第20話 危険な依頼

 たくさん飲んだのに、キングゥもマルちゃんも次の日にはもう普通。二人ともスゴイな、酔いが残ったりしないのかしら。

 朝食を食べたら、まずはギルドに行って昨日の結果を聞かなきゃ。討伐依頼は出てたのかな。報酬が出るといいな。

 ギルドはそれなりに人がいるけど混んでるってほどじゃなくて、受け付けにも並んでいなかったので早速声をかけた。

「おはようございます。昨日のエレンスゲの件で来ました!」

「おはようございます、お待ちしておりました」

 女性が開いていた本を閉じて、奥へ来るようにとカウンターから出てきた。とりあえず三人で案内された部屋へ向かう。ソファーに座るよう促され、担当の者が来るからと女性はいったん退席。なんだろうとマルちゃんを見たけど、首を傾げている。


 すぐに扉を開けて、男性が入って来た。

「お待たせしました、早速本題に入らせてもらいます」

 男性はまずテーブルの上に布袋を置いた。ジャランと金属が擦れる音がして、中に入っているのは、……金貨!?

「こちらが討伐の報奨金です」

「すごい、こんなにたくさんですか!?」

 今までで一番貰ったよ。また何か魔導書でも買おうかな。あ、護符もいいかも。

「勿論です、あのエレンスゲの遺体も確認いたしました。大きな飛龍の首をほとんど切断されていたとか。確認に行った者は、どんな手練れだったんだと興奮して帰って来ましたよ」

 そりゃそうだよね。地獄の侯爵と黒竜の若様だもんね。Aランクのヴィクトルさんもすご過ぎるって言ってくれてたもの。


「実は昨日の通信で、あの飛龍を討伐に向かった冒険者グループが手酷い怪我を負いったと連絡がありまして。最初は家畜が魔物に殺されたとの討伐の依頼で、姿を見た者が居なかったので解らなかったのです。人や家畜を殺し、火の玉のようになって飛ぶ恐ろしい七つの首の飛龍だったと、命からがら逃げて来た冒険者達が証言をしました。ブレスは吐かないものの中級でも上の方ではないかとの結論が出て。更に今朝になって国から討伐隊が出ることに決定したと、新しい通達があったばかりです」

 ちょうど危険性が認識された所だったのね。それで高い報酬が出たんだ。


「……で? 俺達をここに呼んだのは、その説明の為だけか?」

 キングゥが訪ねる。ちょうど先程の女性が人数分のコーヒーを淹れて持って来てくれた。テーブルに置かれるのを待って、男性が再び話を始める。

「……それなんですが、あの飛龍を倒せるような方々なので、腕にはかなり覚えがあると思いまして。危険な依頼を受けて頂きたいのです」

「危険な依頼?」

 マルちゃんがブラックでコーヒーを飲んだ。

 私は砂糖はなくてもいいけど、ミルクをいれないと飲めないの。


「強盗団です。押し入った家の者を手当たり次第、殺すような。冒険者崩れで腕が立ち、召喚術師もいるようで……。偵察に行った者が、何か召喚しようと画策しているようだ、と報告してきました」

 召喚術。それは確かに、何が出てくるか見当がつかない。ぎょせるかも解らないから、被害がどこまでになるか読めないよね。

「……非道な連中だな。引き受けても構わんが、壊滅させるかも知れん」

 キングゥなら確かにやりかねない……。やれる力もあるだろうし。

「構いません。アジトを突き止めましたが、勘付かれて移動されたら厄介です。これ以上の被害を生まないことが最優先です。が……」

「が?」

 私が促すと、苦々しい顔をして続きを話した。

「襲った家の子供を浚って、下働きをさせているんです。ある程度大きくなったら、戦闘員として使う為でしょう……。この子たちは解放してあげたい」


「子供をそのように扱うとは、何とも許せん!! 行くぞマルショシアス、そのような輩、この俺が排してくれるわ!」

 いきなり立ち上がる。わりと直情的なのね。

「お待ちくださいキングゥ様、アジトの場所を聞いておりませんし、この者達にも作戦があるのでは?」

「そ、そうです。やる気になって頂けて嬉しいのですが、作戦も報酬も、まだ何も話してないですよ」

 相談してきた男性の方が、思いがけない反応に驚いちゃっている。普通は危険な強盗団だって知ったら、慎重になるよね。キングゥは眉をしかめて再びソファーに腰かけ、腕を組んだ。


「明日の早朝、ここを発って強襲します。連中は夜に押し込むことが多いですし、朝は遅いようです。子供たちが外に出ていればいいのですが……、中で人質として使われる恐れもありますから」

「なるほど、外道どもの考えそうなことだ」

 ふむ、とキングゥが頷いた。子供を助けるのが第一だと思ってくれているみたい。

「魔法使いなどは、どうだ」

 マルちゃんが冷静に質問する。

「いるようですね。しかし、こちらにもいますから。このお嬢さんは、魔法使いで?」

「はい、風属性の初級の魔法ですが、防御や回復も使えます」

「俺達は剣士だ。お前は火を使っていたか?」

 キングゥがマルちゃんに顔を向けた。これ、私が召喚師だってことも説明した方がいいのかな。能力を知っておくことは、作戦を組み立てるのに必要だもんね。悪魔って事は教えた方がいいかな?


「……このソフィアは召喚師、俺は契約している地獄の者だ。俺達に関しては、敵が魔法を使ってきた場合の防御など考えなくていい」

「あ、悪魔? てっきり人間の剣士かと……! これは頼もしい。召喚術でも、あちらの召喚師に負けませんな」

 私は召喚術が一番得意だけど、そんな大したものじゃないから……! マルちゃん以外は、家事妖精しか契約してないよ。便利でかわいいよ。

「俺は飛べるからな、その辺を考慮に入れるといい。決行はいつだ」

「急ですが明日の朝、明けきらないうちに町を出る予定です」

 マルちゃんが悪魔で飛べると知った男性は、頼もしい味方が増えたと嬉しそう。

「早い方が良い。ではソフィアとやら、今日はどうする」

「そうですね、簡単な依頼でもあったら受けたいです。あ、でも護符か何か、折角お金が入ったから買った方がいいかな」

 もらったお金を持ち上げると、重いくらい入ってる。いいのを買っても、まだ余るよ。


「それだったら北東にパランヤンという大きな町があってね、そこにいい魔法道具屋が何軒もあるから。そっちで買った方がいいよ。『ヘルメス振興会』の連中がやってるから、品は確かで他より安い」

「ありがとうございます!」

 南東を目指してるけど、このくらいの遠回りはいいよね。いい護符を買いに行きたい。『ヘルメス振興会』は魔法アイテム作りがメインのカヴンで、ポーション類やこういう護符なんかが得意なの。

 まずは昨日の宿をもう一泊、取らなきゃ。チェックアウトしちゃった。いったん荷物を置いてから、改めて依頼探しに来ることにした。


 宿は掃除中だったんだけど荷物を預かってくれて、掃除が終わったら部屋に入れておいてくれる。昨日と同じ部屋を用意してくれた。

 さて、これで出掛けるよ。マルちゃんがキングゥに御足労頂くのは申し訳ないと、ギルドのサロンの椅子に座って待っていてもらっている。かなり気を使ってるなあ。絡まれてないといいな……。

 依頼を受けた冒険者が町から出て行ったり、お店や掃除のお手伝いをしたりしていて、道を歩くのは買い物なんかの一般の人ばかり。ちょっと遅かったな、これではいい依頼はないだろうな。荷物を見ておいてもらって、宿に行く前に依頼だけ受けちゃえば良かったんだ。失敗した。


 ギルドに戻っても、やっぱりあんまり依頼はなかった。せっかくだし隣のシャーレに行ってみる。何人かいるね。

「こんにちは~」

「やあ、君はどこのカヴンの人?」

「私は『若き探求者の会』に所属してます。あの、パランヤンって町に行った事ありますか?」

 次に行く町の事を聞いてみよう。私にしては計画的だわ。一緒にいた別の男性が、私が話しかけた男性の肩に手を置いた。

「あるある、ここらの奴は魔法アイテムを買いに大体そこに行くよ。魔法薬なら西側の村だ、『神秘なる魔女の会』の人達が多いからね」

「そっちから来たんです、お薬も買いました。それで、今度は護符を買おうと思うんですけど、いいお店を知ってたら教えてほしくて」

「だったらサンテリさんのお店ね。若い男性なんだけど、腕がいいわよ」

 近くにいた女性もこちらに来て、会話に加わる。カヴンに所属してるだけあって、こういう話はやっぱりみんな好きだよね。

「カティさんもいいぞ、女性であの会に所属してる人は少ない」

「サンテリさんとカティさん。ありがとうございます、両方覗いてみます!」


 女性は召喚師としての就職先を探してたみたいで、シャーレの窓口に相談に行った。私は今日は受けるような依頼もないし、ゆっくり休むことにした。明日は朝早いんだもんね、早く寝る方が正解かな。

 それにしても凶悪な強盗団か……怖いな。

 寝る前に何度もゆっくり深呼吸して気持ちを落ち着かせ、魔法を使うイメージをしてみた。こういうのも魔法を強めたり、命中率を上げるのに必要なの。マルちゃんはいつも通りに狼の姿でグデンとしてる。さすがに余裕ね。

「あ~……なんて言うんだ、気持ちが疲れた。お前なら気楽でいいや」

 やっぱりだいぶ緊張はしてたんだね。

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