第13話 護衛のお仕事・前編

 目的地まで、半分以上進んだ。まだ冒険者として一人前とは言い難いけど、少しはしっかりしてきたかな。

 今日は小さな町に泊まっている。宿もあまりなくて、マルちゃんと泊まれるところは二軒だけ。安い方に泊まった。ちょうど他にも獣型の魔物や聖獣を連れてる人が居て、泊まれる宿がない時はいったん元の世界に帰すか、ちゃんと理性がある子なら一晩くらい外で待たせても平気だと教えてもらった。

 マルちゃんは外で待たせるわけにはいかないね。本当は魔物じゃないから。


 さて朝御飯も食べたし、依頼を探しに行くかな。ここのギルドはそんなに混んでいないから、私にも入りやすいわ。マルちゃんも、のそっとついてくる。

 依頼はあまりなくて、配達や採取、他には掃除とか。採取も簡単に見つかりそうじゃないな。モーリュって住んでた山には生えてたけど、生息場所を知らないと、探すのは難しいんだよね。

「こんにちは、これ受けます!」

 私は模様替えのお手伝いの依頼札を受け付けに出した。拘束時間が二、三時間程度と書かれていて、報酬は安いけど二人分の食事代くらいになる。

「ああこれ、棚の移動とかがあるから、男性がいいって」

 ごめんね、と断られてしまった。マルちゃんをチラリと見る。

「解った解った、手伝ってやるよ」

「やった! あの、私は召喚師なんで、契約している男性悪魔を連れて行きます。それでいいですよね?」

「悪魔か、そりゃいい。じゃあ頼むよ」


 ギルドの建物を出てから、マルちゃんが本来の人間の姿になった。依頼があったのはお店で、古い棚を新しい棚に入れ替えて商品を並べ直すというお仕事。騎士姿のマルちゃんが同行しているから、ちょっと恐縮されちゃった。そんな仕事をするようには見えないよねえ。

 今ある棚の品物はほとんど出してあったので、まずは残りを出して空っぽにするのを手伝う。これは私が手伝って、その間にマルちゃんが一人で空の棚をお店の外に搬出して行った。軽々と持っちゃうから、依頼主である年配の女性は驚いて、良かったと喜んでいる。

「助かるわ、私一人だと重いものは動かせないから」

「このくらいどうってことない。任せておけ」

 マルちゃんは頼りになるね。私も頑張ろう。設置してくれた新しい棚をキレイに拭いて、どかしてあった商品を並べる。商品は雑貨とか文房具とか、日用品なんか。依頼主である店主に配置を聞きながら、丁寧に配置した。


 全部替えたわけじゃなかったので、三時間で何とか作業は終了。

「で、外に出した棚はどうするんだ」

「それは普通の木だから、燃しちゃっていいの。後で解体して、自分でやるから」

「このまま燃せばいい」

 マルちゃんが棚に手を当てると、真っ赤な炎が燃え上がって棚を焼き尽くした。全部燃やしてくれて、黒い炭になってボロリと崩れる。

「こんなに簡単に!? ありがとうございます、とっても助かりました!」

 依頼終了のサインをもらって、再びギルドに行く。貰った報酬でご飯にしようっと。マルちゃんは力仕事の後は肉だと言っているから、レストランに入って好きなものを選んでもらう。骨付きの鳥のもも肉を注文していた。


「へえ、アンタ強そうだね」

 人間の姿のマルちゃんとご飯を食べていると、食事を終えて出て行くところだったグループが私達に声を掛けて来た。

「……何か用か?」

 お肉を食いちぎったマルちゃんは椅子から見上げながら、話し掛けて来た男性に尋ねる。

「仕事よ。今朝から東の町へ行く隊商の護衛をしているんだけど、依頼主がもう少し人数を集めたいんですって。高価な品を積んでるらしいわ。貴方、剣に自信ある?」

 杖を持った女性は、腰に私と同じDランクのランク章を提げている。最初に声を掛けて来たのは、剣を持ったCランク冒険者。それから戦斧を持ったDランク冒険者の男性の、三人組。


「あと一人、なんとAランクの魔法剣士が一緒なんだ。戦力はもうその人だけでもいいくらいに思えるけどね、隊列の前後を守りたいし、途中の野営で見張り交代もあるから。今から出て、夜は野宿になるよ」

「野営かあ。どう、マルちゃん」

 最初に声を掛けた人が説明してくれる。東へ行く仕事だし、せっかくだからマルちゃんさえいいなら受けようかな。

「俺は構わないが」

「……貴女、この騎士さんをマルちゃんって呼んでるの?」

 女性がスープを飲みながら聞く私に呆れている。

 あ、しまった。この黒一色の騎士姿に、マルちゃんはおかしかった。もう癖になっちゃってる。


「注意しても直らんから諦めた」

「……意外と気が強い娘さんだね」

 ガッチリ体型で戦斧を持った男性が、笑っている。わああ、これはちょっと考えた方が良さそうだ……!

 でも何て呼んだらいいんだろう。マルショシアスさん? マルショシアス君? 

 ……やっぱりマルちゃんが一番しっくりくるよ。


「で、どうする? 受けるんなら依頼主に伝えておく」

「あ、じゃあ受けます。食べたら出立予定でしたし、すぐに行きますから」

 護衛の仕事の経験にもなるし、ちょうどいいな。

「そんなに急がなくても大丈夫よ。ちゃんと待ってるわ。ただ途中からの加入だし、その分は差し引かれるわよ」

「食べ終わったら門の所に来てくれ、この町には昼休憩に寄っただけなんだ」

 三人はそう言って先にお店を出て行った。お待たせすることになると悪いから、早く食べて合流しなきゃね。


 待ち合わせ場所に行ってみると、商人らしき中年の男性が、さっきの護衛の冒険者たちと居るのが見えた。鈍い銀色をした軽装の鎧を身に付けた、枯草色の髪の男性も居て、みんなで話をしている。

「ヴィクトルさん!」

「これは、ソフィアとマルショシアス殿。同行するのは君達なのか?」

「はい、よろしくお願いします」

 知ってる人で良かった。近くまで駆けて行って、頭を下げる。さっきの三人は、驚いた眼でこちらを見ていた。

「貴女って、ヴィクトルさんのお知り合い?」

「はい、同じカヴンに所属してます」

「召喚術師か!」

 なるほど、と斧を持つ男性が大きく頷いた。ヴィクトルさんはAランクの冒険者だから、この辺りでは有名なんだって。

「そりゃあ頼もしい味方が増えた、よろしく頼むよ!」

 ニコニコしている中年の男性。依頼主の商人で、恰幅がいい。


「……」

 小悪魔がこちらを見ている。

「なんだ?」

 マルちゃんが近づいて声をかけた。今は人間の姿をしているよ。

「よ、よろしくお願いします。ここの荷物持ちなんかしてます」

「おう、頑張れよ。俺は護衛だ、何かあったら声を掛けろ」

「ハイイイ!!」

 やっぱり悪魔には解るのかな。小悪魔を召喚して、荷物持ちとか小間使いみたいな感じで契約している商人は多いらしい。小悪魔側も上納したいから、人を雇う感覚で金銭とかを代償にして、簡単に契約できるよ。


「よし、では出発しよう」

 商人が馬車に乗り込んだ。ヴィクトルさんは先頭について、私とマルちゃんは最後尾。声を掛けて来た三人の冒険者の内の二人は、馬車に乗り込んでいる。いざという時に依頼主を守る役目。

 五台の馬車が連なっていて、四台が荷馬車だ。これは確かに、護衛の戦力が多い方がいいって思うよね。マルちゃんはともかく、私は大丈夫かな……。襲撃者との戦闘経験なんて、無いんだけど。


「ねえマルちゃん、もし矢がきたらどうしたらいいの?」

「禁令があるだろ。だがお前にはまだ無理か。危ないと思えばしゃがんでおけ、俺の後ろにいれば一番安全だ」

「もっと魔導書、買いたいなあ」

「お前はそれより、一つ一つの魔法をしっかり使えるようになれよ」

 私達の会話が聞こえていて、商人と専属で契約している護衛の人と、使用人らしき男性が笑った。


「まだ自信がない冒険者さんみたいだね」

「討伐とか、経験が浅いんです。いつもマルちゃんに怒られてます」

「大丈夫、若いんだしまだこれからだよ。とはいえ、無理しちゃいけないよ。死なないように気をつけてね」

 そうなんだよね。護衛だし依頼主を守らなきゃいけないんだけど、自分が死んじゃったら意味ないものね。先生が教えてくれた強い防御の魔法、禁令があるんだから、これさえ使いこなせればかなり危険が減る。冒険者としては有利だ。しかもマルちゃんは爵位がある悪魔。とっても強いし空だって飛べちゃう。恵まれてるなあ。


 この日は特に何もなく、広い平野で野営をする事になった。マルちゃんは数日くらい寝なくても平気だから、一晩中見張りをしてくれる。簡単な夕食を食べて、テントでお休み。冒険者の女性と、使用人の女性も同じテント。

 横になったら、冒険者の女性が話しかけて来た。

「ね、貴女って召喚師なのね。もしかして、あのマルちゃんと契約してるの?」

「そうです、マルちゃんは悪魔なんで」

「本当!? 人間だと思ってたわ。強そうね、いいな。貴女、魔法は使えるの?」

「私は風属性の魔法を使うんですけど、まだ魔法使いとしてはホントに駆け出し程度で。簡単なのなら、防御や回復も使えますよ」

「私は魔法使いで、水の魔法が得意よ。ヴィクトルさんと一緒」

 そういえばヴィクトルさんの得意属性って、聞いてなかったわ。水なのね。


「水属性も、使いやすいですよね」

「そうなのよ、風と水はバランスが良い魔法よね」

 しばらく話をしていたら、後ろからすうすうと寝息が聞こえて来た。使用人の子も、二人ほど一緒にいたんだっけ。盛り上がっちゃって悪いことしたかな。

「……寝ましょっか」

「そうですね、まだ明日もありますものね」

 彼女も同じように感じたみたい。


「おやすみなさい」

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