第12話 『小さき光の会』というカヴン

 食人種カンニバルって初めて見たけど、本当に怖いというか……気持ち悪かった。私が住んでいた山にはいなかったよね。それとも、先生が倒してくれた後だったんだろうか。先生が契約している天使は、そういう人の害になる魔物を倒してくれるって言ってたな。


 さて、次の町に来た。今度はまた大きい町で、私の肩には妖精が乗っている。

 道行く人がたまに振り返る。可愛いよね、妖精。

 シャーレがあるから、早速入ってみると……

「あーーー!!」

 いきなり人差し指でこちらを指して、若い男性が向かってくる。

「妖精ではないですか! もしや同志ですか!? 僕は『小さき光の会』に所属するモルテンと言います!」

「ど、同志? 私は『若き探求者の会』の、ソフィアです」

 勢いに押されつつも自己紹介をする。後ろにいた狼姿のマルちゃんを下がった拍子に踏みそうになったけど、マルちゃんはするっと横に抜けて奥の方へ歩いて行った。


「同志ではないのですか……。興奮してしまって、すみません。僕たちは観賞用に売り買いされる妖精を助けようと、会をおこしたんです。あんな可愛くて力のない種族を販売目的で召喚するなんて、許されないですよ!」

 それで私の肩にこの子が座って機嫌よくしていたから、同志だと思ったのね。妖精を助ける会。とてもいいことだと思う!

「この子は、売り物にされそうになって逃げていたのを、保護しました。私は旅の途中だから、ずっと連れて行く訳にはいかないと思っていて……」

 事情を話すと、モルテンは両手を握って何故か天を仰いだ。


「同志、まさに同志です! そう、プリティーでビューティフルな妖精を、心無い人間の汚れた手で触れさせるわけにはいかない!! その心意気こそが、我らの信条! 君も仲間だ、素晴らしい!!」

 え、仲間はなんかヤダな。


「ところで、契約されないなら、我々に預けてもらえませんか? 他にも保護しています、仲間が居ますよ。送還が希望でしたら、元の世界に帰しますし」

「そうですね……」

 信用できる人なのかな。あの雄たけびを聞いたら、何かが不安だわ。

「その、保護している場所ってのを見せてもらえばどうだ」

「なるほど、まずはそうしたいです」

 マルちゃんの提案に乗っかると、相手は気を悪くするどころか嬉しそうに、うんうんと頷いた。

「妖精の安全を確かめ、幸せを願う。う~ん、まさに我が会の信念を貫く素晴らしい女性。名誉会員になれます」

「お断りします」

 おかしな勧誘だなあ。都会は本当に色んな人がいるのね。


 とりあえず仕事を探そうとギルドの依頼ボードを見ると、まさに妖精の捜索が出されていた。モルテンを呼んで、一緒に見てもらう。彼は私の一つ上の、Cランク冒険者だった。

「契約した花の妖精の捜索。数日前から行方不明で、町の外までは出ていなかった」

「おおお……、これもきっと昨今横行している、妖精の密売者の仕業に違いない……! 妖精を傷つける悪漢どもには、生きる価値がない!!」

 スゴイ怒りを感じる。報酬は低いけど、一緒に受けることにした。私ももし捕らえられているんなら、解放してあげたい。

 そうだ、先にモルテンに聞いておかないと。


「貴方が保護した中に、該当の子がいたりはしませんよね……?」

「大丈夫です、契約の有無は確認してあります!」

 良かった、うっかり誘拐犯になってるわけじゃなかった。妖精はオーケという名で男性型。契約してるのは初めて召喚が成功したという若い女性で、居なくなって一生懸命探したけど、見つからないという。これは町の中にはいないよね……。

 まずはこの町を一周して探し、一応いないか確認しつつ、目撃情報を聞き込んでみることになった。広い町なので、お店もいっぱいある。ついでに宿を探しておくか。

 

「……ねえ、同じヤツラとは限らないけど、私が売る為に召喚された場所ならわかるよ。他にいた子たちも気になるし……」

 私の肩の妖精が、話し掛けて来た。

「ほんと!? まず、そこに行ってみた方がいいかな」

「そうですな……、空振りであっても、妖精を助けることはできる。外れのない仕事です!!」

 モルテンはもうやる気だ。闇雲に探すより、いいかも知れない。明日みんなで、そこに行ってみることになった。来た方へ少し戻って、山を登るらしい。

「でももう買い手がついてるって言ってた。売られた後かも」

「その場合は、僕らが買った人間をできるだけ突き止めよう! その中にいるかも知れないし、安心してほしい」

 こういうことは初めてじゃないから、と。あんなに不審だったモルテンが、頼もしく見える!

「妖精の全ての要請に応える! それこそ我ら、『小さき光の会』!」

 うん、やっぱり変な人で間違いない。



 さて朝です。町の入り口で待ち合わせて、出発する。

 モルテンが装備しているのは槍。彼は槍を使う冒険者なのね。妖精と一緒の仕事だと、やたらウキウキしている。私の肩に座った妖精は、悪意は感じないけどちょっとキモチワルイと漏らしていた。

 平野をしばらく歩いて、木々が生い茂る細い道に入る。山に行くのが多い気がするな。山の中で育ったから、旅に出た感じが薄いなあ。

 少し歩くと登り坂になり、モルテンの歩みが遅くなってきた。

「き、君は山道、慣れてますね……」

「山の中の庵で修行してましたから」

「それは本格的ですね……、少し休みま、せんか?」

 まだそんなに歩いてないと思うんだけど、慣れてない人にはキツイのかな。よく見たら、槍の柄を杖みたいにしている。

「そうします? 着いた時にヘロヘロだと、どうしようもないですからね」

 モルテンは息を切らしながら何度も頷いた。


「お前の速度が速いんだろ。慣れてないヤツと山を歩く時は、もっとゆっくり歩け。相手に合わせることも覚えろよ」

 マルちゃんに注意された。確かに少しゆっくりめとはいえ、自分のペースで歩いてしまっている。これから戦うかも知れないんだから、一緒にいる人のコンディションも気にしないといけないね。

 道に適当に座って、飲み物を飲んで息を整える。

「あと少しだと思う。頑張って」

「おおおおおお! 妖精の励ましとは、元気百倍一万倍になります! 頑張ります、力の限り頑張りましょう」

「近くだって言われたろう。騒ぐんじゃない」

 妖精に応援され、悪魔に諭されたモルテンだった。


 しっかり休憩してから、山登りを再開する。

 ペースに気を付けながら歩いていると、木で出来た家が葉っぱの間から見えてきた。多分、アレがそのアジトね。慎重にゆっくりと近づく。

「待ってて」

 妖精が私の肩から離れて、建物の壁に飛んで行った。窓から見つけられないよう、窓辺を避けて周辺を確認して戻って来る。

「どう?」

「中に人がいるみたい。声がするし、一人じゃないよ」

 何人いるかは解らないけど、複数の人間がいるようだ。

 私達は音をたてないように、神経を集中させながら建物に近づいた。途中でマルちゃんが、表の玄関に回れと言い残し、反対側の窓に人の姿で向かって行く。

「変身した……」

 モルテンも妖精も、驚いている。


 マルちゃんが追い立てて、こっちに出てくるのかしら。自信がないけど頑張らないと! 言われたとおり玄関側に回り、中の様子を注意深く窺った。

 ガタンバリンと、何かがぶつかるような音やガラスが割れる高い音がして、続いて人の怒号が飛び交う。始まったわ。

 モルテンが、槍を構えて扉の前に立つ。

「扉を開けて、いったんドアに隠れてください」

「はい」

 妖精には犯人たちに見つからないよう身を隠してもらって、私はドアノブに手を掛けた。鍵はかかっていない。山の中だし、誰も来ないと思っているのね。

「いきます!」

 思い切って扉を引いて、モルテンの邪魔にならないようにする。彼は中の様子を確認して一気に踏み込む。


 ちょうどこちらに逃げて来た男性に、ヒュッと槍を振った。

「うわあ、表からも来たっ、ぎゃああ!」

 無防備だった相手は、避けようとしたものの体を槍が掠め、体勢を崩して床に倒れた。槍の柄でガンと打ち、モルテンは次の相手に向かう。

 もう一人玄関から逃げようとした相手に、今度は私が杖を向けて魔法を唱える。


「大気よ渦となり寄り集まれ、我が敵を打ち滅ぼす力となれ! 風の針よ刃となれ、刃よ我が意に従い切り裂くものとなれ、ストームカッター!」


 丸い真空の刃が飛んでいき、相手に当たった。魔法から身を守る護符を持っていたみたいで、砕けて床に落ちる。その為に怪我は大した事がないんだけど、やって来たマルちゃんに殴られてスッ飛んじゃった。

「剣を使うまでもない連中だ」

「……強いですね、この方……」

 はあ、とモルテンが感心しながらマルちゃんを見る。

「あっちの部屋に妖精が捕まってるぞ。俺だと怯えるからな」

 そうだわ、マルちゃんは悪魔だから、妖精には怖いみたいね。モルテンがすぐに助けに向かった。私と一緒にいた妖精が、恐る恐る玄関から姿を見せる。

「もう終わったの……?」

「だいたい終わりだと思うよ。仲間の子、まだ居るみたい」

「ホント!?」

 すぐにトンボみたいな透ける羽根をヒラヒラさせて、家の中に入って来た。奥にある部屋に向かって、鱗粉みたいに光を散らしながら、飛んでいく。


「わああ、みんな大丈夫!?」

「助かったんだな!?」

「良かったあ、ありがとう~!」

 どうやら何人かの妖精を助けられたみたい。依頼の子は、この中にいるのかしら。

男性の妖精もいるし、確認してみよう。

「オーケって言う名前の妖精は、いるかな? 彼を探しに来たの」

「ここにはいないよ。先に売られた中に居るかは解らないけど……」

 ありゃ、依頼としては失敗だったわ。また探さないといけない。


 マルちゃんは犯人たちを縛り上げていて、モルテンはその間に引き出しなんかを漁っている。

「何か探してるんですか?」

「売買の契約書とか、記録とか、そう言うのがあれば辿ることが出来るんです」

「なるほど!」

 私も箪笥を開けて、怪しいものがないか探す。マルちゃんは捕縛しながら色々問い質して、少し前にも取引をした事を聞きだしていた。


 書類を探して妖精を助けて、縛るのもできた。あとは町に戻って、守備兵に伝えるのね。依頼は終了じゃないけど、ギルドにも知らせた方がいいのかな?

「ごめん、先に報告しに戻るね。妖精たちと後から来て」

 モルテンに告げると、黒い狼の姿に戻ったマルちゃんに乗って、空を飛んで町を目指した。早い方がいいからね。

「ああ~! いいなああ!!」

 残されたモルテンが、羨ましそうに声を張り上げた。


 その後、守備兵が捕まえに行ってくれて一味は捕まった。これから売られた先を探して、地道にモルテンが捜索を続けてくれる。私はもう出発するよ。私は報奨金を貰ったから、それでオッケー。

 私に同行していた妖精も、モルテンに預けた。あの子も皆の所に居たいって言ったから。モルテン達が妖精を保護している家は、妖精が住みやすいようにしてあって、確かに情熱と拘りを感じたよ。


 召喚した相手を売買する事は、この国では禁止されているの。他の国はどうか知らないんだけど。だから購入しちゃった人はそれだけでも犯罪だし、罰金を払った上で返さなきゃならない。契約があるのならそれと別に、相手方にも慰謝料とかを取られたりする。

 損しかしないから、自分で召喚を勉強したりする方がいいのに。

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