第21話 強盗団の討伐
まだ暗い内に宿を出る。荷物は預かっておいてもらって、戻って来てから受け取ることにした。
町の入り口にはギルドで説明をしてくれた男性と、派兵された一団が居た。五十人位はいるだろうか。
「おはようございます……」
この人達と一緒に行くのね。緊張するな。
「おはよう。あと冒険者が少し来るから」
「こちらがご協力いただける方々ですか? 今回の作戦の隊長を務める、スッチェダです、よろしく」
「ソフィアです。こちらは私が契約してるマルショシアスさんと、ええと……」
握手してマルちゃんを紹介した。キングゥは何て言えばいいんだろう?
「キングゥという。卑劣な輩は許せん、必ず一網打尽にして子供たちを助けよう」
「それは心強い」
キングゥとも握手を交わしている。良かった、無礼だって殴り飛ばされなくて。普通の人間だと、あれだけでも大怪我しそう。
後から槍を持った人と魔法使いらしき二人が来た。剣を提げたBランクの人もやって来て、これでメンバーは揃った。ギルドの男性は、冒険者と討伐隊を引き合わせると、軽く挨拶をして去って行った。
ここで簡単に作戦が説明される。万が一にも先に作戦が漏れることがないように、直前での説明になった。
「小高い場所にアジトはある。遠回りになるが、目立たない林側のルートを行く。回復と防御の魔法を使う者は必ず我々の後ろで、絶対に前には出ないように。表の玄関と裏に台所の入り口があるから、両側から突入する。その際数人は残って外で見張り、数人は魔法使いの護衛に当たってくれ」
兵たちは役割がしっかり決まっているから、あとは私たちなのね。魔法使いと一緒のパーティーは、正面側で兵の後から。Bランクの剣士は兵と共に突入すると意気込んでいる。こういうのはギルドでの評価が良くなるよ。
私は裏口からになった。魔法使いを分散させなきゃね。マルちゃんが一緒、キングゥもとりあえずマルちゃんの方にいるみたい。正面に兵力を割いているし、これでいいのかな。外には十人残り、見張りと子供たちの保護をする。
兵の方にも回復専門の人と、防御魔法を使う人がいて、こちらに来た。
「私達も後衛よ。よろしくね」
「よろしくお願いします」
一人は女性。うん、一緒に居よう。
目的のアジトになっている建物は小高い丘の上に建っていて、遠くまで見渡せる。脇の林から行くルートは、確かに目立たなくていい。誰かの使われなくなった家を、勝手にアジトにしちゃったみたい。大きな石造りの邸宅で、頑丈そう。
だいぶ近づいて、林が途切れる。音をたてないように少しずつ家の近くに移動していると、裏口の扉が開いた。誰かが出てくる。
小さな子供で、薄汚れて擦り切れた服を着て、桶を持っている。これが浚われて下働きさせられてる子かも!
「……しっ。静かに」
兵の男性の一人が、物陰からそっと子供に近づいて口を押えた。騒がれるといけないから。
「ん、ん~!??」
「安心して、私達はこいつらを討伐に来た兵だ。君は浚われて手伝いをさせられているんだね? 助けに来たから、もう大丈夫。他にも子供はいるのかい?」
男の子はビックリして暴れようとしたけど、男性の優しく語りかける言葉に、涙目でゆっくり頷いた。落ち着いたので、彼は口を押えた戒めを放す。
「た、助けて……、アイツら僕の家の人、みんな……殺したんだ。僕らを殴って、言う通りにしないと殺すって脅すんだ。他にも、三人男の子が居て、あと一人は女の子」
必死に縋りつく男の子の頭を撫でて頷き、他の人に子供を後衛たちの元へ行かせるよう指示した。
「そうだ、強盗団の奴らは、みんないるか?」
「うん、まだみんな寝てる」
「ありがとう、よく頑張った。よし、今だな」
男性が合図すると、兵達が前に進みながらサッと別れて、玄関側と裏の入り口をすぐに包囲した。さすがに素早いし声も出さない。そして慎重に子供が出て来た扉を細く開け、中の様子を確認。台所にいるのは子供が一人、表の玄関は鍵がかかっている。
全体を確認していた隊長のスッチェダは、頷いてから手を肩の高さに上げた。
「突入せよ!!」
「おお!」
玄関の扉を蹴り開けて、一気に皆が建物の中になだれ込む。台所にいた子供はすぐに保護され建物の外に避難、玄関付近で掃除していた女の子も助けられ、兵に支えられて外に出て来た。あと子供は二人。
台所から短い廊下を抜けると、すぐに正面玄関から来た人たちと合流した。裏から入った人たちは、近くの扉を開けて確認する。食堂やお風呂があって、食堂の隅では小さな子が一人、ぞうきんを持ったまま膝を抱えて震えていた。回復専門の人が、外にいる兵士の所へ連れて行ってくれた。あと一人だ。
声に起きた強盗団の人達が、バタバタと部屋から出てくる。武器は持っているけど、急なことだったので鎧なんかは付けていない。
「おい、みんな起きろ! 兵隊が来やがった!!」
「やべえぞ、早く来い!」
他の人達にも声をかけて、廊下からこちらに剣や鉄の棒を向けている。みんなが向かおうとしたところで、どこからともなく魔法の詠唱が聞こえて来た。
「吐息よ固まり、
丸い氷の塊が、無数に魔法使いの前に出来る。賊たちは道を開けるように廊下の端に避けた。これをぶつけてくるのね! 私の防御魔法で通じるかと思っていたら、兵の内の魔法使いが、防御魔法を唱えてくれている。
「荒野を彷徨う者を導く星よ、降り来たりませ。研ぎ澄まされた三日月の矛を持ち、我を脅かす悪意より、災いより、我を守り給え。プロテクション!」
これはたしか魔法と物理を両方防ぐ防御魔法で、使い勝手がいいから人気なの。先生も使うわ。氷の礫は全部、防御魔法の壁に阻まれカンカンとぶつかって地面に落ちた。防御魔法も途切れて、兵が突撃しようと走り出した時。
「欠片、集まりて一つになる。結合せよ、大いなる
氷の魔法を唱えた魔法使いが、追加詠唱を唱えた。すると先程の氷を全て固めたような、大きな塊が出現して飛んで来る。こんなのまであったの!? 防御魔法は途切れたから、すぐには展開されたない。冒険者の魔法使いたちは、反対側にある廊下へ向かってしまった。
「マミト、マミト、ウツルト! 氷よ我らに傷を与えるに
ガツン! 一番前の兵の目の前で、氷は何かに当たって砕けた。間に合ったし、バッチリ成功。上手になってるよ!
「助かった……!」
地面に破片が散らばったのを合図に、武器と武器がぶつかり合う。
戦闘が始まったから、気を付けながら魔法を唱えるタイミングをみないと。
「すごい魔法だな」
すぐ近くにいた人が話しかけて来た。私を守ってくれるみたい。
「あれ、マルちゃ……、あの黒い騎士は知りませんか?」
「彼なら空を飛んで、二階に突入したよ。主要人物が二階にいるみたいだから危険なんだけど、とても頼もしいね」
階段はすぐ近くにあり、兵たちは二階と一階に分かれ始めていた。冒険者の人達がやって来て一階の戦闘に加わったので、私達は階段に足を踏み出した。
マルちゃん達も戦っているんだろう、二階で叫びながら誰かが走って来て階段を降りようとし、向かってくる兵達を見てその場で動けなくなる。
兵達に続いて階段をのぼりきると、二階もかなり部屋数があった。ドアが壊れているところが、マルちゃん達が来たところなのかな。私は周りに注意しながらマルちゃんを探した。
不意にすぐ反対側の扉が開く。
「きゃ……!?」
「お前か。ここは制圧した、あとは更に奥の部屋だ」
出てきたのはキングゥで、私の前を進んでいる兵達が頷いてドアノブに手を掛けた。この先がまだ敵がいる所なのね。残り三部屋。
鍵が掛かっているみたい。ドアノブを開けようとしてやめて、体当たりで壊して突入する。
「来るなああ!!!」
部屋に入った兵達の足が止まり、後の人達がつっかえちゃった。
広い部屋で立派な調度品があり、豪華なベッドの後ろには隠れるようにしゃがんで男が居た。刃物を持っていて、子供も一緒!? この子が最後の一人なのね。人質にされちゃってる!!
「その子を離せ! もうすぐに制圧される」
「ふざけるな、近づいたらガキを殺す!!」
「た、たすけて……!」
震える声で助けを求める男の子。ナイフが首元に触れて、赤い血がつっと落ちた。本当に殺されちゃう。
「やめろ、もう抵抗は無意味だ!」
「黙れ、こいつを殺されたくなければ、大人しく道を空けろ……」
「……お前たち、どけ。アイツを通させろ。子供の命が最も優先させるべきだ」
一番怒りそうなキングゥが、冷静に要求を飲めと言っている。兵達はざわついたけど、入口を塞いでいた人が部屋に入って壁際に立った。
「そ、そうだ……、それでいい。俺が逃げられれば、ガキはそこらで放してやるよ」
男と子供が立ち上がり、歩こうとした瞬間だった。
ガチャンと窓が割れて、黒い影が映る。ガラスが飛び散り、何かが飛び込んできてガラスの欠片を黒いブーツで踏んだ。
「なんだ!?」
驚いて後ろを振り向いた男の、武器を持つ手を掴む。そのまま引っ張ると、男の体は宙に浮いた。
「キングゥ様、気を引いて頂き感謝いたします。この者は如何しましょう」
マルちゃんだ! 飛べるから窓の外で機会を窺ってたのね。兵がすぐに駆けつけ、震える子供の肩を抱いて部屋から外に逃がす。
「この男がボスだ、捕らえよう!!」
「では処遇は任せる」
マルちゃんは隊長のスッチェダに男を託した。すぐに両脇に兵が付き、連行される。さて私達も部屋を出ようと思ったんだけど、隣の部屋から何か魔力が流れていているような。
……あ!
「あの、召喚術師って、もう捕まえましたか!?」
「まだだが……」
「俺も見ていないな」
隊長とキングゥの答えを聞いて私がすぐに隣の部屋に視線を移すと、勘付いてくれたスッチェダ隊長が廊下にいる兵達に号令を発する。
「誰か、すぐに隣の部屋を確認しろ! 魔法使いの彼女が、何か感じたようだ!」
「これはそうだ、異界の門が開いている」
ボスに集中しすぎて気付くのが遅れてしまった。マルちゃんも感じたみたい。
「は、はい!」
廊下を走る音が聞こえる。私とキングゥも隣の部屋に急いだ。マルちゃんはこっちは混んでるから、また外から。何事も起きませんように……!
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