第7話 カヴンの先輩
同じカヴンの人と出会って、町へ引き返すことになった。私はマルちゃんに乗って……と思ったら、マルちゃんはドラゴンの胸を引き裂いていた。
「え、何してるの?」
「知らないのか? これだよ」
マルちゃんがスノードラゴンから取り出したのは、血のついた透明な石。
先生の所で見たことがある。なんだっけ、ええと。
「やっぱ、あんま大きくないな。でもドラゴンティアスだからなあ」
「そっか、ドラゴンティアス!」
薬の材料になる石で、中級以上のドラゴンからしか採れないの。高値で取引されているらしいわ!
「鱗はどうする?」
ドラゴンの近くへ歩いて行ったヴィクトルが、斬り裂かれた白いお腹を見せて倒れている、スノードラゴンの背中側に回った。
「これだけで十分だ。あまり固くないだろ、このドラゴンの鱗」
「なら私が二、三枚貰ってもいいだろうか。水系の護符を作る時に使えるから、魔力が多い心臓近くはそれなりの値で売れるんだよ」
「それは知らなかったな。採っていけ、ソフィアを助けた分だ」
二人で綺麗な状態の鱗を選んで剥がす。マルちゃんは全身黒だけど、ヴィクトルは鈍い銀色をした軽装の鎧。枯草色の髪をしている。
作業が終わると、マルちゃんは乗れとばかりに犬じゃなくて狼の姿に変わった。
「おお!? 変身できるのか、すごいじゃないか」
「こっちが仮の姿だ」
グリフォンみたいな翼をバサバサと動かして、空を飛ぶ。けっこう気持ちいい。
「いいのと契約してるいるね、ソフィア」
「はい、マルちゃんはとっても強いし、助かってます!」
飛んでると風の音がするから、つい声を大きくしちゃう。
町はすぐに見えてきた。高度を落として、ゆっくり近づく。門の外で降りて、一緒に町の中に入った。
「ではまずは、これを換金しよう。ギルドでいいだろう。ついでに報告しないと、先を越されたね」
「報告? 何かありました?」
「何かじゃないだろ、雪が積もった原因だ! スノードラゴンの仕業と解っただろうが!」
「あ、それかあ!」
うっかりしていて、またマルちゃんに怒られた。ブレスを吐くドラゴンなんて初めてだもの、ビックリして全部忘れちゃったよ。ティアマトは見たらしいけど、全然覚えてない。黒い怖いのが襲ってくる、っていう記憶しかないんだ。
マルちゃんが騎士の姿になって、ついて来てくれる。私がスノードラゴンって言っても、説得力が全然ないから。Eランクだし。
冒険者ギルドに入ると、マルちゃんはまっすぐ受け付けに向かい、ドンとドラゴンティアスを置いた。
「雪が積もった原因が解ったぞ。スノードラゴンのブレスによるものだった。退治もした、これが証拠になるだろう。買い取りも頼みたい」
「は、はい。少々お待ちください、私では判断しかねますので!」
受け付けの女性が、慌てて奥に走って行く。
「お待たせしました、ドラゴンの件は奥でお話を伺っても宜しいですか?」
「大丈夫だろう、ソフィア?」
「は、はい。ちゃんと説明できるか解りませんけど……」
なんだか大事になりそう。隣のサロンになっているスペースの奥に扉があって、その向こうに応接室があるみたい。男性の後について移動していると、買い取りカウンターで素材を渡したヴィクトルも、こちらに来てくれた。
「査定は任せておくよ。この子では不安だから、一緒に説明する」
良かった、助かった。私達と一緒に部屋へ入る。
二人掛けソファーに私とマルちゃん、向かい側にヴィクトル、一人用ソファーに案内してくれた男性が座った。
「私はギルド長を務める者です。アレは確かにドラゴンティアスでした、しっかり買い取りをさせて頂きます。それから、スノードラゴンですが……」
質問にヴィクトルが答えてくれる。
「遺体はそのままにしてしまったから、あとで処理してほしい。吹雪を吐くドラゴンで、中級の下の方という感じかな。私はヴィクトル、Aランクの冒険者で、この子はEランクのソフィア。これで間違いなくランクアップできるだろう」
「貴方が討伐されたのではないのですか?」
ギルド長がヴィクトルに訪ねる。まあ、当然の疑問だよね。
「彼女と、この契約した……なんて説明すればいいのかな? ん~……悪魔、悪魔だね。この二人が討伐したよ」
ジッとマルちゃんを凝視して、悪魔だと見抜いた。私はまだ悪魔だって教えてもらわないと解らないな。
「悪魔! はあ……、この子は立派な召喚術師なんですね」
「私と同じ、『若き研究者の会』に所属している。私は召喚術師としては芽が出なかったが、彼女は有望なんだ」
「それは先が楽しみだ! そうだった、ギルドカードを出してくれるかな。記録しないとね」
私がギルドカードを渡すと、ギルド長はすぐに近くにいた人に預けて、任務完了の手続きをしてくれた。そしてこの依頼で、Dランクにランクアップ! これからは受けられる依頼ももっと増えるよ。特に討伐。
手続きを待つ間、スノードラゴンとの戦いをマルちゃんが説明してくれて、特に問題もなく終了。雪の原因もそれで間違いがないだろうと、改めて納得してくれた。
「色々、ありがとうございました」
「こちらこそ、おかげで稼げたよ」
お互いに素材が売れて、満面の笑顔。討伐の報酬も出たし、ドラゴンティアスは思っていたよりいいお金になった。しばらく宿や食事の代金は心配いらないよ。
「まさか同じカヴンだったなんて」
「なかなか会えないからね、所属している会員数はかなり少ない方だ。それはそうと、もっと自分自身の攻撃手段や身を守る防具なんかを揃えないと。せっかくまとまった収入があったんだから、こういう時に買っておいた方がいい」
あ、そうだった。魔導書を買おう。ローブもあった方がいいかな。
「いい悪魔と契約したね。私は妖精としか契約できていないんだ。魔法も得意な先生だったから、結局魔法ばかりを習ってね。それと剣の稽古をして、冒険者をしてる。こっちのランクは上がったけど、『森の隠者の会』に入る夢は断たれたよ」
ヴィクトルは、他でもなく先生のカヴンに憧れて召喚術を学び始めたのね。でも、召喚術の才能はなくて、魔法と剣の腕がメキメキと上達した。冒険者としては一流でも、『森の隠者の会』には入会できない。
だから、有能な召喚術師には協力したいんだって。
有能って、私も入るの!?
「でも、Aランクなんてスゴイですよ!」
「ありがとう。君こそエステファニア先生と言えば、軍の暴走を止めようとした英傑だよ。いい先生に教わったね。結局最悪の事態になってしまったけど、ああいう召喚師が居てくれることが、誇らしい」
先生は軍部の説得に失敗してから退役して森に隠遁し、この時の出来事がもとで『森の隠者の会』に勧誘されたんだって。カヴンの中では有名な話みたい。
「ま、これからこのひよっこを宜しくな。俺はマルショシアス、地獄の侯爵。覚えておけ」
「……爵位があるだろうとは思っていたけど、凄すぎないか、ソフィア……!」
マルちゃんの自己紹介を聞いたヴィクトルが、目を見張っている。
「爵位があるって、貴族だから偉い人ですよね。侯爵だとすごいんですか?」
「あ、爵位を理解してない?」
「……ここまでバカ娘だとは、俺も思わなかった」
二人とも呆れた顔をしてるけど、普通の人には貴族の違いなんて解んないよ。ましてや、私は森の中で育ったんだもん。
結局、もうどうでもいいと、説明してもらえなかった。どうせ難しくてまた忘れちゃうから、いいや。
ヴィクトルと別れてから私は、またあの魔導書店にやって来た。お婆さんがお店番をしてるお店。
「こんにちは、お婆さん。ストームカッター、買いに来たよ!」
「おや、ずいぶん早かったね。もう依頼をこなしてきたのかい」
「そうなんです。それでお金が入って」
場所は覚えていたから、すぐに棚からとってお婆さんに渡す。お金もバッチリ。
「はい、確かに受け取ったさね。ありがとよ」
「こちらこそ、ありがとうございます。魔法の事で迷ったら、相談に来てもいいですか?」
「いつでもいいよ、暇だしね。買う程お金がなくても、気にしないで入っておいで」
「ありがとう!!」
私におばあちゃんがいるのかは解らないけど、いたらこんな感じなのかな。相談できて、陽だまりみたいでまた会いたくなる人。
私は店を出て、狼の姿のマルちゃんと次の町を目指すことにした。
お婆さんが見送りに出てくれたことは、気付いていなかった。
「……あの子、悪魔と契約してるのかい……。あれは立派な召喚師だね」
私を褒めてくれてた事も聞こえていなかったけど、マルちゃんは少しだけ顔を動かして、視線を後ろに向けてから歩き出した。
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