第5話 初めての共闘作業

 宿に泊まり、買っておいたパンを部屋で食べてから、ギルドへ行ってみた。

 人がたくさんいる。この中に入るんだろうか。躊躇していると、後ろから来た人の邪魔になっちゃう。よし、入ろう!!

 何とか意を決して入ったものの、人だかりになっている依頼ボードに近づけない……。仕方なく奥にあるサロンスペースの椅子に座って、様子を眺めていた。

 これが都会……。早くも負けそう。


「わあ! この魔物、あなたが契約してるの!?」

「はい、そうですけど」

 見上げると女性が二人、マルちゃんの近くに立っていた。腰に剣を佩いた人と、もう一人は弓を持っている。二人組の冒険者かな。話し掛けてきたのは、弓を持ってる方の人。

「私達と仕事をしない? 実はね、黒い犬型の魔物の討伐を受けたんだけど、数がちょっと多そうで。二人だと厳しいから、メンバーを募集しようとしたトコ」

 彼女たちは、私の上のDランクのランク章を腰にさげている。やった、これで依頼がこなせる。Eランクの私だと受けられないレベルの討伐でも、基本的に代表者のランクで判断されるからね。


「助かります! 田舎から出て来たばかりで、人がいっぱいいて気後れしちゃって」

「あはは、あたいも最初はそうだったさ。あたいはディーサ」

 剣士の女性が豪勢に笑った。紺色の短い髪の女性だ。

「私はリネーア。よろしく」

 弓を持った女性が手を差し出してきたので、握手をした。水色の髪を後ろで結んでるけど、あまり長くはない。


「私はソフィア、召喚術師です。よろしくお願いします」

「魔法なんかは使えるかい?」

「はい、初歩の魔法だけですけど。回復とか防御とかで、まだ攻撃は一つだけしか知りません。得意属性は、風です」

 ガッカリさせちゃったかなと思ったけど、二人はむしろ喜んでる。

「回復、助かるわ! ならポーションは買わなくていいかな?」

「でも弱い回復だけですよ」

 アイテム代が浮くと喜ぶリネーア。私の回復だと酷い怪我は治せないんだけどな……! 期待されすぎてないかな、大丈夫かな。


「あのなあ、お前は俺に頼っててもいいんだよ。やれることをやれ」

 不安になってオロオロしてると、壁際で寝そべっているマルちゃんが片目だけ開けてこちらを見た。

「そ、そっか。よろしくね」

「すごいじゃん、この子喋るのかい?」

 剣士のディーサが、感心してマルちゃんの黒い背中を撫でた。グリフォンのような羽根はたたんである。

「はい。口は悪いですけど」

「ほっとけ!!」


 魔物退治は午後から。正午に西門の所で待ち合わせ。魔物が出るのは、街道を西へ進んで森に少し入った辺り。数が何頭も目撃されているらしいけど、実際にどのくらいいるかは解っていない。

 私はとりあえず、杖か何か魔法の補助になるものを買う事にした。修行中は極力道具に頼らないという先生の方針で、持っていなかったの。

 指輪の護符は邪魔にならないけど高いし、短剣、棒……。うーん、邪魔になるけどやっぱり杖かな。比較的安い樫の木の杖を一本買って、早めにご飯を食べて待ち合わせの場所へ向かった。


 二人は先に来ていて、手を振っている。

「お待たせしました、すみません」

「大丈夫、時間よりまだ早いよ。早速行かれる?」

 弓を持ったリネーアは、朝の時よりも防具が増えている。

「はい、もちろんです!」

「じゃ、行こっか!」

 剣士のディーサの掛け声で、三人と一匹で歩き始めた。


 歩きながら二人の冒険の話や、私が先生の山奥の庵で修行してた事などを話して、魔物が出た時の対処なども確認する。二人は明るくて気さくなのでとても話しやすくて、目的地まですぐに感じちゃうほどだった。

 森を抜ける馬車の為の広い道を、警戒しながら進む。

「……こりゃ結構な数がいるな。気を引き締めろよ」

「マルちゃん、解るの?」

「鼻が利くんだよ」

「さっすがだね。二人とも、まずは頼んだよ!」

「「はい!!」」

 剣士のディーサが構えている。私達は魔物の姿を見たら、まず遠距離から攻撃する係。これで数を減らす。


 じっと見ていたら、森の闇から赤い目が光って見えた。

 木の間から一匹、また一匹と、毛むくじゃらの黒い犬が出てきた。片目しかないのや、緑の目の犬もいる。

「ブラックシャック!! 気を付けろ人間共、緑の目の奴は病にする黒いブレス、赤い目の奴は炎の息を吐く。強くもないし距離も出ないが、接近されたら厄介だ!」

 それじゃ、剣士のディーサが一番危険!!

 リネーアが弓を番え、狙いを定める。私も攻撃しないと!


「大気よ集まりて固まれ、我が敵を打ち滅ぼす力となれ! 風の針よ刃となれ! 鎌となり、剣の如く斬りつけよ! ウィンドカッター!」


 かまいたちのような風の刃がブラックシャックに向かって発せられ、傷を与えて通り過ぎ、黒い犬は血を出して倒れた。でもこれだと、一発でせいぜい二匹。十匹どころじゃない数が居る、全然間に合わないよ! リアーネの矢もピュンピュンと放物線を描く。

 ブラックシャックは倒れた仲間を飛び越えて、こちらに向かって来た。

 着地する前に、ディーサの剣が斬り裂く。すごい、早い!

「とにかく落ち着いて仕留めていくよ、一発も無駄にしないようにするんだよ!」

「はい!」

 返事をして、また同じ魔法を唱える。これしか知らないんだもん! もっと増やしたい。先生は魔法に関しては基本だけ教えてくれて、後は自分で学ぶようにって方針だったの。


 違う方向から来たブラックシャックに魔法をぶつけている間にも、ディーサに黒い犬は飛びかかろうとしている。一匹を斬って、振り返った時にはもう近くに居た。

「うわ、くそ……!」

 喉元目掛けて飛び上るソレに、一回り以上も大きくグリフォンの翼を生やしたマルちゃんが体当たりして、地面に叩き落とした。噛みついて息の根を止め、素早く近くにいる他のブラックシャックを前足で叩き、銜えて放り投げる。

「やるわね、あなたのマルちゃんってコ!」

 リアーネが矢を矢筒から取り出しながら、マルちゃんが駆けまわって倒しているのを確認する。移動するのと反対に居るブラックシャックに矢を放った。うっかり味方に当てたら、大変だもんね。私はまだこの辺のタイミングとかが解らなくて、魔法がゆっくりになっちゃう。もっと魔法や、一緒に戦う事も練習しないといけない。


 二十匹以上いたけど、なんとか退治できそうと、安心した時だった。

 緑の目のブラックシャックが吐いた息が、ディーサに掛かった。これ、病気になるって言ってたヤツ!? 彼女は咳き込んで、口を押えた。

「グガウウ!」

 大きな口を開けて、とどめをさそうと迫るブラックシャックを、マルちゃんが飛んできて、上から乗っかって地面に一緒に落ちた。良かった、間に合った!

 これが本当の最後の一匹で、犬をマルちゃんが噛み殺すという終わり方になった。


「大丈夫!?」

 リアーネが慌ててディーサに駆け寄る。ディーサは早くも顔色が悪くなっていて、寒気がするみたい。自分の手で腕をさすった。

「ソフィア、毒や穢れを払う魔法は知ってるか? そういうのでだいぶ治るはずだが」

「知ってる! 唱えてみるね」

 私は杖をしっかりと持ちなおして、ディーサの前に立った。


「曙にかかりし細き雲、苦痛を拭う綿となれ。よどみを流す科戸しなとの風よ、翼を広げて穢れを払いたまえ。熱き痛み、煙となりて去らん。レタブリスマン」

 

 パアッと黄緑に輝いて、黒い何かが体からふわりと抜ける。ディーサの顔色は、すぐにだいぶ良くなってきた。

「ありがとう……! すごいわ、ソフィア!」

「良かった、効果がありそうね。戦闘であんまり役に立てなかったから、悪いなって思ってたの」

 ディーサはなんとか歩けそうなので、二人で交代で肩を貸しながら町へ戻った。マルちゃんは本当に、乗せてくれなかった。病人なのにっ。


 ギルドの窓口で討伐部位である耳を出して、依頼は完了。ギルドが想定していた数より多かったので、提示されていたよりも多くお金がもらえた。嬉しい。この依頼はこの町の町長と、あの道を使わないと行かれない村の村長からの共同依頼。反対側に進んでも、しばらく森は抜けられないの。兵隊はまだ調査にも派遣されてなくて、でもあの道が通れなくなると困るから、ギルドに依頼として出したんだって。

 今回みたいな、個人じゃなくて地域や組織からの依頼は、討伐状況によってギルドの裁量で増額が出来る。これは覚えておこうっと! 依頼の内容と一緒に、依頼主も確認しておいた方がいいのね。


 二人はここで体を休めるから、お別れ。私はもう夕方だし一泊して、次の町へ向かう。次はどんなことがあるかな。マルちゃんって、狼の姿でも強いのね。魔物も知ってたし、実はけっこう物知りなのかな? あの魔物は川や湿地に生息するから、奥に沼か何かあるんだろうと教えてくれた。

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