、結果が分かって言ってるだろう! ヒドイよ……、マルショシアス君がそんな冷たい人だったなんて……」
「おかしな言い方はやめろ」
急に痴話ゲンカみたいになったよ。バイロンはすごく怒るのかなあ。普段大人しい分、怒ると怖そうだよね。黙っておいた方がいいと思う。
おかしなやり取りを眺めていたら、気持ちが落ち着いてきた。
立ち上がって、埃をはたいた。依頼は完了だね、もうここにいたくないよ。
町に着いたら、まずはギルドで巣を発見したことを報告する。
空いていたから、すぐに済んだ。依頼終了!
マルちゃん達は討伐した証拠の羽根を出していた。算定している間に、素材の窓口で私が持っているアレクトリアの石も、買い取りをしてもらう。全部のベンヌ鳥にあるわけじゃなかった。あったのは、全部で三個。これは良いお金になったよ。
「全部で八羽も……、お疲れ様です。高位の冒険者の方じゃないんですか?」
「ふふ……、単なる
片メガネを直しながら誤魔化す、フォルネウス。妙にこじゃれたフォルネウスはともかく、マルちゃんは黒い鎧姿だもの、騎士とか戦闘職っぽいよね。
「で、巣はそのままなんですか?」
「そうだ。成鳥の数からして、巣はまだあるだろう。もしこの巣を作ったベンヌ鳥がまだ生きていて、巣を壊す時に戻ると危険だ。幼鳥がいるしな。一日見張って確認をしてから、駆除するのが順当だろう」
「なるほど、それはそうですね。巣はまだある見込み、と……」
マルちゃんは丁寧に職員に説明している。本当はマルちゃんなら楽勝だろう。面倒臭がりなところがあるからなぁ。
ベンヌ鳥は、そんなに強いわけじゃはない。空を飛ぶ魔物は、ランクが上方修正される。あとは仲間意識が強い鳥なところが、厄介な鳥だ。
ま、だいたいは地獄の侯爵二人の勝負で倒されちゃっただろうね。
もし生き残りがいて崖に作られた巣の駆除中に襲われたら、とても戦いにくそう。
貰うものは貰ったし、後は任せればいいね! 次の目的地は、と。
「この町に代官さんのお屋敷があるんですよね?」
受け取りにサインをしながら尋ねる。
「ありますよ~。ご用でしたら、お取り次ぎいたします。約束がないのに押しかけると、不審者と疑われますよ」
「ご招待されたんです。明日、伺う約束でして」
「おっと、それは失礼しました。宿を教えて頂けますか、あちらからお迎えに来て頂けますから」
「宿、まだ決まってなくて」
勝手に行っても入りにくいもんね、お迎えに来てもらえると安心だな。
職員の男性に獣も一緒に泊まれる宿を教わり、そこで待つことにした。やっぱりフォルネウスも来るつもりになっている。
宿の部屋に空きがあるか確認して、チェックインする。さあ夕飯だ。
「ソフィア、いいものを食えよ。フォルネウスの奢りだ」
「そんなことは言っていないよ」
「ほうほう、ではバイロン様に……」
「……分かった、分かったよ! 奢ればいいんだろう……」
珍しくマルちゃんが意地悪している。よっぽど頭にきたのね。でも夕飯で済ませるなんて、マルちゃんは安いなあ。侯爵なのに。
高そうな立派なレストランに入って、マルちゃんは遠慮なく分厚いステーキを注文していた。私もたまには、ステーキを食べちゃお。サッパリしたソースが美味しい。
「く……、こんな筈じゃあ……」
フォルネウスはちょっと悔しそうだった。
お迎えは、次の日の午後になる。
午前中は町の中を歩いた。繁華街には宝石店が多く、彫金とか金細工の職人とかが工房を構えている。妖精やドワーフの姿も、工房の中にあった。
石畳の道を四頭立ての立派な馬車が走り、貴族や魔法使いが多く歩いていた。護符や魔法付与する為の宝石、それから普通に宝飾品としても売られている。これを目当てに、お金持った人達が集まっているのかな。
町を警備しているのは、帽子を被って黒いズボンを穿いた兵士。上着はくすんだ赤だったり、青だったり。肩当てをしていて、ブーツも黒。かなり都会的な印象だ。鉱山で潤っているのかな。
シャレーでは多くの召喚師が談笑している。契約しているのはドワーフや小悪魔が多く、ちょっと細いドワーフっぽいのもいるよ。
「アレはドヴェルグ族だな。魔法付与もするドワーフだと思えばいい」
ドワーフの亜種かなと思っていた私に、マルちゃんが説明してくれた。
「あ、西のヴェストリ! 有名なドヴェルグもいるね。いい宝飾品が作られていそうだ」
召喚師の男性と一緒にいる少し手の長いドヴェルグを、フォルネウスは感心したように見ている。宝飾品とか、好きそうだよね。
「こりゃお目が高い! そうさ、こいつはスゲエ有能な職人なんだ。悪いけど、ちょっとやそっとの依頼じゃ受けられないよ」
「やめとけ、地獄の貴族だ」
「き、貴族悪魔!?」
契約者の男性が自慢げに胸を張るのを、ヴェストリというドヴェルグが諭す。
うーん、注目されてしまった。
「ここは鉱山があって、俺達の仕事がたくさんある。そんで、待遇もいい。昔はロクでもなかったんだがな、『鉱山の小さきものの会』っつうカヴンを作って、ドワーフの待遇改善に努めた人族がいてな。安心して働けるってんで、集まってんだ」
なるほどなるほど。イーロもこの鉱山のことを知っていたし、ドワーフの間でも有名なのね。そうすると召喚したり契約したりする、成功率が上がる。他のドワーフを紹介もしてもらえるようになるし。
この町の発展にもつながってるね!
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