第77話 バイロンと薬の素材集め
バイロンにロンワン陛下を怒らせた経緯を説明しなければならない。色々とあったから、難しいな。訝し気な視線が私に向けられている。
「義祖母が龍を召喚したがって、私なら出来ると思い込んでいまして。召喚をやらされたんです。ただ、危険だからマジックミラーで幻影だけにしました」
「なるほど……、しかし幻影だけでも危険なんだが……」
「ですよね。何度か繰り返したら、ロンワン陛下が通信に出ちゃったんです。……それで、ええと」
何で怒ったんだっけ? 考える私を、バイロンが覗き込んでいる。
「義祖母が名前を教えろと迫ったので、怒りを買いました」
「……陛下にそのような、無謀な……」
バイロンがため息をつく。本当だよ、それで私が謝らなきゃならないなんて。
「結局、義祖母は息子さんに刺されちゃいまして」
「ソフィア、君の説明は結論に辿り着くのが早過ぎる」
あれ、また解り難かったみたい。まあバイロンには関係ないから、いいか。
もう森の入り口だ。
「それで、どこへ向かっているのかな?」
「まずは兎人族の村で、シュヌー樹の実をまた分けてもらえないか尋ねてみます。それから川を渡って、薬草探しです」
「なら私も付き合おう。ソフィアが怪我でもしたら大変だ」
バイロンは私に笑顔を向けつつ、木の影から飛び出した犬の魔物を軽く手を上げただけで倒した。風で切り刻んだのだ。笑顔とのギャップが怖い。
兎人族の村の門は閉ざされていたけど、今度はすぐに開けてくれた。
「昨日の人族。どうだった、病は治ったのか?」
「はい、ところが他にも高熱の人がたくさんいて。出来れば一つでもいいので、シュヌー樹の実がほしいんです。図々しいのは解るんですが、お金も払いますから」
「ふむふむ。村長さんと相談しないと、答えられないな。まあ入って」
「お願いします」
私とバイロンは、兎人族の若い男性に案内されて門をくぐった。そのまま村長の家に案内される。村の畑にある果実の収獲をしている人や散歩している人がいて、私達の姿を興味津々に眺めていた。
「あ、この前の人族」
蛇退治の依頼で会った、ピンクの髪をした兎人族の女の子だ。今日はスカートを履いている。可愛いピンクと黄緑のチェック柄。村長のお宅へ向かう私達の横を、一緒に歩く。
「こんにちは。またシュヌー樹の実が必要になっちゃいまして」
「なんか大変そうだね……、で、黒い狼の魔物は一緒じゃないんだね。この人……」
目を細めて、じーっとバイロンを見上げている。
「マルちゃんは薬を作れる人を、探しに行ってくれて。人間達の間で、高熱の病が流行っているんです。気をつけてね」
私が説明している間も、彼女は眉を寄せてバイロンとにらめっこ。
「……彼は人族じゃないんじゃない? なんか……すごい種族だったりしちゃう?」
「解るかな? 私はバイロン、龍神族だよ」
「龍神族? たまにその辺を歩いてる、竜人族とは別?」
紛らわしいよね。全然違うらしいけど。
「ふふふ。別だね」
バイロンはそれだけしか答えなかった。
「ここが村長さんの家だよ。いますか~」
「ほいほい。なんか用かね」
出迎えてくれたのが、村長だろう。柔らかそうな、茶色く垂れた長くて丸い耳をしている。背は低い。
「こちらの方が、またシュヌー樹の実が欲しいって。人族に流行り病らしい」
「そりゃ、おおごとだ。で、そちらの男性は? 昨日の魔物さんじゃないねえ」
村長の問いには、私の隣にいる兎人族の女の子が答える。
「龍神族の、バイロンさんです」
「龍神族!?? こ、こりゃこんなところまで、いらっしゃいませ。皆、お持て成しの準備をして!」
村長は龍神族を知っていたようだ。仰天して大きな声で皆に呼び掛けた。
なんだなんだと、近くにいたうさ耳の大人達が集まる。
「なになに? そんなにすごいの!?」
「背が高くてカッコイイ」
兎人族は好奇心旺盛なのね。仕事をしていた人も中断して、見物しに来る。
「持て成しはいらない。この子にシュヌー樹の実を分けてもらいに来ただけだから」
「たくさんお持ちしてーーー!!!」
村長さんが号令すると、すぐ倉庫へ取りに走ってくれた。
程なく五個のシュヌー樹の実が届けられた。
「あんまり多くても、持てないかと思って」
そう、リュックには限りがある。しかしこれは、アイテムボックスを仕込んだ特別製へと進化しているのだ!
「ありがとうございます、入れちゃいますね」
受け取った木の実を、リュックに一つずつ詰めていく。ちっともリュックが膨らまないから、兎人族が目を丸くしている。
「ほおお、人族のリュックはスゴイ」
「もう一個も入る? 入れて入れて」
追加をゲット。ありがとうございます。
「これもこれも!」
ちょっと、ボールまで渡さないで! 遊び感覚になっているよ。
「これでお値段は、いくらですか?」
支払いを済ませたら、薬草を採取に行かなきゃ。
「龍神族のお方の紹介じゃ、お代を頂くわけにはいきません」
村長がぶんぶんと首を振る。こんなにたくさん、もらったら悪いよ。
「ソフィア、次は川の向こうだね。龍の姿になるから、私に乗るといい。君達には、お礼に私が魔力を籠めた珠をあげるよ」
「珠ですか!」
バイロンは珠を近くにいた男性に渡して外へ出ると、スウッと大きくて長い、白い龍の姿になった。龍の手からよじ登って座る。安定しないから、鞍が欲しい。
でも、鞍があってもどう付けたらいいか解らない。
「では出発するよ、ソフィア」
「はいっ! ゆっくりでお願いします」
バイロンが空に昇っていくと、家の中にいた兎人族まで外に出て、見送ってくれる。手を振り返したいけど、掴まっていないと落ちちゃいそう。そうそう何度も落下したくないので、必死にしがみ付いた。
「龍の珠だ~」
白くて虹色の光沢のある珠を受け取った兎人族は、両手で上に掲げて飛び跳ねている。龍の珠は魔力に溢れていて、珠によって色々な効果があるらしい。
よほど嬉しかったんだね。周りの人も手を叩いて跳ねている。
「龍の珠祭りだ、お祭りだ」
兎人族に新たなお祭りが作られた。
私達は森をひょいっと越えて、一足飛びに川の向こうまで着いた。かなり早いね。
川沿いの草原に降りたら、バイロンが人間と同じ姿に戻る。よおし、ここで薬草をたくさん探すよ。マルちゃんに教わった薬草もあるし、バイロンも手伝ってくれている。
しばらく採取して、お昼ご飯にすることにした。
今日はおにぎりが五つも。張り切り過ぎだよ、おばあさん!
「バイロンもおにぎり、食べますか?」
「ありがたく頂こう。ソフィアを大切にしてもらえて、私も嬉しい」
質素なおにぎりも、バイロンが食べると上品な食べ物になる。
一つ食べ終わる頃に、ガサガサと草を掻き分ける音がした。森から誰かが歩いて来る。魔獣とかじゃないね、人でもない。
「あれ、兄者。人族の子とバイロン様だよ」
「そうだな、デイビッド。もしかして同じ目的か?」
竜人族の二人も、薬草採取に協力してくれているの。これは助かるね。彼らが持っている籠には、たくさんの薬草が入っていた。
「君達も食事にするかい?」
バイロンが声を掛けると、二人はいそいそとこちらへ近づく。
「はい、休憩にしようと思っていたところです」
彼らは包みから、パンと果物を出した。お昼はこれだけなのかな。
「おにぎり、食べます?」
「やったー、これだけじゃ足りなかったんだ。ほしい!」
歓喜するデイビッド。すぐに一個、頬張った。今日のおにぎりは、おかかと梅干しの二種類だよ。どっちも美味しい。
私は食べ終わって、お茶を飲んだ。ふと竜人族が薬草を入れた籠が目に入る。
……関係ない草がある。雑草だ……。
「あの、これ違うのがありますよ。確認してもいいですか?」
「解るなら頼む。俺達はこういうの、苦手でな。うまいおにぎりだな」
アンドレイが食べながら答えた。許可を得たし、籠から全部取り出して、正しい薬草だけ戻していく。
半分以上も違ってたよ! むしろ毒草まで入ってた。この白い花の草は、絶対一緒にしないで!
彼らに薬草採取を任せていいのか、不安になってきたよ……。
「これだけ合ってれば、薬は作れるな~」
二人はあっけらかんとしていた。
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