第24話 そしてまた落下

「この後はどうする」

 お昼ご飯の後、キングゥが尋ねてくる。ここで食事をしたんだし、せっかくだから出来る事をやって行きたいな。

「できれば薬草を探したいです。依頼があったんで」

 ここなら町で手に入らないような薬草も見つかりそう。

「なるほど、しかしそれは俺には手伝えん。待っていよう」

「お願いします、あまり遅くならないようにしますので」

 

 洞窟があった方と別の森へ向かうと、キングゥも後からついて来た。そうだった、護衛をしてくれるんだっけ。

「この辺りにいますから」

 私がそう告げると、彼は近くにある太い木にもたれ、膝を立てて座った。

「何かあったら、すぐに呼べ」

「はい!」

 真面目なんだよね、プライドが高くて怖いだけで。


 皮膚病に効く薬草、それなら……

 ピッルーが木の根元に生えているから、その葉と根っこ。それからアシュナン草も採取。ルルパーヌ石は洞窟で拾った。これも使えるって知ってる人かな。

 それなりに採取出来て、これならいいかなとキングゥの元へ戻った。

 また巨大な竜の姿になってくれて、これに乗って帰る。乗るまでが大変なんだけどね、あとは快適。大きな翼を動かすと木の枝が踊るように動いて、葉が擦れあいザザッと揺れる。

 飛び立ってからすぐ、キングゥは首を巡らせて後ろに目を向けた。

「どうしました?」

「……かなり隠してはいるが、何か大きな魔力を持つ者が近づいている。天の者のようだな」


 天の者……、天使? なら別に敵対していないはずだし、問題ないんじゃ?

 マルちゃんが居なくて良かった。マルちゃんは悪魔だもんね、戦いになっちゃったら大変。とはいえ皆がすぐに、ケンカし始めるわけじゃないみたい。

 だけどかすかに詠唱が聞こえてくる。詠唱するって事は人間なんだろうけど、なんで……、あ。隣国から来た調査の人? もしかしてキングゥを、エレンスゲの仲間と勘違いしてる!?


「光よ激しく明滅して存在を示せ。響動どよめけ百雷、燃えあがる金の輝きよ! 霹靂閃電へきれきせんでんを我が掌に授けたまえ。鳴り渡り穿て、雷光! フェール・トンベ・ラ・フードル!」


 国から派遣されたって人に違いない! 雷撃なんて高度な攻撃魔法、そこらへんの魔法使いは知らないもの! 稲妻が北側からやって来た人物の掌から発生して、輝いて男性を黄色く照らし出す。飛行魔法で飛んでいる、ローブを着た高位の魔導師だ。これは私なんかが戦う事になったら、一溜りもないよ! バチバチと大きな音を立てて、光の筋が火花を散らしながらこちらへ放たれる。

「きゃああ! どうしよう、防御を」

「焦るな、あんなものはお前にまで届かん」

 キングゥが大きく息を吸い込んで、首を上にあげた。ブレスだ!


「待て、あの黒竜は……」

 魔導師の後ろに来た男性が制止するけど、発動してしまった魔法はもう止められない。背中から真っ白な翼が生えていて、軽装の白い鎧を身に着けている。彼がキングゥが感じた天使なのね。

 魔法による雷が迫り、それにキングゥがブレスをぶつける。暴風と氷の、とてつもない強力なブレスだ。簡単に魔法を打ち消して、それは二人の人影に迫る。

「うわ、あ……!」

「早計だ、未熟者め!」

 天使が怒鳴ってる。勢いがすごいから、もう何が起きてるのかは解らない。それより問題は、ブレスによる反動だ。魔法との衝突もあった為にこちら側にもかなりの風が起こり、キングゥの背が大きく動いて、掴まってるのが大変。


 何とか大丈夫と思ったのも束の間、ブレスは終息したんだけど、この時にドラゴンの体って動いているものなのね。深呼吸で胸を張って緩めた、みたいな。グネンと動いて、気が緩みかけていたのもあり、持っていたでっぱりから手が離れてしまった。背の動きに合わせて私の体が揺れてるし、姿勢が保てない。

 またこのパターン! 落ちる!!

 今度は前回よりよっぽど高いところだよ、どうしよう! キングゥの翼の羽ばたきで起こる風に、体勢を崩していて耐えられるわけがない。

 巨大な竜の背から、空へと転がった。


「落ちる~!! た、助けて!!」

 掴まろうにも黒い鱗はつるりと滑り、どうしようもない。気付いて助けてくれるのを、祈るばかり……!

「しまった、反動が大きすぎたか」

 巨体は小回りが出来ないんだ、くるりと大きく旋回しながらこちらに向かおうとしてくれている。でも羽根から風が起こって、私の体が成すすべなく流され、さらにキングゥから離れてしまう。

 

 またもや空で絶体絶命!

 焦っていると不意に向こう側から、何か飛んで来る。

 ガシッと暖かい衝撃があって、先ほどの天使が私をキャッチしてくれた!

「まさか人間が乗っているとは……、大事ないか?」

「は、はい……。ありがとうございます」

 肩までの金髪で、ちょっとキツイ目をした男性の天使だ。大きな白い翼を動かして、ゆっくり降下していく。竜に続き、今度は天使のお姫様抱っこだ!

 先ほどの魔法使いの男性もこちらに来た。この天使が防御して、怪我もせずに済んだのね。キングゥも降りてきて、地上に元の姿で立った。


「竜神族……」

 魔導師が驚いた目でキングゥを見る。私はよく解らないけど、彼は知っているみたい。やっぱり高位の魔導師って、物知りなのね。

「黒竜ティアマト様の後継者、キングゥ殿とお見受けする」

「……これは、ウリエル殿。彼女を助けたという事は、宣戦布告ではないようだな」

 辛らつだ。いきなり高度な攻撃魔法だもんね、ビックリしたよ。

「それは私の勘違いです、大変失礼いたしました。エレンスゲという飛龍の討伐に来ていたのですが、既に討伐されたと連絡があり、とりあえずこの付近の調査をしようと思いまして……」

 青い髪をした男性が、何度も謝罪をしてくれる。

「……契約者の不始末、私からも詫びよう」

 天使まで頭を下げてくれた! わわ!

 流石のキングゥもこれ以上は怒れないらしく、丸く収まったから良かった。


「エレンスゲは俺達が討伐し、巣を発見して卵も潰した。もう問題ないだろう」

「ありがとうございます! これで安心できます、わが国では幾つもの村で被害が起きていたんです」

「感謝する。あれは素早く移動距離も長い。次の出現場所が読めず、対策に苦慮していた」

 魔導師に続いて、天使ウリエルの説明。隣国ではもっと以前から被害が多くあって、討伐隊が組まれていたけど成果なし。エレンスゲは巣を中心に移動して、毎回同じ場所に行く訳じゃないし、行動が読めなくて振り回されていたみたい。

「では我らは戻る。何かあれば、相談に乗る」

「怖い思いをさせてゴメンね、ソフィアさん」


「ところで一つだけ聞きたいが」

 帰ろうとする二人を、キングゥが呼び止めた。

「この男は高位の魔導師では? 君は権力には味方しないと思っていたが」

「討伐などは手伝うが、相談役のようなものだ」

「私は国からは一線を引いてまして、政治的な協力はしないことにしています。郊外で生活していて、『若き探求者の会』というカヴンに所属しているんです」

「あ! 私もです!」

 また仲間を発見した! すごい、みんなすごい人なんだけど……!

 フィデルと名乗ったその人は、元は貴族で魔法や召喚術の才能を幼い頃から発揮していて、国に仕えて中核を担う事を期待されていた。でも、大人たちの欲望まみれの願望を押し付けられて、かなり悩んだそうだ。これが自分の進むべき道か、正しい選択なのかと。


 そんな時、召喚できたのがこのウリエル。悩みを相談したところ、国益の為には働かないことを条件に、知識を与えて自ら判断できるよう輔佐する、という契約をした。全部私に教えてくれていいのかと思ったんだけど、突然襲って来た罪滅ぼしみたいな気持ちなのかな。

 周りの人間も、高位の天使と契約した条件が国に仕えない事と知って諦めてくれて、彼は家を捨てて一人で生活している。穏やかな容貌だけど、硬派な人物なのね。そして国じゃなくて、みんなの為になることをしている。この危険な竜退治、みたいなことを。


 二人は空を飛んで北へ去った。あっちに行くことになったら挨拶に行きたいけど、マルちゃんは平気かなあ。

 私はまたキングゥに乗って飛び、町の近くで降ろしてもらった。目撃されたら大事になりそう。何食わぬ顔で歩いて行って、ギルドで報告。感謝されて報酬も貰え、さらに皮膚の病に効く薬草の依頼も終了だ。一石二鳥だね!


 ちなみにウリエルという凄そうな天使と会った話を宿でマルちゃんにしたら、すごく引きつった顔をされた。

「おーまーえーは、本当にバカだ!! キングゥ様が敬称を付けて呼ばれたんだ、どんな立場の方か見当がつくだろう! 四大天使と言われる、最も高位の天使の内の一人だよ。そんな近くに居たのか……、気を付けよう。会うなよ、俺に会わせるな。竜神族だけで十分だ」

 厄介事を呼んで来るなって、顔に書いてある。一緒じゃなくて良かった。

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