第25話 パランヤンの町

 マルちゃんも元気になったし、北東の町に向けて出発!

 魔法道具屋さんが沢山あると教えてもらったので、そこでアイテムを買うんだ。大きな町らしいから、ちょっと緊張するけど。


 パランヤンは壁に囲まれた町で、鉄の門の前では検問が行われている。商人の荷馬車、冒険者グループ、買い物に来たような人達。いろんな人が並んでる列の後ろについた。キングゥとマルちゃんも大人しく並んでくれてる。

 少しずつ検問を終えて門をくぐり、私達の番が近づいてきた。

「はい次。おお、お帰り。どうだった?」

「ダメだよ、やっぱり手に入らない。ギルドの依頼で届いてるか……、藁にもすがりたい気分だ……」

 ここの住民なのかな、顔見知りみたい。簡単な話だけで通って行った男性は、暗い表情をしていた。さて、次は私の番。


「えーと、冒険者さんと契約している悪魔ね、立派だなあ。こちらもそうかな?」

「いや、俺の契約者は彼女じゃない。旅の途中だ」

 契約してるで済ますのかと思ったんだけど、素直に答えている。そして何か取り出して門番の目の前に出した。

「こ、これは……! 失礼しました、お通り下さい」

 いきなり態度が変わった!? 何を持ってるの!?

 後ろがつっかえちゃうからひとまず進んで、歓迎するように設けられた花壇の前まで来たところで、キングゥを振り向いた。

「俺の契約者は身分の高い人間だからな。あれを出せば融通が利くと言われている」

 家紋か何かの入った、身分証になるものみたいね。


 さて、護符を選びたいな。前の町で聞いてみたら、男性のサンテリと女性のカティがいいと教えてもらった。この二人の職人さんのお店を探したい。もちろん他のお店も覗くつもり。

 キングゥは自分も見て回りたいからと、ここでいったんお別れ。宿をとっておいて、買い物が終わったら落ち合う事にした。これなら迷っても宿の名前を出せば、誰かが教えてくれるだろう。

 私達はというと、まずシャレーに行くことにした。ギルドと別の独立した建物になっている。魔法アイテム関係の情報は、こっちで聞くのが一番! 中には何人も居て、受け付けでお話してる人もいる。


「こんにちは、魔法アイテムの事で聞きたいんですけど」

「ああ、弟子入り志願? 窓口で相談中だから、そこで待ってな」

 魔法アイテムショップが多いって有名な街だもんね、弟子入りの相談もここなのね。一軒ずつ回るより効率的でいいね。

「違うんです、護符をどのお店で買ったらいいかなって」

「そっちか、ごめん。何が欲しいかにもよるな」

「魔力を強めたり安定させる、護符です。サンテリさんとカティさんがいいって、他の町で教わってきました」


 近くにいる女性が私達の会話を聞いて、笑顔でこちらに来る。

「やっぱり有名なのよね! 私のはサンテリさんの護符よ、これは火属性を強くするヤツ。攻撃魔法の威力を高めたくて」

「ほううん」

「え、なに今の男性の声?」

 この建物に入る前に狼姿になったマルちゃんだ。みんなこのタイプの魔物が話すとは思わないから、ビックリするんだよね。姿を変えられるだけの悪魔なら喋って当たり前だけど、用がないのに魔物っぽい姿をしてる方が少数派。

「マルちゃん、人間の姿で居ればいいのに」

「俺の勝手だ」

「あ、その子なのね。ビックリした」

「あっはは、それは驚くわ。俺のはカティさんとこの! 性格はキツイけど美人だぜ。魔法防御の為の護符だ」


 私は女性の職人、カティさんの護符の方がいいような気がした。先生ならすぐに解ると思う。色々触れて、見る目を養わなきゃね。

 二人のお店の場所を聞いて、今度は依頼を見て行こう。ちなみにシャレーの外には、魔法アイテムの相談承りますと、張り紙があった。ここでは召喚師じゃなくてもいいみたい。


 冒険者のギルドでは受付で依頼終了の手続きをしてる人が居たり、サロンで話をしてるグループもあった。やっぱり盛況だ。

「護衛や討伐よりも、鉱石の入手とか薬草なんかの素材の採取とか、運搬やお手紙の配達が多いね」

「さすがにアイテム職人御用達って感じだな」

「……中級以上のドラゴンの鱗の入手」

 とんでもないのも混じってるね。いいヤツはなかなか手に入らないよ。

「一番簡単だ」

「え、なんで!?」

「……お前、誰と一緒にいるんだよ……」

 あ、キングゥ。でも鱗って採らせてくれるのかな? 断られたら終わりだよ。

 確認して、貰えるんなら受けようかな。採取の中では破格なんだ。


 結局依頼は受けずに、お店を見ることにした。飲食店や洋服屋さんに混じって、魔法アイテムショップがちらほらある。ポーション専門店、護符と石のお店、魔法付与や魔力の補充専門の小さな店舗。買い物の為に冒険者や魔法使いが集まるからか、武器屋や冒険用のアイテムショップもある。全部の買い物がここで出来ちゃうそうな町だ。病気なんかに効果のある魔法薬のお店も、一つ二つ見つけた。

 一際立派でお弟子さんが何人も居るのが、サンテリのお店。お客さんも今まで見た中で一番たくさんいる。店員さんは優しくお客さんの要望を聞いて、アイテムを出してくれている。


「いらっしゃいませ、何かご入用ですか?」

 眺めていたら、女性店員さんに話しかけられちゃった。

「あ、すみません、初めてこの町に来たんで圧倒されちゃって」

「ふふ、こんなに魔法アイテムショップが並んでいる町は、近隣にはありませんからね。必要なものがありましたら、気軽に声をかけて下さいね」

「ありがとうございます」

 なんだか申し訳なくて、そそくさとお店を後にした。親切なお店なんだけど、話してたら買わなきゃいけない感じになりそう。カティのお店も覗いてから決めたいから、まずは回って来なきゃ。


 大通りに面して堂々としたサンテリのお店とは対照的に、カティのお店は一本入った裏路地にひっそりとある。小さな店構えで従業員が一人だけ、女性だけど頑固職人だって話だわ。さっきの明るい雰囲気とは逆だなあ。

 看板を確認してお店に入ると、誰かが店主らしき女性と話をしていた。

 ガラスの扉のある棚にアミュレットが置いてあり、強い護符であるタリスマンはサンプルだけが飾ってあって、注文生産になっている。

 さっきの明らかに商売って感じのお店より、私は好感が持てるな。


「それ、おかしいよ! そんなバカな!!」

「相手は貴族なんだ……。出来なかったじゃ済まない。条件が違う、とも言えない」

「あの卑怯者ね。私の身内だから、潰すつもりなんだよ! 許せない!」

「罠でも注文の品を何とかしないと、こちらは破滅だ。しかしドラゴンの鱗を数日で手に入れるなんて、やはり無理だった……」

 憤る女性と、暗い表情で項垂れる年配の男性。カティさんと知り合いの職人さんかな。ドラゴンの鱗の依頼は、彼が出したものなの?

「……あの~……、ドラゴンの鱗って、ギルドの依頼にあったヤツですよね? お話を伺ってもいいですか?」

「悪いけど、今はちょっと取り込んでるから。後にして」

「その鱗を都合できる可能性があるんだが」

 マルちゃんがいつの間にか、騎士姿になって後ろにいた。多分、話の説得力が増すからじゃないかな。彼女たちの会話が、マルちゃんも気になったのかな?


「本当か!? それは助かる。俺は鍛冶職人で武器や防具を専門で作ってるんだが、杖も作るからカティさんと懇意にしていてね。ドラゴンの鱗は俺が必要なんだ、とんでもない依頼を受けちまった」

「サンテリのヤツの仕業だよ! 私の弟子の職人を引き抜いたり、表面おもてづらはいいけど性質が悪いのよ。顧客の貴族に手を回してもらったに違いない!」

 有名なこの二人は、仲が悪いみたい。彼女は妨害を受けてるの?

「この依頼も、最初はオーダーメイドで強い防具を作って欲しいって依頼だったんだ。納期も十分だし、何とかなると思って受けた。しかし採寸した後、強いと言うからにはドラゴンの鱗で作るようにと言い出したんだ」

「あとからですか!? それは無茶ですね……」

 一番に話し合わないといけないところだ。彼は手持ちの鉱石で何とかするつもりだったので、断ろうとしたという。


「ところが、わざわざ貴族である自分が足を運んだのに今更断るのかと、逆に脅されてね……。どうも最初っから、そのつもりだったらしい。素材の話はしたんだ、しかし自分は決められないから主の気に入るもので、採寸の当日に選んでもらおうと、依頼に来た従者が言うだけで」

「こんな手の込んだ真似をしてくるとは思わないよ。あるもので済ますか、入手できるまで待つか、もしくは持ち込むか。通常はそんな感じさ。こんな無茶を言う奴は、蹴り飛ばして追い出してやるもんなのよ」

 蹴り飛ばすかはともかく、通常なら断られて当たり前の頼み方をして、権力で押し通しているのね。そんな提案をするサンテリって職人も酷いけど、協力する貴族も悪いよ!

「貴族を怒らせたら、ただでは済まないからな……。この調子でカティの他の職人仲間も、廃業に追い込んでいくつもりじゃないか。こういう魔法アイテムは一人じゃ作れない。魔法を付与するのと、その為のアイテムを作る職人が居ないとならないんだ。たとえば、指輪を作る職人とか、プレートに彫金する職人とか」

 全部自分でやる人もいるみたいだけど、組んで製造する方がいいみたい。専門の技術者が作るのとは、出来が違って来ちゃう。


「了解した、ドラゴンの鱗を持ってくる。ソフィアは冒険者だ、ギルドの依頼として受けるがいいな?」

 善行になると判断したんだわ。私もそう思う。

「ありがたい、助かるよ。いつ頃になりそうだ!?」

「一時間もあれば」

「そんなすぐか! 助かる」

 二人は助かったと喜んでいる。私達はお店を出て、キングゥを探すことにした。今の話をしたら、鱗をくれそうだよね。悪い事は許せないみたいだもん。

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