第12話「夢とサンタとクリスマス その4」
あれやこれやあってクリスマスパーティーは大いに賑わった。時間はあっという間に過ぎていき、パーティーはお開きとなった。凛奈の前で不用意な発言がなかったことに陽真はほっとした。後はサンタがくれたと見せかけるためのプレゼントを贈るだけだ。
「そんじゃ、私達は帰るわね」
「うん」
陽真と凛奈は玄関で哀香達を見送る。哀香は何かを思い出し、陽真に駆け寄って耳元でささやく。
「後はうまくやるのよ」
「あぁ、わかってる」
それを最後に哀香達は清水家を後にした。
「じゃあね~、よいお年を~」
手を振る凛奈。その手にはもちろん手袋はない。
「凛奈、そろそろ入ろう。夜は冷える」
「うん、そうだね」
陽真は凛奈と共に清水家へと戻る。陽真は自分の家へは帰らず、今夜は凛奈の家に泊まることになっている。二人が恋人同士となって迎える初めてのクリスマスイブの夜だ。一年の中でも特別な日にしたいだろう。それに、陽真には今日一番の大事な任務がある。
* * * * * * *
「……」
風呂、歯磨きを終え、俺と凛奈は布団を被る。凛奈はリモコンで部屋の灯りを消す。
「おやすみ、陽真君」
「あぁ、おやすみ」
凛奈はベッドで、俺は床で目を閉じる。流石に同じベッドで寝る勇気は今の俺達にはない。暗闇と静寂が部屋を敷き詰める。
「……」
20分程経ち、俺は凛奈の方に顔を向ける。凛奈を包み込む布団は微動だにしない。凛奈は完全に寝落ちしたようだった。俺はそっと布団から抜け出し、凛奈へのプレゼントの箱を手に取って凛奈に近づく。忘れずにサンタ帽子も被る。今年は俺が凛奈のサンタになるんだ。
「んん……」
「!?」
凛奈が寝返りを打った。俺はしばらく硬直する。凛奈は目を開けない。俺はホッと胸を撫で下ろし、プレゼントを凛奈の枕元に置いた。
「……///」
俺の目線は凛奈の寝顔に釘付けになる。メガネを外すと可愛らしさがより一層強調される。よく女性はメガネを外すと可愛くなるという漫画のような話があるが、あながち間違いではないかもしれない。この可愛さ、反則だろ…。
「……いやいや!ダメだダメだ!」
触れたい、抱きたい、キスしたい、襲いたい。数々の溢れ出す欲望を必死に抑え、俺は自分の布団に戻る。可愛い寝顔が見れただけでもよしとしよう。
ガシッ
「……サンタさん?」
突然パジャマの裾を掴まれた。凛奈が目を覚ましてしまったようだ。まずい……。
「り、凛奈……」
「え? 陽真君?」
凛奈は枕元に置いてあるプレゼントの存在に気がつく。今までと同じだ。しかし、目の前にはサンタではなく俺がいる。サンタの姿を見たことがあるわけではないが、目の前に俺がいることに軽く疑問を抱いている。状況から察するに、このプレゼントを置いたのは俺。しかし、なぜサンタではなく俺が置いたのだろう。サンタはまだ来ていないのだろうか。大方そのようなことを思っている顔をしている凛奈。
「プレゼント、なんで陽真君が……サンタさんは……?」
「……」
やらかした。こうならないように気を付けるつもりだったが、凛奈の寝顔があまりにも可愛かったために油断した。ここからごまかしきれるとは思えない。もう正直に話そう。
「凛奈、実は……」
俺は全てを話した。サンタは架空の人物であること。今まで凛奈の両親と協力して凛奈にサンタの存在を信じ込ませてきたこと。今まで置いてきたプレゼントはサンタなんかではなく、俺が用意したものであること。ついに凛奈が知ってしまった。何やってんだ俺は……こいつの夢を勝手に作らせておいて自分で壊すなんて。
「すまん凛奈、喜ばすためなんて理由で嘘ついちまって……」
「……」
凛奈に顔向けできなくなる。騙されたと知ってどんなに悲しむことだろう。しかも相手が自分の好きな人だ。想い人に長年偽りの夢を信じ込まされていたことの悲しみは底知れないはずだ。
「陽真君」
「……何だ?」
「この手袋……」
凛奈はいつの間にか箱の包装紙を開封し、中の手袋を手に取っていた。
「あぁ、お前手袋失くしたって言ってたし、いつも寒そうにしてただろ」
「やっぱり……」
凛奈はその場で手袋をはめた。一体どういうつもりだ? サンタが存在しないことを知って悲しまないのか?
「温かい……陽真君! 温かいよ! 陽真君の愛だね!」
「凛奈、本当にすまん……」
「陽真君、謝る必要なんてないよ。みんな陽真君が私のためを思ってしてくれたことでしょ? だったら私はすごく嬉しいし、悲しくなんかないよ」
凛奈は手袋をはめた手を俺の頬に当て、ゆっくりと顔を近づけてきた。
暗闇の中で二つの唇が重なり合った。
「あぁ……///」
「ありがとう、私のサンタさん♪」
凛奈の方からキスをしてきたのは初めてだ。長年騙し続けてきたことを許してくれるというのか。俺は凛奈のかみさまであったが、今日から凛奈のサンタクロースにもなった。あぁ……凛奈はなんて優しい奴なのだろう。こんな素敵な女が俺の彼女だなんて、ちょっと贅沢過ぎやしないか。
「俺の方こそ……ありがとう、凛奈」
「ふふっ♪」
その後、どういうわけか凛奈が同じベッドで一緒に寝たいと言ってきた。二人で手を繋ぎ合って同じ布団を被った。凛奈と一緒に寝るなんて何年振りだろうか。
「……」
俺は相変わらず可愛いままの凛奈の寝顔を眺める。これからは俺が凛奈に夢を与えるのどはなく、二人で一緒に夢を作っていくのだ。子ども心はまだ失っていないはず。記憶だって取り戻せたんだ。出会ったばかりのような、ありのままの自分をさらけ出す関係にもう一度戻れるはず。俺は凛奈と共に迎える未来に希望を抱く。
「大好きだ、凛奈」
目を閉じる前に凛奈にそっと呟く。おやすみだけじゃ物足りなく感じたのだ。
「……ん?」
「……///」
言葉にした瞬間、凛奈の頬が赤く染まった。
「……ってお前、まだ起きてんのかよ!?」
「仕方ないでしょ! 陽真君がすぐそばにいるんだもん。ドキドキして寝られないよ!」
「こっちこそ早く寝かせてくれ! 可愛い寝顔がすぐそばにあったら寝られねぇよ!」
「えっ……/// も、もう! そんなカッコいいこと言わないで!///」
時刻はいつの間にか0時を迎えていた。お互いのせいでますます寝られなくなる俺達だった。大変なクリスマスイブだな……。まぁ、凛奈のそばにずっといられるからずっといい。最高のクリスマスイブだ。
メリークリスマス、凛奈。いい夢見ろよ。
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