第10話「夢とサンタとクリスマス その2」

 もし、今この小説を読んでいる者が夢多き純粋な少年少女達であったら、誠にお詫び申し上げたい。これから辛い現実を突き付けるようなことを言うぞ。




 サンタクロースというのはこの世には存在しない架空の人物だ。こんなこと言うと子どもの夢を壊すなとか、それは日本だけの話であって海外ではガチで存在するぞとか、様々なバッシングを受けるかもしれないが、そのことはひとまず置いといてほしい。そもそもトナカイの引くソリに乗って家を廻るなんてファンタジーの世界かよ。


 え? 自分だってファンタジーの世界を体感してきただろって? そのこともひとまず置いといてくれないか。とにかく俺もかつては夢を見ていた子どもだ。小学校を卒業するまでサンタクロースの存在を信じていた。しかし、その時にサンタクロースの存在を凛奈に教えたのは間違いだったかもしれない。あいつは俺と出会ってからというもの、良くも悪くも常に俺に依存して生きており、今でも子どもの頃からの感性から抜けきれていない。故にサンタクロースは実在すると今も信じている。


「やっぱりそうかぁ……」


 頭を抱える蓮太郎。


「高校生にもなってサンタ信じてんの? 凛奈ったらどんだけピュアなのよ……」


 哀香の言葉、感心してるのか呆れているのかわからないな。だが、今も信じ続けているのはあいつが子どもの心を捨てきれていないだけではない。俺にも責任はある。


「悪ぃ……これも俺が毎年サンタに成りすまして凛奈にプレゼントを贈ってるからだ」

「は?」


 サンタの存在を親に教えられなかった凛奈。幼い俺はそのことをかわいそうに思い、最初にあいつとクリスマスパーティーをやったあの日から、毎年凛奈にプレゼントを贈っている。凛奈の両親にお願いして、あいつが寝ている時に枕元に置いてもらう。パーティーでやるプレゼント交換で渡すのとは別のやつだ。最初は母さんにお小遣いをねだったなぁ……サンタから贈られたと思わせるためのプレゼントを買うために。


 サンタからプレゼントをもらったと思い込んでいる凛奈はとても喜んだ。その時の笑顔がとてつもなく可愛かったため、サンタが架空の人物だと知ってからも本当のことが言えず、今に至るというわけだ。


「ふーん。まぁ、話を聞く限りアンタのせいじゃないの? アンタが凛奈にサンタの存在を信じ込ませてるんじゃない」

「仕方ねぇだろ! あいつの喜ぶ姿を見てみろ! 破壊力満点だぞ!?」

「そんなの知らないわよ!」


 俺としたことが、つい言い合いに発展してしまった。とにかく、凛奈にサンタは実在しないことを話すべきか否か、悩んでいるということだ。この二人に相談して正解かどうかもわからないが。


「まぁまぁ二人共、サンタを信じるのは別に悪いことじゃないでしょ?」


 蓮太郎が俺と哀香の間に入ってなだめる。


「それで? 僕らはどうすればいいの?」

「あ、あぁ……。凛奈にサンタはいないみたいなことを言わないようにしてくれ」

「あのねぇ、いつまでも夢を見させたらあの子のためにもならないでしょ? ここはガツンと現実を教えてやって……ブツブツ」


 この黒髪ツインテールめ……どこまで弊害になるつもりだ……。


「まぁまぁ哀香、ここは陽真君の願いを聞こうよ。とにかく、うまく話を合わせればいいわけだね?」

「あぁ、頼む……」


 俺は二人に頭を下げる。フォーディルナイトではこの二人にも散々迷惑をかけた。記憶を失っていたとはいえ、二人にも攻撃を仕掛けてしまったからな。こうでもして頼まないと聞いてはくれないだろう。特に哀香には。


「ん~、あの陽真が私に向けて頭を下げてるわ♪ いい気味ね♪」


 人が頭下げて頼んでんのに、何だよこの女……。凛奈はよくこの女とつるんでいられるな。


「いいわ、とりあえず私達はうまく話を合わせるように気をつけてあげる」

「助かる」


 この態度、気に食わねぇな……。






「さっきあの二人と何を話してたの?」

「何でもない。大した用じゃないからな」


 俺と凛奈は帰り道を共に歩く。子どもだったからとはいえ、凛奈には変なこと吹き込んじまったなぁ。こいつは超がつくほど純粋な奴だからすぐ騙されてしまう。そこがまた可愛いんだがな。


「クリスマスパーティー楽しみだね~」

「そうだな」

「サンタさんからのプレゼントも♪」

「あぁ……」


 心配だ……。もしサンタが存在しないことを知ってしまったら、凛奈はどんなに悲しむことか。とにかく今は信じ通させるしかない。


「くしゅんっ!」


 凛奈がくしゃみをした。今さらながら凛奈が手袋をしていないことに気がついた。


「……寒いのか?」

「うん、だんだん寒くなってきたよね」


 凛奈は手袋をはめていない手にハァーと息を吹きかけた。首にはマフラー、足にはニーハイソックスを履いているのはいいが、女の体は冷えやすい。ちゃんと手も守らなきゃダメだ。入れ替わったことで気づいた。こいつは極度の冷え性だ。


「手袋どうしたんだ?」

「どこかに失くしちゃって……」


 白い肌がむき出しな凛奈の手は今にも凍りつきそうな程震えていた。


「……」


 俺は瞬時にその手を掴み、自分の着ているジャンパーのポケットに突っ込む。


「陽真君……」

「これなら温かいだろ……///」

「ありがとう……///」


 ポケットにはカイロが仕込んである。今はこれくらいしかできないが、凛奈が寒がっていると俺の心まで寒くなる。


「悪ぃな、片手だけしか温められなくて」

「ううん、すごく嬉しい……///」


 凛奈の手は本当に冷たかった。でも丁度いい。今、サンタに願うプレゼントが決まった。


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