第9話「夢とサンタとクリスマス その1」



「メリ~クリスマス!」

「メリ~クリスマス♪」


 浅野家の居間に飾られた色鮮やかなクリスマスツリー。その周りを囲むようにはしゃぎ回る二人の小さな影。陽真と凛奈は二人きりでクリスマスパーティーを催していた。


「凛奈! 早速プレゼント交換しようぜ!」

「うん!」


 ツリーの下に置かれた二つのプレゼント箱。二人は自分で買った箱を手に取り、お互い手渡した。


「俺のお小遣いぜ~んぶ使って買ったんだぜ!」

「えっ、そうなの? 私のはママにお金出してもらったやつ……」


 何気ない発言に落ち込む凛奈。昔からよくある癖だ。小さな肩がより一層小さく見える。


「ごめん……」

「いいんだって! お前の愛情がこもってれば俺は大満足なんだから。さぁ、開けようぜ!」

「うん」


 陽真と凛奈は丁寧に箱を包む包装紙を開封する。


「せーの!」


 パカッ


「おぉ~、靴だぁ! しかもあの早く走れるやつ!」

「これ、私が欲しかったぬいぐるみ……」


 陽真の開けた箱にはアキレスシューズ、凛奈の開けた箱にはうさぎのぬいぐるみが入っていた。それぞれお互いが欲しがっていたものが出てきた。


「凛奈、俺がこれ欲しかったってよくわかったな」

「陽真君も……私が欲しいって言ってたの覚えてくれてたんだ」

「ありがとな! 凛奈!」

「こちらこそありがとう! 陽真君!」


 二人で笑い合った。初めて共に過ごしたクリスマスイブの夜はかけがえのない思い出となった。


「凛奈からこんないいものもらえるなんて、サンタからはきっともっとすごいもんがもらえるぞ♪」

「サンタってなぁに?」

「え?」


 凛奈はきょとんとした。クリスマスを家族以外の者と過ごしたことがない凛奈、この歳になってもサンタの存在を親から教わっていないことに陽真は驚きを隠せなかった。


「知らないのか? サンタクロースのことだよ。クリスマスイブの夜に家を廻って子どもにプレゼントをくれる人なんだ」

「へぇ~」

「凛奈、サンタクロースからプレゼントもらったことないのか?」

「うん……」

「おかしいなぁ~。サンタクロースは一年中いい子にしてた子のところにしか来ないって言うけど、凛奈のところに来ないなんて……」


 軽く遠回しに凛奈を“いい子”だと言う陽真に凛奈は心が温かくなる。何も知らない自分に、陽真は本当にいろんなことを教えてくれる。


「でも大丈夫! 今年はきっと来るって! 俺がサンタに祈っておくよ!」

「ほんと? ありがとう!」


 その後、クリスマスパーティーを大いに楽しんだ二人。凛奈が自分の家に帰った後、陽真はキッチンにいる麗子のところへ駆けていった。


「母ちゃん!」

「何? どうしたの?」

「お願い! お小遣いちょうだい!」




   * * * * * * *




「これで放課後のホームルームの時間を終わります。みんな風邪引かないように気をつけて帰ってね~。それじゃあよいお年を~」


 石井先生が教壇を離れて廊下へと出ていく。今年最後の授業が終わり、終業式も済ませた私達は帰る準備をする。クラスメイトのみんなは仲のいい子と冬休みに何をするかを話し合っている。クリスマスパーティーのこと、忘年会のこと、お正月のこと。夏休みに負けないくらいイベントは目白押しだ。


「ふふっ♪」


 実は私も友達とクリスマスパーティーを計画している。今年はたくさん友達もできて大人数の賑やかなパーティーになる予定だ。楽しみだなぁ……。


「凛奈、今日は部活ないの?」


 哀香ちゃんが秒で帰る準備を終え、私の席にやって来た。


「うん、でも陽真君と一緒に帰る約束してるから、今日は一緒に帰れないの。ごめんね……」

「相変わらずラブラブね~♪ さっさと結婚しなさいよ」

「もう……///」


 哀香ちゃんはニヤニヤしながら肘をぶつけてくる。私と陽真君が付き合ってから、哀香ちゃんは毎日のようにからかってくる。私達を祝福してくれているのはわかるんだけど、もう少し加減してくれないかなぁ……。


「凛奈……」


 廊下から声がした。振り向くと、教室の入り口に陽真君が立っていた。わざわざ迎えに来てくれたんだ。私は陽真君に歩み寄る。


「凛奈、帰る前に少しいいか?」

「うん、どうしたの?」

「あ、いや……哀香と蓮太郎に用があるんだ。二人を呼んでくれないか?」

「うん……」


 陽真君があの二人に用があるなんて珍しいなぁ。不思議に思うも、私は哀香ちゃんと蓮君に陽真君が呼んでいることを伝える。


「陽真君が僕らに用がある?」

「何のつもりかしら……」


 二人も不思議に思いながら陽真君のところに行く。なんとなく私は聞いてはいけないような気がして、教室の隅で三人の話す様子を眺めてることにした。陽真君、一体二人と何話すんだろう……。






「よう、二人共」


 俺は二人にとりあえず挨拶をする。この二人は凛奈と体が入れ替わった時に色々世話になったが、陽真として接するのは普段から少ない。なんか気まずいな……。


「僕らに何か用があるって聞いたんだけど……」

「陽真の方から声をかけるなんて珍しいわね。どう? ちゃんと凛奈のおっぱい揉んでる?」

「あぁ……って、何聞いてんだよ!」


 黒田哀香、一応凛奈とは仲良くしているらしいが、からかい好きというよくわからない性格をしている。悪い奴ではないが、凛奈に変な影響を及ぼさないか心配だ。


「それで? 僕らに何の用?」


 紀村蓮太郎、凛奈から聞くにはパソコンが好きな普通の奴ということだ。凛奈とよく行動を共にするという男は常に警戒しておきたいところだが、こいつは哀香と付き合っているらしいから警戒の必要はないかもしれないな。むしろ警戒すべきなのは哀香の方か?


「凛奈のことでちょっと聞きたいことがあるんだ」

「うん、何?」

「凛奈のやつ、クリスマスの話題になるとサンタクロースがどうのこうの言ってなかったか?」

「うーん……」


 俺は凛奈について一つ心配なことがある。二人はしばらくの間唸る。聞き方が曖昧過ぎたか?


「そういえば、今年はサンタさん来るかな~とか、いい子にしてたから来るといいな~とか言ってたわね」

「まぁ、クリスマスは楽しみにしてるっぽいね」


 やっぱり……。少し嫌な予感がする。


「お前ら、その後なんて答えた?」

「え? まぁ……来るといいわね~みたいに答えたわよ」

「よかった……」


 嫌な予感は幸いにも的中しなかった。いや、まだ安心はできないぞ。


「ねぇ陽真君、もしかして凛奈って……」


 勘のいい蓮太郎はすぐに気づいた。蓮太郎でなくても気づけるかもしれないな。






「あぁ、アイツはサンタクロースの存在を今も本気で信じている……」


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