第14話「狙われた女王 その1」
「イヌネコ団? 何それ(笑)、おもしろ~い!」
「でしょ? それなのにアイツらと来たら……ブツブツ」
私はアンジェラの部屋で彼女とティーパーティーをしている。ロイヤルミルクティーやらハンドメイドクッキーやらを片手に他愛もない話で盛り上がっている。ほとんどアンジェラが一方的に話してるんだけどね。
「それにしても美味しいね、この紅茶とお菓子」
「ケイトさんの自信作ですって」
流石ケイトさん。元々あのバーを経営していただけあってお茶菓子まで作れるなんて、毎日こっちに来て楽しみたいかも。
「ちゃんと女王やってるんだね」
「いいえ、私だけじゃあまだまだ力不足よ。今だってまだ騎士団に頼りっぱなしなところあるし」
「それでも前よりは成長したと思うよ。偉い偉い」
「凛奈……///」
私はアンジェラの頭を撫でる。いつも陽真君にやってもらってるみたいにすりすりと。アンジェラは紅茶のように頬を赤く染める。最初に出会った頃は本当に小さな子どもみたいに見えたのに、今はとても凛々しくなったというか……女王としての風格を有している。
……あっ、言い遅れたけど、アンジェラと一緒にいるということは、私は今フォーディルナイトに再びやって来ている。久しぶりに顔を合わせようとプチクラ山に来て、祈りを捧げてみたら運良く霧が発生した。フォーディルナイトで誰かがタイミングよくかみさまに祈りを捧げていたらしい。たまにこうやってアンジェラの元に遊びに行っている。
「そういえばアーサー……じゃなかった、陽真とはうまくやってる?」
「あっ、うん……」
「無事恋人同士になれたって前言ってたわよね? あれから進展してる?」
「うーん……まぁ、ぼちぼちと」
進展したかしてないかと聞かれると微妙なところだ。苦笑いで答えるしかない。でも、どちらかと言えば進展してる方かもしれない。
「ハグとかキスはした?」
「う、うん……」
「セックスは?」
「えっ!?///」
とんでもない質問に心臓が口から飛び出しそうな程驚いた。つい赤く染まる頬を隠せなくなる。
「まだなの? そろそろしてもいい頃でしょ~♪」
「もう……からかわないでよ///」
「んふふ♪」
アルバートさんとカローナさんが言うには、アンジェラは今は14歳らしい。優衣ちゃんと同年齢だ。その歳でそういうえっちな知識を蓄えているなんて……一体どこから知識を吸収しているんだろう。理の書とか? いや、そんなことないか。
「あっ、そろそろ帰らなきゃ」
「えぇ~、もう少しいいじゃない! 何なら泊まってったら?」
「でももうすぐ4時だよ。哀香ちゃんが待ってるの。4時に向こうで祈りを捧げるように言ってあるから」
事前に指定時間に哀香ちゃんに祈りを捧げるようにお願いしている。その時間になったらこちらも祈り、霧を発生させて向こうに戻ってこられるように。
「そう」
「ごめんね」
「はぁぁぁぁ……」
アンジェラが干からびてしまいそうなほど重たいため息をつく。こういうのって何か悩み事があるのではと考えちゃうよね。
「どうしたの? 何か悩みでもあるの?」
「実は明日の夜ね、隣国のお偉いさん方が集まる舞踏会があるのよ。それに私出ないといけないのよね」
国々のお偉いさんの集まる舞踏会……なんか世界史っぽいかも。まぁアンジェラはフォーディルナイトの女王なわけだから、出席しないといけないのは当然だよね。舞踏会ってことは豪華な食事をみんなで楽しんだり、ダンスとかして交流を深めたりするのかなぁ。
「それが嫌で嫌で」
「どうして?」
「パパとママがね、いい機会だからその舞踏会で気になる人を見つけて来なさいって言うのよ」
「え?」
気になる人って……まさか結婚相手? いや、そこまではいかないにしろ、好きな人をつくれということなのかな。だとしたらその舞踏会はアンジェラのお見合いを兼ねているということか。確かにアンジェラみたいな一国の女王のパートナーとなると、別の国の王子様とかじゃないといけないのか。女王になると大変だね。付き合う相手が誰でもいいというわけじゃなくなるなんて。
「私まだそういうの考えてないから嫌なのよ。それに舞踏会なんてめんどくさいじゃない。美味しいもの食べられるのはいいけど、ダンスとかできないし、重たいドレスとか着なきゃいけないから窮屈でしょうがないわ」
「あはは……」
確かに放り出したくなる気持ちもわかる。まだ14歳だもん。そんな早くに結婚を考えさせられるなんてたまったものじゃないよね。まだまだアンジェラは親のしがらみに耐えながら生きているらしい。なんだかかわいそうだ。
「お願い凛奈! 私の代わりに舞踏会に出て!」
「……へ?」
代わりに舞踏会に出てほしい?一体何を言っているのかなこの子は……。
「どういうこと?」
「明日だけ私が凛奈になって、凛奈が私になるの。つまり入れ替わるってこと! それで凛奈が私のふりをして舞踏会に出るの!」
「えぇ!? そんなの無理だよ」
「お願い! 明日だけでいいから私の身代わりになってよ! たまには休みがほしいわ!」
身代わりって……私一般人だよ? しかもフォーディルナイトの国民じゃないんだよ? さらにさらにこの世界の人間でもないんだよ? 色々問題あり過ぎるって。私にはアンジェラの代わりなんてとても務まらない。それに……
「無理だよ。私、明日用事があるの」
「用事?」
「えっと、陽真君とデート……///」
明日は午後から陽真君とデートの予定がある。色々なお店を回ってショッピングを楽しみ、最後は豪華なディナーを共にする。前からすごく楽しみにしているデートなのだ。アンジェラには悪いけど、私はそっちを優先させたい。
「じゃあ私が代わりにそのデートに行ってあげるよ」
「えぇ!? そんなのダメ!」
「なんでよ?」
「陽真君は……わ、私のだもん……///」
「私が凛奈になるんだから明日だけは私のものでしょ」
「そうじゃなくて!!!」
久しぶりにわがままなアンジェラを見た気がする。そんな無茶振り頼まれたって、流石の私でも引き受ける気になれない。
「凛奈、私……女王としてこの国を頑張ってまとめてるのよ。毎日毎日一生懸命働いてる。これからも責任もってこの国を導いていくわ。でもね、私だって一人の人間よ。女王だからってわがままを言わないわけじゃない。何かに対しての不満がないわけじゃないわよ」
「アンジェラ……」
アンジェラが急に真面目なトーンで話し始める。そうすると聞き入ってしまうのが私だ。最初に彼女の苦しみを知った時と同じだ。彼女は自分の苦しみを誰かに受け止めてもらいたがっている。
「私、疲れたのよ。一日だけでいいから、自由な時間がほしい……自分のしたいことをして、行きたいところに行って、自由に生きてみたいの」
そうか、あの戦いが始まる前から、ずっと望んでいたんだもんね。女王として立派に成長した今でも、その望みは実現できていない。せめて一日だけ……アンジェラが自由になれるのなら……。
「……わかった」
「え?」
「明日は私がアンジェラになってあげる」
「ほんと!?」
負けた。どうして私はアンジェラの崩れそうな顔に弱いんだろう。つい簡単に手を差し伸べてしまう。
「明日だけね。舞踏会が終わったらちゃんと戻ってくるんだよ」
「ありがとう凛奈! あなたって本当にいい人よね! ほんと大好き💕」
私に抱きついてくるアンジェラ。こういった子どものような無邪気な感じも彼女の魅力の一つなのかもしれない。
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