第27話 『召喚協力会』のシャレー
南東に下った場所にある、見落とすことのない大きな町で、キングゥと落ち合う。ここなら空から見ても直ぐわかるよ!
ギルドで会う約束をしている。ここもシャレーと別になっているから、先にシャレーに寄ることにした。人がたくさんいるなあ。
「こんにちは、立派な子と契約してるね。どう、お仕事あるよ!」
キョロキョロしてると、受け付けの女性が話しかけてくる。
「こんにちは。ここは人が多いですね」
「お店が多い町だからね、小悪魔とか家事妖精とか、契約したい人が多いんだ。それで集まってるの」
笑顔で説明してくれるんだけど、解ったような、解らないような?
「それでねえ、仕事よ。あるお店でお手伝いが欲しいんだって。弱い子でいいんだ、召喚して契約をさせてあげられないかな」
「……召喚を、私がするんですか?」
「うん。お金になるよ!」
契約をしてなくてこの世界にいるのならともかく、わざわざ召喚して他の人と契約させるの? しかも初めて会う人の為に? どんな人間かも解らないし、もし何かあったら私の責任だと思うんだけど。
「すみません、契約する相手は自分で召喚するようにと、先生の方針なんで……。契約がなくてこの世界で相手を探してるならともかく、誰かの為に喚び出すのはダメなんです」
「かたいわねえ。まあいいわ、じゃね」
え? なんだったの、今の。
不思議に思いながらシャレーを後にすると、様子を見ていた女性が私の後を追いかけて来た。
「断って正解よ。ここは『召喚協力会』の出資で出来たシャレーなの。だから他とは雰囲気が違って、儲け主義なのよ。あんなのトラブルの元だよ。交流の場としてはいいけど、仕事を探すのには使わない方がいいよ」
なるほど、やっぱり都会では普通って訳じゃないのね。
「ありがとうございます。気をつけます」
「うん。あとね、魔物と一緒の宿に泊まりたいんでしょ? この町はほとんど断られないから、下調べなんていらないよ」
「そうなんですか! ありがとうございます」
「あなた、ありがとうばっかりね」
女性は笑って反対の方へ歩いて行った。親切な人だった。
ギルトではキングゥがサロンの椅子に座っていて、誰かが話しかけている。勧誘されちゃってるかな? 見た感じからして、強そうだもんね。
「討伐なんです、一緒にしませんか」
「待ち合わせをしているだけで、俺は冒険者じゃない」
「そうなんですか? 報酬はちゃんと分配しますよ、仕事の合間にでも」
やっぱりそうだ。
「お待たせしました!」
必要以上に大きな声でキングゥに近づくと、誘いかけていたグループは、私達を見て諦めてくれた。
ギルドの依頼は、今日はもういいのがなくなってる。この町に泊まるので、明日また確認することにした。
宿を選んで荷物を置き、夕飯のお店を探そうと大通りを歩いていた時だ。
「ぎゃあああ!」
ものすごい男性の悲鳴がして脇道を覗くと、家から人が飛び出してこちらに向かって走り、足がもつれたのか転んでしまった。逃げて来たその人を、何かが追いかけて来ている。
燃えるような赤い目に突き出た歯、鋭い鍵爪を持って背が低く、醜悪な老人のような姿。赤い帽子を被り鉄の靴を履き、血に濡れた斧を持っている。その生き物は動きが早く、逃げて来た男性にすぐ追いた。そして迷いなく振り下ろされる斧。
転がるようにして間一髪で避けられけど、とてもじゃないけど戦えそうにない。
通りがかった冒険者が次の一撃を防いで助け、這い蹲って逃げる男性を庇うように立った。私も急いで、そちらに向かう。キングゥ達はもう男性の元まで届き、剣を抜いた。
「レッドキャップ。こんなものを召喚したのかよ」
マルちゃんが呆れたように、斧を血で染める妖精に顔を向けた。
あの怖いのも妖精なの!?
「ケケケッ……、邪魔ヲ、スルナアァ!!!」
怯むことなく斧で冒険者に襲い掛かる。まるで逃げて来た人間は、自分の獲物だとでも言う様に。冒険者は後ろに男性が居るから、下がることも避けることもできない。槍を構えて先に突きを繰り出したんだけど、レッドキャップがタタッと横に避けてすり抜け、斧を脇腹目掛けて振り回した。
「し、しまった!」
焦って槍を戻そうとするけど、間に合わない!
そこにマルちゃんがレッドキャップの前に出て、剣で斧を防いだ。
キングゥも来て、斧を止められて動きが一瞬緩んだレッドキャップを、すかさず剣で斬り裂く。
「……なぜこんな妖精を」
キングゥが怯えている男性に、怪訝な視線を向ける。
「か、家事妖精をと、頼んだんだ……。召喚師は、殺、され……」
そういえば斧は血で赤く染まっているのに、この人は大した怪我を負っていない。もう犠牲者が居たんだ! 家事妖精と間違えて召喚しちゃって、防御の魔法円で防げなかったのね。家事妖精を喚ぶだけだからって、手を抜いたのかも知れない。油断が本当の命取りになってしまった。
こんな仕事を仲介する方も良くないよね。このままこんな妖精が町に放たれちゃったら、危険だよ。
槍を持った冒険者は、ふうっと安堵のため息を漏らした。
「助けてくれてありがとう、ギルドに報告しておくよ。シャレーにも苦情を言ってもらおう。君達の名前は? 町を危険から守ったんだ、討伐の報酬が出るんじゃないかな」
「私はソフィアです、Dランクの冒険者。こちらのキングゥ様とマルちゃんは、冒険者じゃないの」
「そっか、じゃあそう伝えておくね。あとでギルドに行くといいよ」
彼はやって来た警備兵に事情を軽く説明してから、いつの間にか集まってこちらを見ている群衆を、掻き分けて行った。私達も事情を聞かれたので、この妖精に襲われている人がいたから倒したと説明する。
「こんな姿の妖精が……。失礼、この辺りでは家事妖精か、森に棲む者達くらいしか知られていないから。いや、悪戯が酷いのや、不気味な妖精犬を喚んでしまった事なんかもあったか」
警備の人もこの妖精は知らないみたい。マルちゃんが説明する。
「アンシーリーコートと呼ばれる、加害性の強い妖精だ。これはレッドキャップ。勿論他にもいる、召喚する時には気を付けんとならん。住んでいる場所が違うから、普通は間違えないがなあ。こういう奴らは獲物を求めているから、異界の門が開くと思えばすぐにやって来ちまう」
なるほどと、警備の人が頷く。
「ありがとうございます。我々からもシャーレに苦情を入れることにします。後はこちらに任せて、もう行ってもらっていいですよ」
怪我人をいったん保護して、家の中を念の為に調べるみたい。レッドキャップの遺体を片付けて、数人の兵が家の中へ踏み込んで行った。
近くにあった宿に泊まり、ギルドに顔を出した。教わった通りに名乗ってみると、少しだけど報酬が貰えた。
「シャレーの奴らに文句を言って、金を出させてやったよ。アイツらのせいだからな。一般人に被害がなかったのが救いだ、本当にありがとう」
「いえ、キングゥ様とマルちゃんのおかげなんです」
私だけが冒険者だから代表して受け取っちゃうけど、何もしてないんだよね……!
「誰でもいい、危険なのを倒してくれたんだから。で、これから何か用事ある?」
「南東の町に向かって旅をしています」
この流れは、もしや?
「ちょうどいい、護衛の仕事を引き受けてくれないか。とっさの事態に立ち向かえたし、君達なら大丈夫そうだ」
やっぱり依頼だ! しかも護衛だって。Dランクだけどいいのかな。受付の男性は、説明を続けた。
「ランクはこっちから伝えとくよ。後ろの二人、かなり腕が立つんだろ? その辺の冒険者なんかより立派に見える。実はさ、ちょうど東側の村に送って欲しいって一行がいる。南東ならさほど遠回りじゃない筈だし、馬車で行かれるよ」
「護衛は乗れないんじゃないですか?」
確か前の時は、交代で歩いてたな。キングゥもマルちゃんも、人間よりずっと長く歩いていられるから、私だけが問題だ。馬車の速度が速かったりすると、追い付くのが大変なんだよね。
「交代にはなるけどね」
やっぱり。勝手に決められないので二人を振り返った。
「そうだな、どのような者の護衛をするんだ? それによる」
「キングゥ様がお受けなると判断されるなら、俺に異存はない」
二人が前向きに検討していると知り、受け付けの男性は楽しそうな表情をして、顔を近づけて来た。
「それがな、この町を軸にして活動してる、舞姫と音楽隊の一座だよ。村祭りに踊りを披露するらしい。護衛して、ついでに祭りも楽しんで来たらどうだ」
「お祭り!」
それは楽しそう!!
私が思わず前のめりな反応をしたので、マルちゃんは呆れ顔。
「君が乗り気だしな。いいだろう、受けよう。村祭りとやらも興味がある」
キングゥが頷いたから、これでこの依頼を受けられるよ。
向こうは護衛さえ決まればいつでも旅立てるように待機していたので、出発は今すぐという事になった。こんな楽しそうな依頼もあるのね。
お祭り楽しみだなあ。
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