第11話「夢とサンタとクリスマス その3」



「メリ~クリスマ~ス♪」


 カツンッ

 12月24日、清水家の居間にグラスの音が響き渡る。凛奈、陽真、哀香、蓮太郎、花音、優衣、豊、万里、お馴染みのメンバーが集結し、豪華な食事を囲み合った。クリスマスパーティーの始まりだ。


「うま! やっぱり豊さんの料理は最高ね~♪」


 フライドチキンを豪快にほおばる哀香。豊はフォーディルナイトのバーで料理を作っていた経験がある。清水家のキッチンを借り、クリームシチューやらフライドチキンやらケーキやらをそそくさと作ってしまった。


「ありがとう。それにしても僕までいいのかい? 妹のクリスマスパーティーに参加しちゃっても……」

「いいのよ。一緒にフォーディルナイトでどんちゃん騒ぎした仲間でしょ?」

「どんちゃん騒ぎって……」


 苦笑いする豊。


「その妹である私はそのフォーディルなんとかってところに行ってないけどね」

「まぁ細かいことは気にしない!」


 花音がジンジャーエールを飲みながら言う。一通り食事を楽しんだ一行はさっそく例の催し物に取り掛かる。


「プレゼント交換タ~イム!」

「イエ~イ!」


 哀香と優衣が二人で場を盛り上げる。もはや記憶を失っていたとは思えないほど優衣の表情は生き生きとしていた。哀香はスマフォを持って説明を始める。


「これから音楽をかけるからね。それまでプレゼントの箱をみんなで手渡ししながら回してってね。音楽が止まった時に手に持ってた箱が自分のゲットするプレゼントよ」


 なかなか典型的な決め方だ。とりあえず凛奈達は各々自分の用意したプレゼントを手に持つ。


「それじゃあ、ミュージックスタート!」


 哀香はスマフォの画面をタッチした。back numberの「クリスマスソング」が流れた。


「なんでしんみりした曲にするんだよ……」

「クリスマスって言ったらこれじゃない。ほらさっさと回す!」


 蓮太郎は渋々プレゼントの箱を隣にいる花音に渡す。しばらくプレゼントの手渡しが続く。バラードの流れる微妙な空気の中で。2番のAメロに入った瞬間、哀香がスマフォの画面をタッチし、曲が止まる。


「はいストップ! それじゃあさっそく開けましょうか」

「ねぇ哀香、僕のとこ何もプレゼント来てないんだけど」


 今さらながらプレゼントの箱が一つ足りないことに気がつく凛奈達。メンバーは8人に対し、用意されたプレゼントの箱は7個。蓮太郎の手にだけプレゼントが届いていない。


「あぁ、私プレゼント用意するの忘れちゃったの。だからアンタはプレゼント無しね」

「えぇぇ!?」


 哀香は呑気に答える。蓮太郎は頭を抱える。他人の分を買って自分はもらえないとなると贈り損だ。


「僕だけ無し!? そんなの嫌だよ!!!」

「もう、うるさいわねぇ……」




 チュッ

 哀香は蓮太郎の頬にキスをした。


「アイカ……///」

「アンタへのプレゼント、これでいいでしょ?」

「ハ、ハイ……///」


 すっかり蓮太郎を手玉に取る蓮太郎。


「ヒュ~ヒュ~♪」

「哀香ったら、やるじゃない♪」


 花音と万里が哀香の勇姿に声をあげる。哀香と蓮太郎も、凛奈と陽真に負けず劣らずカップルをやっているのだ。


「なるほど、蓮太郎のところに何も来ないタイミングを見計らって音楽を止めたってわけか」


 哀香は音楽をかけるのと同時に自身もプレゼント回しに参加していた。最初から蓮太郎にプレゼントが行き渡らないように音楽を操作していたわけだ。今の蓮太郎へのサプライズを行うために。


 気を取り直し、一行はプレゼントの包装を開封した。


「わぁ、クッキーだ!」


 優衣の開けたプレゼントには手作りのクッキーが入った袋が詰まっていた。


「僕の手作りだよ」

「豊さんの!? ヤッタァ~💕」


 どうやら豊の用意したプレゼントのようだ。好きな人からのプレゼントに当たったことに喜びを隠せない優衣。豊へと駆け寄って抱き付く。


「豊さん大好き~!!!」

「ゆ、優衣……苦しい……」


 ここにも記憶喪失組で歳の差カップルができていた。その隣で万里が嫉妬していた。自分の兄に必要以上にベタベタする幼女に。


「あの……僕のプレゼントが霞むんですけど……」


 豊の手から長財布が溢れ落ちていた。豊に当たったプレゼントは蓮太郎が用意したもののようだ。


「これは……」


 陽真は包装紙から顔を出したハンドタオルをまじまじと見つめる。


「よかった~、浅野君に当たって。実用性のいいプレゼントってそういうのしか思い付かなくて……。陽真君に当たるといいなぁ~っ手思ってそれにしたの」


 どうやら万里からのプレゼントのようだ。


「サンキュー、万里」

「どういたしまして~」


 万里に微笑みかける陽真。その横で今度は凛奈が嫉妬していた。自分の彼氏を意識してプレゼントを選んできた親友に。


「さてと、私も……っいやぁ!!!!!」


 万里が箱を開けると、中からガイコツが飛び出してきた。ビックリ箱のようだ。驚いて腰を抜かした万里。恐らくこの中で一番最悪なプレゼントだろう。


「あ、それ私の~♪」

「ぐぬぬぬぬ……」


 再び万里は嫉妬した。万里は優衣を睨み付けた。さっきから自分の兄に抱き付いて離れないビッチ幼女に。


「あら、素敵なマグカップね~」

「それ、私のだよ」


 哀香には凛奈のプレゼントが当たった。マグカップにはダンスをするウサギのイラストが描かれてあった。


「アンタこういうの好きよね~」

「えへへ……///」


 これを選ぶセンスからして可愛らしい。


「あらぁ~、これは可愛い髪留めね♪」


 花音の手には小さな花の模様が施されたヘアクリップが握られていた。


「はぁ……女子に当たってよかった……。ぜひ使ってくれ」

「陽真君からのプレゼントね、どうもありがとう♪」


 花音はいつも髪留めで髪型をサイドテールにしている。彼女には丁度いいプレゼントだ。花音はさっそく髪を解き、陽真からもらった髪留めで髪を留めた。


「どう? 似合う?///」

「あぁ、似合ってるぜ」

「ありがとう♪///」


 珍しく……と言っては彼女に失礼だが、珍しく花音が女の顔を見せた。


「む~っ」


 そして再び凛奈が嫉妬した。いつもは女らしさなんて気にしないくせに、自分の彼氏から髪留めをもらったくらいでいい気になっている生徒会長に。


「それで、凛奈は?」


 花音に促され、凛奈はプレゼントの包装紙を開いた。みんなの結果から見て、残ったのは花音からのプレゼントのはずだ。


「……え?」


 包装紙から顔を出したのは、女子用のサンタクロースのコスチュームだった。


「それが私からのプレゼントよ」

「あ、ありがとう……」


 凛奈は苦笑いする。表紙を見ると、実際にコスチュームを着ているモデルの写真があった。オフショルダーで、しかもスカートが短い。もちろん凛奈はこんな際どい衣装を着る勇気なんて……


「凛奈~、着てみなさいよ~♪」

「えぇ!?」


 哀香が無茶振りを言う。花音は背中で哀香にサムアップをする。


「哀香、ナイス!」

「アンタもよくやったわ!」


 どうやら哀香は凛奈に花音のプレゼントが行き渡るように仕組んでもいたようだ。


「おい、凛奈にそういうことは……」


 陽真は反対気味だ。やはり凛奈にそういうことをさせるのに気が乗らない。


「とか言って、陽真も本当は見たいんでしょ? 凛奈のサンタコス……」

「うっ……」


 陽真は言い留まる。


「み、見たい……///」

「はい決まり♪」


 陽真は欲望に勝てなかった。






「おぉ~!!!」


 周りから歓声が上がる。今にも頭から湯気が吹き出しそうな程、凛奈の顔は赤く染まっていた。というかもう吹き出している。凛奈はもじもじしながらスカートの裾を摘まんで引っ張る。それを見る陽真の頬もじんわりと火照っていた。


「陽真君……///」

「ハ、ハイ……///」

「似合ってる?///」

「ニ、ニアッテマス……///」


 凛奈はのサンタコスが予想以上に破壊力満点だったために、口調がカタコトになる陽真。先程の蓮太郎と同じだ。微妙な空気になる二人を、哀香達はにやつくのを必死に我慢しながら眺めた。


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