第75話 薬草を見つけた!
兎人族の村から出た私とマルちゃんは、教えてもらった通りに川を目指して歩いた。少し歩いたら水の流れる音が聞こえてきたから、もうすぐなんだろう。土を踏み慣らした獣道が続いていて、兎人族達も川の方へ行ったりしているのかも。
リスなんかの小動物が木の枝を伝って、葉っぱの間を通る。
魔物は少ない森みたいだ。だから兎人族が住んでるのかな。基本的に、あまり戦えない種族なんだよね。
「あ、これは私が使う薬の材料。でも先生の所じゃないから、薬は作れないか」
「キレイにして売ればいいじゃないか」
「そっか!」
確かにそうだ。薬草魔術の先生が買い取ってくれるかも知れないし、採取しておこう。アイテムボックスがあるから、余分に採っても平気だよ!
特に戦闘もなく進んだ。だんだん明るくなった気がする。森の出口もそろそろかな、シシンヌ草があるのはこの辺りの筈。
生い茂る草の中から、目当ての薬草を探す。
「これかな?」
描いてくれた絵に近い草を見つけて、マルちゃんに確認してもらった。
「違う、もっと葉っぱが細くてシュパシュパついてる」
シュパシュパ……?
「じゃあこれ?」
「違う違う、色が……緑で黄緑」
「全然解んないよ!」
マルちゃんの説明が本当に下手! どう違うのか、見当が付かない。
「鈍い奴だな。だから、ほら、……匂いが草っぽい」
「全部草だから!」
考えてこれだ。マトモな返事は期待できない。どう探すか……。なんとかなると甘く考えていたけど、知らない草を探すのは予想以上に大変だ。
マルちゃんも前脚と鼻先でガサガサと掻き分けながら、探してくれている。これは背が低い狼姿の方がやりやすそう。ずっとしゃがんだり立って移動したりしていたから、足腰が疲れるわ。
「太陽があんなに上に。そろそろ、お弁当を食べようかな」
「そうするか。まさか嘘はつくまい、この辺りに生えていることは確かだろう。もう少しだ」
適当な場所に座って、太い木の幹に背中を預けた。リュックから水の入った筒と、お婆さん特製のおにぎりを取り出す。初めての、家族が私の為に手作りしてくれたお弁当。嬉しいな。
マルちゃんにはパンと、鶏もも肉の焼いたもの。朝早かったのに、ありがたい。
「いっただきまーす!」
冷たくなったおにぎりを、頬張った。おにぎりの中には酸っぱい何かが入っていた。赤っぽいし、ナニコレ? でも白いご飯に合っていて、美味しい!
それにしても、長くて大きな葉っぱに包まれたおにぎりは、三つもある。そんなに食べられないよ。
「マルちゃん、おにぎりも食べる?」
「いらん」
だよねえ……。せっかくだし残したくないな。
一個目を食べ終わると、どこからともなく魚を焼いているような、香ばしい匂いが。
木の向こう側に、細い煙がたなびいている。
誰かいるのかなと覗いてみると、なんと竜人族の怖いお母さんだ。多分。あんまり見分けはつかないけどね、あの三人は個性的。
「……ん? 人族の子? 大丈夫、何もしないよ」
「こ、こんにちは。アンドレイとデイビッドのお母さん、ですよね?」
「そうだけど、アンタは? あの村の女性?」
やっぱりだ。うんうんと頷いた。でも村の時と違って、怖くないね。
「お魚を焼いているんですか?」
焚火の周りに、串に刺した魚が七尾もいた。焦げ目がついて、そろそろ食べられそう。白く浮かんでいるのは、塩かな。
「そうさ。でも魚だけじゃどれだけ食べても、足りない気がするのよねえ」
「じゃあ、私のおにぎりと交換しませんか?」
名案じゃない!? 私は持っている二つのおにぎりを差し出した。
「いいねえ! やっぱり米を食べるのが一番、腹にたまるよ」
「なるほど、上手いことを考えたな」
食べ終わったマルちゃんが、のっそりやって来る。
おにぎり二個をお魚二尾と交換して、一尾はマルちゃんにあげた。
「焼きたては美味しいですねえ」
「このおにぎりもいい味ね。やっぱり主食が無きゃ」
謎の酸っぱい具は、梅干しというそうだ。
この国ではよく、梅を塩漬けにして赤しそを加え、さらに天日干しにして作っている保存食なんだとか。村の端に梅の木がたくさんあった。なんだか手間がかかりそうな料理だ。
「うちのバカ息子ども、迷惑をかけてない?」
「むしろ子供達の人気者ですよ。高速の拳の男アンドレイと、剛腕のデイビッドですよね。あの名乗りがカッコイイって」
「……ホントに、くだらないことばっかり……」
やっぱり大人には不評だよ。竜人族のお母さんは、四尾目の魚を食べている。白い身の一部が、湯気を伴ってぽろりと地面に落ちた。
「ところで、シシンヌ草を知らないか。この辺りにあると聞いて探しているんだが、見つからない」
マルちゃんが尋ねる。
「ここいらにもポツポツ生えてたけど、なくなっちゃったかい? きっと採られ過ぎたんだろうね。川を渡って反対側にもあるよ、あっちを探すといいよ」
「ありがとうございます!」
根こそぎ採られちゃった可能性もあるのか……。また来年も生えるといいけど、全部採っちゃうと、次の年からは生えなくなっちゃったりするんだよねえ。
ここは諦めて、ご飯を食べたら川を渡ろう。
「じゃあ、頑張りなね」
「はい、ありがとうございました!」
竜人族のお母さんは、これから狩りをすると去って行った。持っている網には魚がたくさんいて、元気に跳ねている。どんな獲物でも素手で狩れそう。
マルちゃんに乗って川を越え、森との境目に降りた。森の奥みたいに、日が当たらなくてもダメな草なのだ。
反対側と生えてる草はあまり変わらないけど、たまに見たことが無いのもある。
「おいソフィア、それも採取しておけ。使うかは知らんが、高熱に効く」
「ホント!? じゃあ念の為に、採っておくよ」
私が住んでた場所とは、だいぶ生えてる薬草が違うな。しばらく採取を続けていると、マルちゃんが大声で私を呼んだ。
「これだ! ソフィア、シシンヌ草を見つけたぞ!」
狼のマルちゃんが鼻先で示す草を、丁寧に採取する。なるほど、こういうの。細い葉っぱが幾つもあって、葉脈が黄緑っぽくて葉は緑。匂いは独特という程ではない。確かに草だ。
これで私にもバッチリ解かるよ! 一緒にもう少し採取して、家へ帰ろう。
空から村を眺めたら、畑では人に混じって竜人族兄弟が一緒に仕事をしている。アンドレイの鍬を振るペースが速い。力自慢のデイビッドは井戸から大きな桶に水を汲んで、畑に運んでいた。苗を植えるところに、ジョウロで水を撒くのだ。
しっかり頑張っているね。広場では遊んでいる子供達が少ないけど、今日はみんなお手伝いの日かな?
「ただいま戻りました! 両方手に入れられたよ」
出迎えてくれたお婆さんに薬草を披露したけど、ちょっと困った顔。
「ありがとう、ソフィア。せっかく急いでくれたのに、薬草魔術の先生が隣の村へ往診に行ってしまったのよ。今日中に戻って来られるか……」
ええ~。全部の村に治療できる人がいるわけじゃないだろうけど、せっかく急いだのに。私じゃどうしようもないし。
「……は~。仕方ない、俺が迎えに行ってくる」
マルちゃんが面倒そうに、重い足取りで出て行った。マルちゃんの背中は定員一名だから、私はお留守番だ。マルちゃんに任せるしかない。
私は採取した薬草を水できれいに洗って、ざるに広げた。すぐに使えるようにしよう。このシュヌー樹の実は使い方が解らないけど、とりあえず洗っておけばいいか。
「お帰り、ソフィア。お前は大丈夫か?」
「はい? 何がですか?」
裏の井戸を借りていた私のところに、叔父さんがサンダルでやって来た。大丈夫ってなんだろう。叔父さんは大分元気がない。
「流行り病かも知れない。村で他の子や大人まで熱が出たし、他の村からも高熱が出たと、薬草医が呼ばれて出掛けたんだ」
「流行り病!? ……皆さんは大丈夫ですか!?」
それじゃあ、誰が発症してもおかしくないってこと?
「お袋とニーナは、ニコルに近寄らせなかったから大丈夫だ。家内が……調子が悪いと言っている。うつったのかも知れない」
それは大変だ! こういう時は、……とりあえずしっかりご飯を食べて換気をするんだっけ。
「じゃあ、奥さんにも寝ていてもらわないと。夕飯は私が作ります、家事と看病を分担しましょう」
「そうだな……、ありがとう、ソフィア。ニコルは熱が下がってきてる、きっと養生すれば治る病なんだろ」
おお、それなら良かった!
家族の一員だもんね、助け合わなきゃ。
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