第31話 聞き込み開始

 キングゥ達と別れた私達は、近隣の村に行ってみることにした。

 宿を探したいのと、このモルドブ村についての聞き込みだ。もしかしたら私の事や、その助けてくれた存在についても何か知っている人が居るかも知れない。できれば再会して、お礼を言いたいな。名前を覚えていれば早かったんだろうけど、姿も会った事さえも、全然記憶にない。


 マルちゃんに乗って山の更に上に行ったら、すぐ小さな村があった。

 これは宿なんてありそうにないね。宿から探した方がいいかな。近くに年配の女性が居るから、まずは聞いてみよう。

「あの、すみません。宿を探しているんですけど、ここにはありませんか?」

「この村にはないねえ。もう少しのぼってごらん、温泉が湧いている所があってね。そこに療養するための宿が、数軒あるよ」

「ありがとうございます! 助かりました。ところで、モルドブ村っていう村の事なんですけど……」

「……その話かい。悪いけど、竜なんて知らないよ。あそこはほとんど全滅だったんだ、今更そんな話なんてしたくないね」

 村の名前を出した途端に、鬱陶しいと言わんばかりに去って行ってしまった。

 これは調査は難航しそうだ。話もしたくない気持ちも解るから、仕方ないか。その後も数人に聞こうとしたけど、けんもほろろに追い返される。

 どうやらティアマトを探して契約できるか試したい、命知らずのチャレンジャーが行方を捜してやって来ていて、いい加減にしてほしいみたい。どんな姿だったとか、ブレスはどうだったとか、ずいぶん聞かれていたらしい。

 ティアマトはもう会ったから、そっちじゃないんだけどなあ。


「竜なんてろくな事にならん! この村の人間で、家族が下の村に嫁に行ったのや、親族が住んでいた者も居るんだ。無神経に聞いて来るな!!」

 おじさんに怒られてしまった。

 両親の話を出す暇すらない。しょんぼりしていると、近くで花に水やりをしていた女性が気まずそうに声をかけて来た。

「ごめんね。竜の行方とか、どんなだったかとか聞きに来る人が多くて。でもお父さんも他の人も、村の名前が出るだけでも辛いみたいなの。私はそんなに覚えてないからいいんだけど、とても酷いことになっていたみたいだよ。あなたも、竜なんて探しちゃダメだよ」

「竜を探してるんじゃ、ないんです……」

「違ったの?」

 

「私の両親が、あ、行商人だったみたいなんですけど、あの事故で亡くなってしまったの。私は助かったんだけど、何も覚えてなくて。両親がどういう人だったとか、何処から来たかとか、知ってる人が居ないか探したかったんです……」

 私の説明を聞いて、女性は目を大きく開いた。

「…………、あなたって、もしかしてソフィアって子? 召喚術の先生に引き取られたっていう……?」

「私を知っているんですか?」

「話を聞いているよ、待ってて。お父さん! 今の子、ソフィアちゃんだよ!! 丘の上で泣いてた子でしょ?」

 さっき怒鳴ったおじさんを追いかけて、何か話している。家に入ろうとしていたおじさんは、扉を開けたまま彼女と会話を続けた。


「マルちゃん、どう思う?」

「どうやら誤解が解けたみたいだな。竜なんて、もう会ったもんなあ」

 狼姿であくびをしてるマルちゃん。全然、親身になってくれない!

「悪かった、竜を探してくる奴らが多くて。事故の直後、俺と仲間がモルドブ村に様子を見に行ったんだ。……その時の様子を教える」

「ごめんね、ソフィアちゃん。早とちりなお父さんで」

 二人が謝ってくれて、家の中へ入るよう促された。怒られて怖かったけど、話を聞けそうで良かった。手掛かりなしじゃ探せないもん。


「ありゃあ思い出したくもない程、酷い有り様だった。生物の怒号のような、とんでもない雄叫びがして、真っ黒いデカい何かが北に飛んで行くのを、目撃してな。下にあるモルドブ村付近を通ったようだって言う奴が居たから、数人で確認に行ったんだ。丘の上から見たら村は壊滅、幾つもの建物が土台しかなかったりして、屋根も柱も人も、あちこちに吹き飛ばされていた。生きてるヤツはいないかと、道を下ろうとした時だ。泣きながらアンタが、散々に木が倒されてる森から出て来た」

 丘の上にいたっていう、ティアマト本人の証言と一致するね。やっぱり私なんだ。

 木で出来た家の窓の外には、畑が広がっている。ストーブに使う薪が、屋根の下にたくさん積まれていた。まだ切るのかな、斧と丸太が置いてある。

 さっきの女性が温かいお茶を出してくれて、おじさんは一口飲んでから話を続けてくれる。


「アンタはお父さんとお母さんは、お兄ちゃんはと何度も言ってた。両親は行商人で村にいたから、助からなかった。しかし、お兄ちゃんに当たる人物は解らなかったんだ。きっと、村の誰かが遊んでくれていたんだろうと言う事になった」

 異界の存在で、他の人間が来る前に姿を消しちゃったんじゃ、もう探りようもないか。こちらは私が何か思い出すしかないかな。


「それからあの女先生が来て、アンタを引き取るって申し出てくれて、連れて行った。軍の実験に反対していた人らしいから信用して渡したけど、気になってたんだ。元気で良かった……。村の人間はほぼ全滅だったからな……」

 すぐ近くの山の麓に軍の実験施設があったことは、誰も知らなかった。ましてやそこから最高位の竜が飛び出して惨劇を起こすなんて、予想のしようもない。まさに防ぎようがない災害だ。


「あの、私あの事故の前のことを何も覚えていなくて。両親のことも、全然思い出せないんです。覚えている事があったら、教えて頂きたいんですけど……」

「……そうか。仕方ないよな、あんな大人が見ても震えるような恐ろしい事故を目撃しちまったんじゃ。たしか、他国から来た行商人で、あの村の後にここへ来る予定だったんだ。事故の数年くらい前から、このルートを通っていたぞ」

 他国! この国の人間じゃなかったのね。

「どの国か解りますか!?」

「いや、話したがらなかったな。あのあと行商人の実家に知らせねば、娘を帰させねばと話し合いになったが、誰も知らなかったんだ。南から来たと聞いた、という証言だけはあった。両親は駆け落ち者らしくてな、家に関しては何も言わなかったよ」

 駆け落ちなの!? じゃあ、両親の実家を探して行っても、私は歓迎されないかも。でも、亡くなった事は伝えたいよね。


「身分違いだと言っていたそうだ。確かに商人の嫁になるような感じじゃない、品のある女性だった。アンタの母親が、貴族なんじゃないかな」

「貴族!? ウワア、ますます相手にされなそうですね……」

「はは、形見か何かあれば良かったが。とにかく広範囲に酷く散乱しててな、片づけに行ったが、見つけたモンも何が誰のものだか全然解らなかったよ」


 とにかく話を聞いて、両親は駆け落ちだから、家の事とか詳しい事情は誰にも明かしていないだろう事は解ったよ。母親は貴族っぽい。それと、南にある国から来た。南に行けばいいのね。この形見のロケットにある模様は、母親側の家の紋章か何かかも。

 母親は私と同じちょっとブラウンっぽい金髪で、体型はやせ形で背は高くない、父親はこげ茶色の髪で標準体型。いつも仲良さそうにしていて、荷馬車の御者台に私と三人で座っていたそうだ。

 今日はこのお宅で泊めてもらえる。明日温泉の町まで行って、そこの宿で話を聞いてこの国を発とうと思う。ここら辺の村を回った後、温泉に浸かって麓に戻っていたらしいんだ。


 明朝、ご飯を頂いてから出掛ける準備をして外に出たら、何人かの村の人が集まって来ていた。

「この子があの時の! 無事でよかった!」

「昨日はごめんね、アレは酷い事故だったから思い出したくなかったのよ」

 わあ、みんな私を覚えていてくれたんだ!

「ありがとうございます、素敵な先生のもとでしっかり学ばせて頂きました」

「その割にはイマイチだよな……」

 マルちゃんがボソリと呟いていけど、口々に喋っている村人達には聞こえなかったみたい。お菓子まで貰っちゃった。


「故郷を探してきます、さようなら!」

「気をつけてな」

 手を振って村を後にした。うん、最後は嫌な顔をされなくて良かった。やっぱり、ちょっと落ち込むもんね。


 温泉宿では両親をぼんやり覚えていてくれた人が居て、一つ小さな国を越えて来たと、話していたと教えてくれた。ということは、二つ先の国。小さな国ってきっと、ここの真南にある中立国だわ。その隣国でさらに南にある、この国と隣接していない国。二つに絞られたよ!

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