第16話「狙われた女王 その3」
「ん~♪ 美味しい! これなんて飲み物?」
「タピオカミルクティー」
「たぴおか? ふーん…変なものが流行ってんのね、この世界って。アーサー……じゃなかった、陽真もよくこのお店来るの?」
「あぁ、凛奈と一緒にな。ていうか早く陽真呼びに慣れろよ」
陽真とアンジェラはタピオカミルクティーの専門店へとやって来た。アンジェラがこの世界で人気のある食べ物や飲み物を口にしたいと言い、陽真は元々凛奈と行く予定だった店へと連れて行っている。端から見れば微笑ましいデートの図だ。
「楽しいデートね♪」
「勘違いするな。相手がお前である以上これはただのお出かけだ。俺はお前の彼氏じゃねぇ」
「も~、冷たいなぁ~」
「お前の本来の仕事を俺の彼女に押し付けてんだぞ。冷たくなるのは当然だ」
その割には潔くタピオカミルクティーを奢ってくれている陽真である。
「私だって申し訳なく思ってるわよ。舞踏会が終わったらちゃんと戻るから」
「そうか。まぁ、女王の仕事が辛いって気持ちは俺にもわかる。凛奈が許したんなら俺も許すから、今日はゆっくり自由を楽しめ」
自分の元を離れても変わらず優しさを大事に持っている陽真に感謝し、アンジェラはタピオカミルクティーを飲み干した。
「んで? その舞踏会ってのは何時から始まるんだ?」
「午後7時からよ。まぁそれから3時間くらいは盛り上がるかな」
「じゃああの毎晩9時にやってる祈りの儀式は今日は誰がやるんだよ?」
「今日はヨハネスとロイドがやってくれるって言ってたわよ」
「そうか、よし……」
陽真はすぐにスマフォを取り出し。哀香にLINEを送った。
「ねぇ、凛奈も持ってるけど、その平たくて四角い箱……一体何なの?」
「これか? スマートフォンだよ」
陽真のスマフォをまじまじと見つめるアンジェラ。フォーディルナイトにはない精密機械だ。物珍しく見えるのは当然だろう。
「……」
陽真も自分のスマフォを見つめる。ホーム画面上に並んだアプリの列には録音アプリが入っていた。
* * * * * * *
「うへぇ……」
疲れた。すごく疲れた。次から次へとどこかの国の王子様が私をダンスに誘ってきた。もちろん出来は散々だ。うまくステップを決められないし、動きがきごちなくて相手にうまく合わせられない。終わる度に味気ない表情で後を去るイケメンな男の人達。仕方ないでしょ。だって運動苦手なんだもん……。
でも、これでアンジェラのイメージが壊れてたらどうしよう。今や彼女のイメージがこの国のイメージだ。これならこの間の陽真君との入れ替わりの方がまだマシかもしれない。
「ダンスは奥手ですか、女王様」
どこから沸いてきたのか、白髪の若い男の人が近づいてきた。私この人もどこかの国の王子様なのかな。
「は、はい……苦手です。えーっと……ダンスですか?」
この人も私と踊りたくて近づいてきたのかと思った。失礼かもしれないけど、明らかに嫌そうな顔を男の人に返した。
「いえ、ご安心ください。私はあなたと話がしたく参りました。無理難題は強要致しません」
なんだ、よかった。気遣いのできるいい人かもしれない。
「申し遅れました。私、アルグレン王国のリユニル・グラシファー王子です」
アルグレン……聞いたことない国だ。それもそうか。この人はその国の王子らしい。確かに王子様にふさわしい風格だ。
「えっと、フォーディルナイト王国の清m……アンジェラ・クラナドスです」
とりあえず私はアンジェラの名前を名乗り、リユニルさんと手を繋ぐ。かなり手が大きいな。私の1.7倍くらいは大きいかもしれない。もしかしたら陽真君より大きいかも……。
「アンジェラ……素敵な名前だ」
「ど、どうも……」
自分のでもないもので称賛されるのって複雑な気分だ。アンジェラだったらどういう反応をするのかな。
「おや、汗が……」
リユニルさんに指摘されてようやく気がついた。額から汗が垂れてきている。体を動かし過ぎたのかな。分厚いドレスがとても暑い。
「テラスに行きましょう。少し夜風に当たって落ち着かれてはどうです?」
「そうします……」
「私もご一緒しましょう」
リユニルさんは私の手を引いてテラスに連れてってもらった。
「あっ、凛n……女王様、どちらへ?」
「少し外で風に当たってきます」
部屋の隅にいたロイドさんが部屋を出ていこうとする私を呼び止めた。一応私の護衛に来ているのだから目を離すわけにいかないんだろう。
「護衛の騎士ですか。彼女の様子は私が見ておきます。ご安心を、不粋な真似は致しませんので」
私はリユニルさんと一緒に外に用意されたテーブルに座った。夜風が心地よく、汗だらけだった私の体を爽やかに清めた。
「どうぞ」
いつの間に用意したのか、グラスに飲み物を注いで私に差し出してくれた。嬉しいけど……これ飲めるかな?
「ノンアルコールカクテルだよ。父上から聞いている。君はまだ14歳だとね」
「ありがとうございます」
お酒ではないとわかって安心した。この世界の成人の基準とか、飲酒の規定はわからないけど、一応アンジェラの年齢はまだ未成年らしい。私はグラスを手に持ち、リユニルさんと乾杯してカクテルを飲み干した。シュワシュワと泡立つ炭酸が疲れた自分の体によく染み渡る。
「その小さな体と歳で大国を治め、多くの騎士を従えるとは……ますます興味が出てきた」
「は、はぁ……」
私に微笑みかけるリユニルさん。私はなんだか胸騒ぎがした。この人の笑顔の裏には何があるような気がする。そういえばこの人……私と二人きりになってから敬語で話さなくなった。
「美しい……君は実に美しいよ。その髪、その肌、その瞳、その声、宝石箱に納めておきたいくらいだ。そしてその美しい様からは想像もつかないような国の統治力、君こそが私の求めていた人だ」
だんだん前のめりになってくるリユニルさん。なんだか怖い。求めていた人ってどういうこと?
ギュッ
「!?」
リユニルさんは私の両手を強く握ってきた。ギリギリまで顔を近づけてきて口を開く。
「アンジェラ、一目見た時から君のことが好きだった。どうか私と結婚してくれ」
「……へ?」
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