第11話 行方不明事件を解決せよ!

 次の町を目指して歩いていると、草むらで男性達がガサガサと何かを探している。

「いないぞ、こりゃ逃げられたか」

「ドジ踏みやがって!」

「まだ遠くには行ってないはずだ、しっかり探せ」

 杖を持った魔法使いっぽい人に、虫取アミを持ってる人もいる。何に逃げられたのかしら。


「ねえマルちゃん、手伝った方がいいかな?」

「ほっとけ。どうせロクなもんじゃない」

「そっか」

 気にはなるけど、そのまま横目に通り過ぎた。男性達の姿はどんどん遠く、小さくなっていった。今度は草の間で、何かが輝いた気がする。私はどうしても気になって、そっちに行ってみた。

「おい、今度は何が気になった」

 後ろからマルちゃんが呆れた声をだす。

「光がみえて、あ!」


「見つかった!? わああん、私は食べても美味しくないわよ~!」

 手のひらに乗るくらい小さな女の子で、背中にトンボみたいな、キレイな透き通る羽根が四枚生えてる。羽ばたくと、羽根から黄色い光がチラチラこぼれた。これが見えていたのね。

「妖精だ。かわいい」

「いやあ! 悪魔と人間!?」

 怖がっている。もしかして、さっきの男達が探していたのがこの妖精!?

「あの、大丈夫だよ。悪い人に追いかけられてるの? その人達なら、向こうに行ったから」

 男達が探して進んで行った方に顔を向けて指すと、妖精は草の間から体を出して、そちらにじっと目を凝らした。


「あいつらの仲間じゃないのね……? 良かったあ」

 ホッと息をついて、ピンクの花に座った。黄緑色の服を着て、長いブーツを履いている。髪は明るいオレンジ色。

「私は召喚術師のソフィアっていうの」

「召喚師なの?」

「そうよ。困ってるなら助けたいんだけど、私に出来ることってあるかな?」

 この子が帰りたいって言うなら、帰してあげたいんだけど。

「はちみつ食べたい」

 お腹が空いているみたいね。まずは町ではちみつを買うかな。近くの町を目指して、一緒に行くことにした。妖精は私の肩にフワリと座る。軽いなあ。


「あなたの名前は?」

「ないわよ。私達には、名前なんてないわ」

「こういうタイプ妖精は、自然発生的に生まれるもんだ。名前を付けるのは、人間が契約する時なんだよ。契約しないなら、勝手につけるなよ」

 うっかり名前を考えそうになっていたから、注意してもらって良かった。契約はしないかな。旅には向かなそうだもんね。

「そう言えば、なんで追われてたの?」


「それよ、聞いてよ! 召喚されてこっちに来たら、小さな部屋で。捕まってる子がいたから、すぐにピンと来たわ。私達を売るつもりなのよ。妖精の間で、悪い人間が観賞用に売買してるって噂があったの」

「何それ! 酷い話ね。他の子も助けてあげたいけど……」

 この子みたいな花や草の妖精は、小さくて可愛い戦う力がない種族。それを召喚して販売しようなんて、ヒドイ話だわ。この世界ではあんまり生まれないけど、ゼロではないみたい。

「……もうすぐ買い手と会うって言ってたわ。間に合わないかも……」

 寂しそうにしてる。仲間も助けてあげたいけど、何処に売られるか解らないんじゃ、どうしようもないわ……。召喚されたのは、山の中にある小さな小屋だったらしい。こっそりとやっているのね。せめて、この子だけでも守ってあげないと。


 着いたのは小さな町で、シャレーはなかった。妖精の話をしておきたかったんだけど。でももう、みんな知ってるのかな。

 冒険者ギルドは町の入り口近くに建っていて、やっぱり小さめ。お仕事も大したものがなかった。気になるのは、一つくらいかな。

「あの、この行方不明の人って言うのは……」

 薬草採取やキノコ狩りなんかで山に入った人が、何人か戻って来ないみたい。

「それねえ……。今の所、四人ほど戻らなくて。一人は武器を持った冒険者だし、危険だと思う。町長に、兵を頼んでくれってお願いをしてるのよ」

 町を守る兵隊も少しいるけど、どの程度危険か解らないから、領主さまにお願いして調査の為に派遣して欲しいみたい。確かに、これで町の守備の兵まで戻らなくなったら大変なことだ。


「……様子を見てきますね。マルちゃんがいるし、この子の背中に乗れば飛べますから。危険だったら飛んで帰ってきます」

「助かるわ! 何でもなければいいし、もし危険な魔物がいるとなったら、すぐに派兵してもらえるよ」

 行方不明になった人が向かったと思われる場所を聞いてみた。詳しくは解らなかったけど、山入りした道は同じだったから、とりあえずそこから入ってみる。採取やキノコ採りでいい場所を知っている人は、ソコを教えないものみたいだからね。

 まず軽く森の様子を見て、一泊して明日また詳しく調査するつもり。


「……なんか、この森、怖いのいるね」

 肩に座った妖精が、羽根を震わせた。

「解るの?」

「血の感じがする。すごく、濃い」

「妖精ってのは、弱い分だけ危険に敏感な生き物だからな。こいつが嫌がる方に行けばいい」

 こりゃいいやと、喜ぶマルちゃん。嫌がらせみたいだけど、やみくもに歩くよりもいいかも。

「絶対守るから、教えてくれる?」

「う……、うん。怖いけど、助けてくれたし……。がんばる」


 人が一人やっと通れるような、土を踏み固めただけの細い道。木の枝が落ちていたり、葉っぱや木の実が散らばってる。つい最近も誰かが通っているような、感じがあるな。しばらく進んで行くと、だんだんとほとんど道じゃないような感じになってきた。山に慣れてる人達とは言え、本当にこんな所を一人で行ったのかな。

 不安になりながら、さらに一歩を踏み出した。

「……え、あれ?」

 景色も何も変わりはないのに、突然聞こえていた鳥の声などが消えた。何か、未知の領域に踏み込んだような……。

「入った、ここ、おかしな場所」

 妖精は更に怯えて、私の耳の辺りにしがみ付いている。


「……また来たね、私の餌が……」

 声の主は女性のような姿だったけど、人間とは決定的に違っていた。長い白髪が乱れ、覗く顏は人とは思えない醜いもので、大きく裂けた口から生えている堅そうな牙。口元は赤く濡れて血がしたたり、そして地面には……引き千切られ、食い散らかされた遺体!!

「リオウメレ! 縄張りを作って住み、入り込んだ生物をむさぼり食うオグレスだ! 下がってろ、ソフィア!」

 マルちゃんが即座に人間の姿になり、剣を抜いた。

 愉悦の表情で襲い掛かるリオウメレに走って近づき、爪と牙を躱して、ザッと横に斬りつける。いったん通り過ぎたかと思ったらクルリと振り返り、対応できずにいるリオウメレに剣を振り下ろした。斜めに大きな傷ができて、血を出しながら倒れる。


「行くぞ。被害者は全員食われた」

 マルちゃんは倒れたリオウメレの首を刎ねて、証拠として牙を折って歩き出す。私もここに居たくないし、見たくないから逃げるようにその場を後にした。帰り道は行きよりも短く感じた。


 返り血を浴びたマルちゃんが、ギルドの扉をバンと開く。受け付けにいた女性は、驚いて立ち上がった。ツカツカと歩いて真っ直ぐカウンターに向かい、大きな牙を置いて見せた。

「山の魔物を退治した。証拠だ」

「先ほどの、依頼の……!」

 女性は私の姿を確認して、慌てて他の人を呼びに走る。そうだった、マルちゃんは騎士姿じゃなかったもん。何事かと思うわね。


「行方不明事件が解決したのか!?」

 やって来たのは年配の男性で、ここの責任者なんだろうか。

「リオウメレという、オグレスが巣食っていた。全員食われたろう、まだ食い散らかしがある」

 マルちゃんは山の簡易地図を見ながら、ここだと指で示す。男性がペンで印をつけて、明日人数を集めて確認に出ると言った。もしかしたら生存者がいるかもと、僅かな希望を持って。

「悲惨な現場だ、気の弱い人間は連れて行くな」

 私は怖くて、あまり見ないようにしてしまった。肩に乗ってる妖精も、全然喋ってない。だいぶショックだったみたい。助かったけど、連れて行っちゃって悪い事をしたな……。


 討伐までしたから感謝されて、報酬を受け取って依頼の終了処理をしてもらう。宿も紹介してもらった。今日はさっさと休もう。夕食はあんまり食べる気にならなかった。

「人間みたいな体でそれより一回り大きい、オーグルという食人種カンニバルが居てな、女がオグレス。通常のオグレスはそんなに残酷じゃないんだが、今回のリオウメレはオグレスの中で一番ヤバイやつだ」

 宿の部屋では、マルちゃんの魔物講義が開催された。リオウメレは住み着くとそこに迷い込んだ生物を、動物でも人間でも食べてしまうらしい。


「あ~、肉食いてえなあ」

「あれを見た後で、食べる気にならないよ!!」

 マルちゃんは人間を食べたりしないんだよね!??

 ちょっと不安になってきたよ……

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