第65話 スコルピア一家、見参!

 村に戻った私は、仕事で受けた書類を渡しに相手の家を訪ねた。

 これで終了。受け取りにサインをしてもらったし、あとは何処かのギルドで報告すれば終わりだよ。村にないのは面倒だなあ。

 家では子供達が、玄関まで走って迎えに来てくれた。

「姉ちゃん、お帰り! どんな依頼だった?」

「お帰りなさい、ソフィアお姉ちゃん、バイロンさん」

「ただいま。この村に配達する仕事しか、受けられるのがなかったよ」

「なんだあ~」

 ニコルはガッカリして肩を落とした。討伐でもあれば良かったけど、受けられなかったんだよね。早くランクを上げたいなあ。DランクからCには、一年は経たないと審査対象にもならない。


「仕事とはそういうものだよ」

 バイロンが笑っている。そうだ、強盗の話をしておかないと。

「叔父さん、ギルドで物騒な話を聞いたんです」

「どうした?」

 私はギルドで話題になっていた、竜人族の強盗の話をした。バイロンも一緒に説明してくれる。

「……明日、村長に知らせてくる。注意喚起した方がいいな」

 注意したから防げるものでもないけど、無駄に抵抗しないよう呼び掛けた方がいいかも。力の強い竜人族なんて、戦ったら大怪我しそう。

 叔父さんは商売のことで色々移動するみたいだから、不安になるよね。私がいる間は、護衛しなきゃ!

 お母さんの実家からもらった、魔導書もしっかり読み込まないと。中級の攻撃魔法があるから、これを上手く使えたら戦力アップだよ!


 勉強するからと、今日は姉弟には自分の部屋で寝てもらうことにした。拗ねてたけど、邪魔しちゃだめと奥さんが言ってくれて、二人は各々の部屋へ戻って行ったよ。

 途中でバイロンが、飲み物を持って来てくれた。

「解らないところはないかい、ソフィア」

「大丈夫です。何処かで練習できたらいいんだけど」

「場所に心当たりはあるのかい? いつでも私が連れて行くからね」

 ……なんか、甘やかされている気がする。マルちゃんがいない分、過保護になってるの?



 姉弟の塾がお休みの日。今日は一日相手をしないといけない。

 マルちゃん、カムバーック!

「ソフィアお姉ちゃん、ブラックベリーの実を摘みに行きませんか」

 何をしたらいいか考えていたら、姉のニーナが提案してくれた。

「いいね、行こう。近くにあるの?」

「畑の方に木がたくさんあって、そこにベリーの木もあるんだぜ!」

 ニコルが先に駆け出してしまう。籠も持たなくて、どうするんだろう。

「もう、ニコルは落ち着きがないから」

 ニーナが三人分の籠を用意して、帽子を被った。私は自分の籠を受け取って、バイロンも来るのか尋ねる。

「そうだね、近くで見ているよ。ベリーを摘むのは三人でね」

「はい!」

 バイロンも一緒だから、ニーナが嬉しそう。気合十分だね、たくさん採れるといいな。ブラックベリーの木は昔から生えていて、村の人なら誰が採ってもいいらしい。


 先に行ってしまったニコルを追って急ぐ私とニーナ、その後ろからバイロンがゆっくりと歩いてついて来る。

「ブラックベリーって、どうやって食べるの? 私が住んでいたところでは、黒いベリーはなかったよ」

「渋みがあるんですけど、ジャムにすると美味しいです。つやつやした綺麗なのが、いいベリーですよ」

 黒いベリーのジャム。甘くて美味しそう! 頑張って摘むぞ!


「わあああ!」

 ニコルの叫び声だ。畑仕事の道具や藁を入れる小屋の向こうで姿が確認出来ないから、急いで向かわなきゃ。ニーナには待っている様に告げた。

「どうしたの!?」

「姉ちゃん!」

 立ち止まっていたニコルが、振り返る。彼の先には、明らかに人間じゃない二人の男性が立っていた。

 リザードマンに少し似ていて、そうじゃない。竜のような顏、首、濃い緑の体。

 まさか、竜人族がここに!?


「ははははは! 我が名はアンドレイ、高速の拳の男! ただいま見参!」

 足を開いて立ち、両手を弓でも引くように左側へビシッと向ける。

「牛も運べる力持ち、剛腕のデイビッド、参上!」

 もう一人はアンドレイの前で片膝を立て、反対側に両手を向けた。

 突然恐ろしい種族に出会って脅えていたニコルが、ポカンとしている。


「決まったな、弟よ!」

「カッコいいぜ兄者!」

 ……これが、竜人族の愉快な強盗? 最初のポーズには意味があるの?

「……あの~、何かご用でしょか」

 ニコルを私の後ろに下がらせ、とりあえず質問を投げ掛ける。姿形は怖いけれど、どうも強盗とは思えないなあ。

「おお、人族の娘。どうだった?」

「どうって、何がですか?」

「ようやく逃げない人族だな、兄者」

 片膝を立ててポーズを決めていたのが弟ね。兄より背が低く、大きな顎は尖っている。服は人間とあまり変わらない。


「どっちが良かった」

 会話が噛み合わない。どうとかどっちがとか、私は用があるか尋ねているのにな。

「人族ってのは、喋らないか大声で叫ぶかで、極端なんだなあ」

 弟の方が、こちらに歩いてきた。逃げた方がいいんだろうか。特に敵意を抱いているとか、危険な感じはしない。


「……スコルピア一家の竜人族だね。君達は何をしているんだ」

 バイロンだ。声が少し低い。足元をすうっと通り過ぎるのは風じゃないな、魔力が流れている。

「……!? 龍の御方で?」

 アンドレイが素っ頓狂な声を上げる。バイロンは龍神族。竜人族である彼らからすれば上位種族で、支配階級みたいなものだろう。

「私はバイロン。君達は人族に迷惑を掛けているのか?」

 バイロンって私には甘々だけど、竜人族には厳しいのかな?

「いえいえ、とんでもない! 山の家に篭っているのも変化がないので、世界に満ちているという人族と友達になりに来ました! たくさんいるから、友達がたくさん出来ます」

「……友達??」

 思わず繰り返してしまった。友達になりたいなら、お金を取っちゃいけないよ。


「金品を奪っていたと聞いたが」

 バイロンの問いに、今度は弟のデイビットが答える。

「奪ってなどおりません! 人族が金を置いて逃げるんです。僕らの名乗りがカッコ良かったから、おひねりなのでしょう」

「恐れて逃げる際に、落としたのだ。怪我をさせたりもしたのだろう?」

「人族が、何故か襲い掛かって来たのです。わりと獰猛な者もいるようで」

 つまり、竜人族を恐れた人がお金や持ち物を落として逃げた。怖がって先に攻撃した人もいて、撃退していた。それを重ねて、強盗だと思われていた?

 うわあ、お粗末な展開だなあ。バイロンも対応に困っている。


「……トカゲみたいな兄ちゃん達、友達が欲しいわけ?」

「トカゲではない、俺達は竜人族だ。家族だけで暮らしていたから、そろそろ飽き飽きだ」

 私の後ろからおっかなびっくり顔を出したニコルに、答えるアンドレイ。

「僕らも知見を広げるべき時代! そこで兄者と、友達を作る秘策を考えた。カッコいい名乗りだ。目を引く!」

「おおお~、確かに! すっげえ強そうで、カッコ良かった!」

「そうか! カッコ良かったか、少年!」

 私はちょっとダサいと思ったけど、子供受けはいいのか。後から恐る恐る様子を確認に来たニーナは、全然状況が解らず首を捻っている。謎の怖そうな種族二人と弟が、楽しそうにしているんだもの。

「今日から親友だ!」

「もっと友達を紹介するぜ!」

 一件落着。親友って、これからも彼らはここに来るのね……。


「それならば、村長に挨拶をしておくべきだろう。突然竜人族が姿を現したら、大人であれば敵と判断しても仕方あるまい」

 バイロンの提案も尤もだね。ブラックベリー摘みは姉弟に任せて、村長の家に彼らを案内することにした。バイロンの後ろを、さすがに緊張した面持ちで付いてくる。

 畑仕事をしていて騒ぎに気付いた数人がやって来て、二人の心配をしてくれていた。


 この外見から想像出来ないお調子者二人を連れて、村を歩くのかあ……。なんだかなあ。でも彼らが来てくれていれば、この村は安全になるよね。龍に連なる種族なら、絶対に強いはずだもん。

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