第3話 都会です!

「こんにちは~! 依頼の配達に来ました」

 ギルドに荷物を届けて、お金を受け取り終了の処理をしてもらう。なんだか一人前になった気がするわ。今までも少しは仕事を受けていたけど、先生の助言を聞けたからね。

「さてと。次の依頼は、と」

 依頼札が掛けてあるボードを確認に行こうとした時だった。

「誰か誰か、助けてえ~! ゴーレムが暴走しちゃったの!」

 女性が飛び込んできた。

 ゴーレムとは、ラビという特殊な律法学者が作る、二足歩行の護衛用の兵器って言うのかな。土や石で形を作って、魔力を籠めて使用する。


 何だか外も騒がしい?

 私はマルちゃんと一緒に外へ出て、みんなが見ている大通りの先に視線を向けた。

 二メートルくらいある石造りのゴーレムが腕を回したりしながら、道の真ん中をズシンズシンとゆっくり歩いている。人のように四肢があるけど四角で出来た体で、かなり固そう。目の部分が赤く光っている。アレが暴走したゴーレム?

「壊してもいいから、止めてええ!」

 女性の悲痛な声が響いて反射する。

 剣や槍を持った冒険者と兵士が数人、集まって様子を見ている町の人の前に守るように立ち、魔法使いが魔法を唱えようとしてるみたいだったけど、先にマルちゃんが四本の足でタタタッと風のように進んだ。

 そのままゴーレムに突進して、腹の真ん中に激突。ゴーレムは壊れ、マルちゃんは突き抜けて空に居た。

「う~ん、思ったより脆いもんだ」

 御不満なのかしら。


 周りからは拍手喝采、ゴーレムの残骸の石が残された。

「あああ、ありがとう~! あ、そうだった。依頼に来たんだもの報酬と、依頼として出して終了させなきゃね。貴女のポイントにならないわ」

 そう言えばそうだわ!

 ギルドの窓口で手続きしてもらって、私の会員証に依頼の受注と終了を記録!

 さて、次は宿探しね。召喚術師のシャレーは、このギルド内にはないわ。さすがに大きな町、シャレーが独立してるのね。


「マルちゃん待ってて、まずは宿を聞いて来る」

「あら、泊まる所を探してるの? うちで良かったら来る?」

「いいんですか!?」

 嬉しい申し出だ! 宿代が浮くかも。

「うん、すごく助かったし。工房も兼ねてるから、ちょっと散らかってるけどね」

 やったあ、それに工房って面白そう。彼女は一人暮らしで、前は仲間もいて一緒に暮らしてたんだけど、みんな独立したんだって。話をしながら歩きつつ、案内されたのは郊外にあるわりと広い家。


 四角い石が庭に幾つも転がっていて、屋根のついた囲いの中には、赤茶色の土が山になっている。工房って、ゴーレム工房だったのね! 作りかけが他にもあるし、色々な素材や工具、それに本なんかがあちこちに散乱していた。作業スペースと住居の間には壁があるけど、横開きのドアは開けっぱなしで、中が覗けちゃう。

「……こんな環境でゴーレムを作るから、暴走するんだ」

 マルちゃんは呆れ顔。


「片づけ苦手なのよ~」

 台所でヤカンを火にかけ、お湯を沸かしている。料理はあまりしていないみたいで、調理台には使ったままの食器が置いてあったり。ご飯も途中で買って来たパンとかだしね。言ってくれれば、食事を作るのにな。

 私はとりあえず食器類を洗い始めた。

「え、いいよ、大丈夫。まだあるから」

「お世話になる御礼です、今までも先生の所でやっていたから気にしないで」

「先生って、召喚術の? 契約してるんでしょ、この狼みたいな子」

 マルちゃんは散らばってる物を足でバタバタと払って、場所を確保してドデンと体を床に預けた。


「はい。つい先日契約して、一人前になったんです。エステファニアという先生の弟子だったんで……」

「エステファニア先生!? 『森の隠者の会』の? すっごく有名な、スゴイ召喚術師の先生だよね! うらやましいい!!」

 先生の名前を、召喚術のカヴンに所属してない人まで知ってるなんて!

「はい、そんなに有名ですか?」

「だって『森の隠者の会』の会員自体が、実力者なのに人前に出てこないし、神秘のヴェールに包まれてる感じがするのよ! どんなことをしてたのか、知りたい」


 森での生活。自給自足に近くて、野菜を育てたり家事をしたり、森の中に入ったりしながら、召喚術の勉強をしてた。魔法の基礎も習って、先生と弟子達だけの生活を何年も続けたなあ。先生の弟子は、女の子だけなの。人里にはたまに降りる程度。

 今までの暮らしを説明すると、彼女は楽しそうに私の話を聞いてくれた。

「あ、でもこんなに部屋を散らかしたら怒られますよ」

「……うひゃあ、耳が痛いわ~」

「片づけましょうか、ええと、そう言えば名前は……」

「ありゃ、名乗ってなかった。私はエルマ、よろしくね。片付けはいらないよ」

 ラビのエルマ。片付けが苦手な人、覚えたわ。


「私はソフィアです。片づけをしてくれる家事妖精と契約していて、パンやミルクで色々とやってくれます。便利ですよ」

「ん~、でも他の人の手でやられるのが嫌だから」

 そういう人もいるのね。本を棚に入れるとかなら迷惑じゃないかと思ったけど、自分なりの分類があるんだろうな。何もしないでおこう。

 部屋は幾つもあったので、遠慮なく使わせてもらった。ちょっと埃っぽいけど布団をはたいて使い、洗濯もさせてもらえた。なかなか楽しい人で良かった。


 朝ご飯を一緒に食べてから別れて、次の仕事を探しに行く。

 やっぱり道には人がたくさん行き交っていて、どこを歩いたらいいのか難しいから端っこを進む。お店も沢山あるし、何かを探す時はこんな中からどうやって一軒に絞るのかしら。

「おい、どこに行く」

「え、昨日のギルドだよ」

「こっちだろうが」

 間違える所だった。さすがにマルちゃんはよく覚えてるな。


 ギルドの手前にシャレーがあったので、ドアのガラス部分から覗いてみた。

 召喚術師の人が何人かいる。よし、入ろう。

「お、おはようございます」

「おはよう。何かお探し?」

 女性がこちらを向いた。そしてマルちゃんを見る。

「いえ、最近カヴンに加入したばかりなんです。他のカヴンの事も知りたいなって」

「なりたての召喚術師なのね。そのわりに強そうな魔物と契約してるのね」

「強いかは知らないんですけど、飛べるから助かってます」

「飛べるってのもいいよな」

 一緒に居た男性も会話に加わってきた。先生と仲間の弟子以外の召喚術師とお話した事が、ほとんどない。緊張するわ。


「私達はアイテム作製もするカヴン、『ヘルメス振興会』に所属してるの」

「金さえ払えば登録できる、『召喚協力会』の会員は本当にピンキリだから気を付けろよ。召喚術と薬草魔術を学ぶ『神秘なる魔女の会』っていうのも、信用できる会だ」

 お金を払えば登録できる、そんな会もあるの!? 召喚術はしっかり勉強しないと危険だと思うんだけどな。

「私は、『若き探求者の会』に所属してます」

「聞いた事ないわ」

「新しい会じゃないか。そんな会が設立されたと、どこかで聞いたよ」

 やっぱりあんまり知られてないのね。先生の『森の隠者の会』は、有名みたいなのにな。


「召喚術師として就職したいなら、この町にはないわよ」

「いえ、旅の途中です」

「なら気を付けろよ、最近隣国で強い悪魔の召喚をしようとしてるらしい」

 そうそう、こいういう就職とか召喚に関する情報も手に入るのよね。

 他の人が所属してる会の話も聞けたし、良かった。本当に何にも知らないんだわ。他のカヴンを気にした事がなかったしな。もっと色々、学んでいこう!


 隣にあるギルドに移って、仕事を探す。南東に行く仕事が欲しいのよね。

 見つけたのは、近くの村までの護衛。安いけど、行くついでだからいいかな。

「この依頼を受けたいんですけど、街道を通るんですよね? Eランクでも受けられますか?」

「これなら大丈夫だよ。この村は街道から少し外れたところで、今日の定期の馬車が行っちまったんだけど、今日中に着きたいらしいんだ。歩くと三時間くらいかな。もしかして獣とか、ちょっとした魔獣が出るかも知れないくらいだから、アンタの契約した狼なのかな? アレが居れば全然問題ないし、ランク制限もない」

「じゃあ受けます!」


 男性が待っていて、すぐに出発。勇ましいマルちゃんの姿に安心したみたい。

 歩いていると、他の町に向かう立派な六頭立ての馬車に追い越された。お客さんも結構乗ってるよ。

 街道ではたまに人や冒険者とすれ違うくらいで何もなかったけど、村への道に入ると猫型の魔物が襲って来た。マルちゃんが軽くパクリと銜えちゃって、終わりなんだけど。

 問題なく村についてお仕事終了。この村では仕事がなかったので、また大きめの町を目指してマルちゃんに乗った。空を飛ぶと楽だし、遠くまで見通せるね!


「ん~、マルちゃんが二人乗りだったら良かったのになあ」

「二人乗れたとしても、契約者以外を乗せるわけないだろう!!」

 ありゃりゃ。怒られてしまった。

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