第17話「狙われた女王 その4」
け…結婚!? ちょっと待って! リユニルさん、今日私と初めて会ったばかりだよね?それなのに結婚ってどういうこと!? その日出会ったばかりの人と結婚なんて、どこのディズニー映画ですか。
「そんな、結婚って……」
「頼む! 君のことを好きになってしまったんだ。この気持ちをどうか受け止めてくれ……アンジェラ……」
リユニルさんは本気で私に一目惚れしてしまったらしい。改めてリユニルさんの姿を見てみる。まぁ顔も悪くないし、王家の人間だからそれなりに財力はあるはず。単純に考えて結婚するのに申し分ない相手だ。しかし、これはアンジェラの問題、身代わりになっている私が認めていいはずがない。彼には悪いけど、ここはアンジェラのために断るべきだ。
「ごめんなさい……私はまだ結婚とか考えていないんです。気持ちは嬉しいですけど、お断りさせていただきます」
私は震え声で返事を伝える。きっとアンジェラも同じように断ると思う。
「……」
リユニルさんは私から手を話して真顔になった。怒っているのか、悲しんでいるのか微妙な顔だ。
「……やはりね、噂通りの困ったお嬢様だ」
なぜかリユニルさんは笑った。結婚の申し出を断られたというのに。まるで断られることなど最初から読んでいたかのようだ。笑顔がとても不気味だ。先程の優しそうな雰囲気は微塵も感じられない。
「君に『断る』という選択肢は選ばせないよ。私は絶対に君を手に入れてみせる」
「あなた、一体何n……で……すか……」
何だろう。急に体が暑くなってきた。呼吸が荒れてきて言葉が続かない。再び汗も垂れ流れてきた。さっきまでの体の動かし過ぎの疲れとはまた違う。
「な、何……これ……」
「先程君のカクテルに媚薬を仕込ませてもらった。こうでもしないと君は認めてくれそうにないからね」
「そん……な……」
私の体は魂が抜けたようにばたりと床に倒れる。何なのこの人、好きな人を手に入れるためにこんなことができるなんて……。
「体が火照って動けないだろう? 結婚を認めてくれるのであればすぐに治してやろう。断り続けるのであれば、さらに服用させる。この薬の効果で君の気持ちも変わることだろう。まぁ、どちらにせよ結局は婚姻を結ぶことになるということだ」
リユニルさんは瓶を2,3本胸のポケットから取り出してちらつかせる。私は床に倒れたまま彼を睨み付ける。
「安心しな、君のことはちゃんと愛する。フォーディルナイトとアルグレンの力が合わされば、よりよい国家が生まれるに違いない。だから君の力が必要だ。二人で強い国を築き上げていこうじゃないか……」
リユニルさんの笑みはさらにどす黒くなっていく。逃げ出したいところだけど、もう体が言うことを聞かない。ちっとも力が入らず動けない。大部屋から助けが来るような気配もない。まさかこんなことになるなんて……。
「さぁ、答えは変わったか?」
「ハァ……ハァ……ダメ……です……」
私は断固として拒否する。こんな酷い人はアンジェラのパートナーにふさわしくない。もはや人間として最低だ。こんな男にアンジェラの未来は奪わせない。
「チッ……小娘が、まだまだ足りないみたいだな」
リユニルさんは瓶のフタを開けて、私に手を伸ばす。もうダメだ……自分ではどうにもならない。
“助けて……陽真君……”
いつものように陽真君に助けを求める。陽真君が来るはずがないのはわかっている。こっちの世界には来ていないのだから。それでも私が危機に晒された時に真っ先に助けを求めるのは彼だ。もう彼を求めずにはいられない。
“お願い……助けて! 陽真君!”
心の中で強く願う。私のかみさまに……。
「もう見てられねぇな」
草影から声が聞こえた。この声は……。
「誰だ!? そこにいるのは!」
ザザッ
「そのお嬢様の婚約者だが、何か?」
陽真君だった。なんと、本当に助けに来てくれた。ていうか、なんでここにいるの?
「アーサー、助けるなら早く助けようぜ!」
「危なくなるまで放置して、それでも恋人か!」
ロイドさんとヨハネスさんも一緒に姿を現した。
「悪ぃ、証拠を録らなくちゃいけないんでな」
陽真君は高らかにスマフォを掲げ、画面をタッチした。
『体が火照って動けないだろう? 結婚を認めてくれるのであればすぐに治してやろう。断り続けるのであれば、さらに服用させる。この薬の効果で君の気持ちも変わることだろう。まぁ、どちらにせよ結局は婚姻を結ぶことになるということだ』
「そ、それは……」
スマフォからさっきのリユニルさんとの会話が流れてきた。これは録音アプリで記録したものだ。リユニルさんは動揺する。
「とんでもねぇことをしちまったな。これをお前の父が聞いたらどう思うことか。王位継承どころじゃなくなるぞ」
「やめてくれ! 許してくれ! もうしない! もうしないから!」
リユニルさんは慌てて陽真君の方へと駆け出した。すかさずロイドさんとヨハネスさんが飛びかかり、地面に叩きつけて腕を拘束した。見事な動きだ。事態は陽真君達の登場であっという間に解決した。
「久しぶりだな、この仕事」
「ギャングがいなくなってやらなくなったもんな」
その後、馬車が来てリユニルさんは連行された。アルグレン王国へと送還され、案の定今回の件が父親に伝えられて王位継承権を剥奪されたという。舞踏会は中止され、フォーディルナイトは今後一切のアルグレン王国との交易を拒んだ。
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