第5話「神の名は。 その2」
「ふぅ……」
とりあえず顔を洗い、陽真君の制服に着替えた。男の子の制服って着るの簡単だね。ネクタイの結び方が少し戸惑ったけど、スマフォで結び方を調べられたからよかった。スマフォのロックも指紋認証ができたから解除するのは容易かった。陽真君のパ……パンツは地味な柄だったからそんなに見てて恥ずかしくは思わなかった。
……ごめん、嘘。ほんとはちょっとだけ恥ずかしかった。陽真君がいつもズボンの下に履いてるものと考えたら……///
「……あっ」
そうだ、私が陽真君になっているということは、陽真君は私になっているのかな? さっきは迷わず入れ替わりだと考えたけど、本当にそうなってるのかな?もしそうだとしたら……
「……///」
私の体が陽真君に見られてしまう。付けてるブラジャーも、履いてるパンツも、生の胸も。でも、陽真君になら……
「……」
とにかく私の家に行こう。きっと私の姿になった陽真君がいる。陽真君も突然のことで戸惑ってるかもしれない。助けてあげなくちゃ。
ガチャッ
「……あっ」
部屋を飛び出し、洗面台を横切ったところで足が止まる。私は改めて鏡の前に立ち、自分の顔を眺める。さっき時計を見たらまだ時間あったし、少しだけ……。
「わぁぁ……」
私、本当に陽真君になってるんだ。やっぱりカッコいいなぁ……。イケメンという言葉が陽真君のためにあるように思えるくらいにカッコいい。陽真君の顔が私の思い通りに表情を作ってくれる。いつまでも見つめていたいなぁ……。
「愛してるぜ、凛奈……」
つい言ってみたくなっちゃった(笑)。陽真君の声だから違和感がない。声もすごくカッコいいなぁ……。あぁ、陽真君……カッコいい……。
「どうしたのよ陽真、自分の顔なんか見つめて……」
いつの間にか陽真君のお母さん、麗子さんが後ろにいた。
「いやぁ、いつ見てもカッコいいなぁって思って……」
「え?」
しまった。思ったことをついそのまま口にしてしまった。これじゃあ陽真君が自分で自分の顔をカッコいいって言ってるおかしな人に思われちゃう。
「陽真、アンタ熱でもあるの? 今日は学校休んだ方が……」
「行ってきまぁぁぁぁぁす!!!」
話がややこしくなる前に私は家を飛び出した。早く陽真君のところへ行かなきゃ。
ピンポーン
私は自分の家のインターフォンを鳴らす。自分の家だけど、今は陽真君になっている。そのまま上がり込むのは不自然に思われるかもしれない。それにしても、私の家と陽真君の家が近くて助かった。陽真君の体だからいつもより早く着いた。陽真君の体って、あんなに早く走れるんだ……。少し羨ましい。
キー
玄関のドアが開いた。そこには誰もいなかった。
「あっ」
「……俺だ」
目線を少し下げると、“私”がいた。私の姿をした陽真君だ。まだパジャマを着たままだった。ていうか……
「私ってこんなに小さいんだね……」
「いいから入ってくれ」
私になった陽真君に手を引かれ、二階の私の部屋へと連れ込まれた。
「やっぱり俺の中に凛奈がいたか……」
「体が入れ替わるなんて、『君の名は。』みたいだね」
「一体どうなってんだ……まさかアンジェラの能力か?」
「それはないと思う」
私と陽真君はベッドの上に座る。陽真君はいつもの癖か、あぐらをかいている。険しい顔をしている。私ってこんな表情できたんだ……。
「これからどうする?」
「とりあえず学校には行こうよ。仲のいい友達には事情も話してさ」
「信じてくれると思うか?」
「大丈夫だよ。異世界転移だってしたんだもん。入れ替わりみたいなファンタジー的な出来事だって信じてくれるよ~」
異世界転移なんかを経験した私達だ。こういうファンタジー的な出来事を前にしても落ち着いていられる。最初は戸惑ったけど、今はもう慣れた。
「そうだな。まずは着替えないと……あっ」
「どうしたの?」
「その……いいのか? 凛奈、体見ても……///」
「あっ……///」
着替えるにはまず服を脱がなければならない。自分で言うのも何だけど、私は胸が比較的大きいからブラジャーを付けないといけない。そこで胸を見られる。その後、制服に着替える時には履いているパンツを見られる。もはや私の全てを見られる。でも……
「陽真君になら……見られてもいいよ……///」
「いいのか?」
「だって陽真君、私の彼氏だもん……///」
「凛奈……///」
陽真君はとっても優しい人だ。陽真君になら、たとえ裸だろうと見られても平気。信頼できるもん。
「さっき胸を揉んでたなんて言えねぇな……(ボソッ)」
「なんて?」
「いや、何でもない! なるべく見ないようにするから!」
それから私は陽真君の着替えを手伝った。パジャマを脱ぎ、ブラジャーを付け、シャツとブレザーを着させ、スカートを履かせた。最後にリボンを付けて完成。いつもの制服姿の私がそこにできた。中身は陽真君だけど。
「なんか……変な感じだ」
「陽真君、すごく似合ってるよ! 可愛い💕」
「そりゃあ、お前の姿なんだから可愛いに決まってるだろ」
「もう……陽真君……///」
すぐにそういうこと言うんだから。嬉しいけど。
「凛奈、俺の顔で赤くならないでくれ」
「あっ、ごめんね……」
「あと喋り方。女っぽいと気持ち悪いぞ」
「そう言う陽真君だって!」
次々と文句を言う陽真君。でも、今の私は陽真君だから陽真君らしくしないと。彼の学校での人気は異常だ。ヘマをして評判を下げるわけにはいかない。
「さぁ、行こう!」
「おう!」
「あっ、メガネメガネ……」
私は枕元にあった自分のメガネを陽真君にかけ、部屋を出た。
「あ、陽真君。おはよう♪」
階段を下りると、エプロン姿のママがいた。当たり前だけど、私のことは陽真君と思っている。
「お、おはようございます……」
苦笑いで答える。
「凛奈、朝ごはんどうする?」
「うーん……いらないかな。ちょっと時間危ないし」
「え?」
あっ、しまった! 私が答えちゃった。
「いや、陽真君じゃなくて…」
「あぁママ、今日はいらないから! もう行くね。行ってきま~す!」
陽真君が私の背中を押しながらママに言う。
ガチャッ
玄関を開けて外に出る。ようやく私達は学校へと向かう。
「凛奈ぁ……」
「ごめんね。次は気を付けるから……」
私の顔で睨み付けてくる陽真君。私は手を合わせて謝る。今度こそ気を付けないと……。
ヒュー
冬の凍てつく風が私達の体へと突き刺さる。
「ううっ、足寒っ! お前いつもこんなんで登校してるのかよ……」
「まぁね……」
スカートを履いているわけだから、陽真君の……というか私の白い足は外気にむき出しだ。こんなに寒いならニーハイソックスか何か履かせてあげればよかったかな。寒がっている陽真君の顔を見て思う。
「……」
「どうしたの?」
「何でもない。急ぐぞ」
陽真君は突然走り出した。私は後を着いていく。確かに朝はバタバタしていたから、朝のホームルームに間に合わないかもしれない。
「はぁ……はぁ……」
「陽真君……大丈夫?」
「お前の体……体力無さすぎだろ……」
「ごめん……」
昇降口の前で、陽真君は膝に手をつく。学校まで全力ダッシュをして息を切らしてしまった。部活の感覚で走っただろうから、すぐにスタミナを消費してしまっている。私の体ってやっぱり体力無いんだなぁ……。
「それに走る度に胸が揺れて痛ぇよ……」
「陽真君、恥ずかしいからそういうことは言わないでよ……///」
陽真君って意外とデリカシーがないところがある。別にいいんだけども。とにかく教室へ行かなきゃ。
「ふーん、それで今は凛奈の姿だけど中身は陽真ってことね」
「入れ替わりなんて本当にあるんだね」
「あぁ。だから二人共、今日は色々サポートを頼む」
俺は凛奈のクラスメイトである哀香と蓮太郎に事情を話した。凛奈の周りは優しい友人しかいないから確実に信じてくれるはずだ。この二人は異世界転移も経験しているからな。思った通りすんなりと信じてくれた。
「いいわ。凛奈のためでもあるからね……」
「僕達にできることは少ないかもしれないけどね」
「ありがとう、助かる……」
事情を話すのは今のところこの二人だけで十分だろう。あいつは向こうでうまくやっているだろうか。生憎凛奈と俺はクラスが別だから様子を見ることができない。まぁ、俺は特に仲のいい友人とかは同じクラスにはいないから、心配する必要はないか。本当に心配なのは放課後の部活だな。どうする……。
「ねぇ、陽真」
「ん?」
哀香が耳元でささやく。
「したいことしなくていいわけ? 今なら凛奈の体触り放題よ♪」
「なっ……///」
「おっぱいとか触っておいたら? 見てわかるけど、凛奈のって結構でかいわよ♪」
何考えてんだこの女!
「バカ野郎! んなことするわけねぇだろ!」
俺は席から立ち上がって叫んだ。俺としたことが、今の自分は凛奈であることを忘れていた。
「……あっ」
案の定周りのクラスメイトは一斉に俺の方を注目する。まずい、凛奈の声で怒鳴ってしまった。あいつの清楚なイメージが崩れてしまう。せっかくの綺麗な声も台無しだ。俺はすぐに席に座る。
「あら凛奈~、どうしたの~? そんな大声出してぇ~?」
「くっ……」
哀香は不適な笑みを浮かべてこちらを見てくる。間違いない。この女、この状況を楽しんでやがる……。こんな女と凛奈はいつもつるんでるのか。毎日からかわれてたりするのか。あいつも大変だな……。
まぁいい、誰が触るものか。これは凛奈の大事な体なんだ。傷付けるわけにはいかない。
……朝起きたときに思わず胸を揉んだことはもちろん内緒だ。ていうか凛奈の奴、いつの間にこんなに大きくなったんだ?
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