第2話「後日談 その2」
現実世界 七海町 某公園にて
「どう? ここ覚えてる?」
「うーん、完全にではないけど、ここでお姉ちゃんと昔遊んだような気がする」
哀香と優衣は近所の公園に来ていた。フォーディルナイトから優衣を連れ戻してきてから、哀香は妹との思い出の場所をひたすら巡った。よく一緒にお菓子を買った駄菓子屋さん、通っていた学校、昔一緒に行った旅行先までも。その甲斐あってか、優衣も着々と昔の愛嬌を取り戻しつつあった。
「やっぱりレンタカーの言った通りね」
「レンタカー言うな!」
蓮太郎が横からツッコミを入れた。過去に一緒に訪ねた場所を巡れば記憶は甦る可能性があると蓮太郎が言った。哀香は特に妹と同じ時間を共にしたこの公園は、暇を見つけては必ず来るようになった。
「それにしてもパパとママの驚き様はすごかったわね~」
「それだけ心配をかけたってことだよね……」
「えっ、それは……」
優衣の顔から笑みが消える。それに気づいた哀香は励ましの言葉を探すが、うまく思い浮かばない。偶然異世界に行って帰れなくなってしまっていたから仕方ない、そう言っても元気を出してくれるとは思えなかった。
「えっと、その……」
いつも人を励ますのは簡単なのに、あのアンジェラだって勇気づけられたのに、今ここにいる泣きそうな妹の不安を取り除くことができない。そんな自分に苛立ってくる哀香。
その時だった。
「やぁ哀香ちゃん、蓮太郎君」
公園に二人の男女が入ってきた。豊と万里だ。万里も兄と一緒に七海町を歩き回り、記憶が戻らないかどうか試しているらしい。
「おっ、エリー……じゃなかった、優衣もいるじゃないか」
フォーディルナイトで三年間共に過ごした二人。豊の方はいつの間にか呼び捨てにするまで距離を積めていた。
「兄さん、知り合いなの?」
「うん、色々とお世話になってね」
優衣は豊に顔を向けた。
「あぁ! ユタさんだぁ~!」
突然優衣は立ち上がり、豊目掛けて駆け出した。
「こらこら、ユタじゃなくてゆたk……」
ぎゅっ……
「へ?」
「はぁ!?」
「えぇ!?」
なんと、優衣は豊に思い切り抱きついた。哀香、蓮太郎、万里は驚きの声を上げる。
「……え?」
豊が一番驚いている。何のつもりだろうか。
「ちょっと豊さん! うちの妹とどういう関係なの!?」
「兄さん!三年も帰ってこなかったと思ったら、こんな可愛い女の子と遊んでたの!?」
「え? いや、僕は何も……」
「まさか……ヤったの!?」
「兄さんロリコンだったの!? 最低!!!」
哀香と万里が豊を問い詰める。
「誤解だって! 優衣が勝手に抱きついてるんだよ!」
「だって豊さん、向こうで私のことず~っと守ってくれたんだもん♪ 優しくて大好き💕」
哀香は驚いた。先程までの優衣の悲しみはどこかへと消えていた。豊が来ただけで優衣は満面の笑顔になった。
「豊さんが助けてくれたから今の私がいる。豊さんの助けがあったから戦えたの。私は豊さんがいてくれたらから生きてこれたんだよ」
優衣は豊の胸に顔をうずめた。この二人はフォーディルナイトに転移した後も共に力を合わせて生き延び、記憶を消された後も不思議な力で繋がり合い、今日まで乗り越えてきたのだ。そこでいつしか愛が芽生えていた。
「……豊さん」
「はい?」
「妹をよろしくお願いします……」
「あ、はい……」
哀香は涙を流しながら背中を向ける。妹に恋人ができたことが何だか寂しく思えた哀香。これは別れではないというのに情けなく垂れ下がる肩に蓮太郎が手を添える。
「それじゃあ、これから末長くよろしくお願いしますね! 豊さん♪」
「うん…いいんだけどさ、これから結婚しますみたいな雰囲気醸し出して言うのやめてくれるかな……」
「ふふっ♪」
いつの間にか恋人までつくり、優しい人達に囲まれながら笑い合う兄を見て、万里の心が温かく満たされる。まさかいなくなってしまった大好きな兄が、かつての幸せな日常と共に戻って来てくれるとは、これも凛奈のお陰だろうか。行方不明者を見つけ出そうと奮闘してくれた凛奈のおかげ……。
「ありがとう、凛奈……」
空を見上げて呟く万里。そして、忘れてはいけないこともしっかり付け加える。
「おかえりなさい、兄さん……」
* * * * * * *
「花音ちゃん当選おめでとう!」
廊下の掲示板に大きく「後期生徒会長 村井花音」と書かれた紙が張り出されている。生徒会役員選挙の結果発表だ。花音ちゃんは見事多数の票を獲得し、生徒会長に選ばれた。私は花音ちゃんに大きな拍手を送る。
「ありがとう! 凛奈のお陰よ~」
「花音ちゃんが頑張ったからだよ」
「でも凛奈には本当に感謝してるわ! ねぇ、何かお礼をさせて」
「え?」
花音ちゃんは歩み寄って私の手を握る。生徒会長に就任することは彼女の念願の夢であり、それを実現するサポート……と言っても推薦者になっただけだけど、とにかく彼女のお手伝いをした私に対して敬意を払っている。何か返さないと気が済まないのが花音ちゃんの性格だ。
「うーん……」
「何でもいいわよ。この七海町立葉野高等学校後期生徒会長、村井花音に任せなさい♪」
相変わらず堂々と自分のステータスをアピールしてくる花音ちゃん。私は唸る。
「それじゃあ、ちょっと相談に乗ってほしいことがあるんだけど……」
「OK! 何でもどうぞ♪」
「実はね……」
キーンコーンカーンコーン
放課後、私は日直の仕事を済ませる陽真君を昇降口で待った。今日は陸上部が休み、久しぶりに陽真君と二人で帰る約束をした。時刻は午後3時45分。授業もいつもより早く終わり、昇降口を出ていく生徒の歩みが弾んでいる。
「……」
行方不明だった陽真君が学校に戻り、彼のクラスにも活気が戻った。本当に全てが元通りになったんだ。私だけの力ではないけど、こっちの世界にも平和が訪れた。
「凛奈」
「あっ、陽真君!」
階段を下りてくる陽真君を発見した。
「待たせて悪ぃ……行くか」
「ねぇ、帰りに寄りたいところがあるの。一緒に来てくれる?」
「ん? あぁ、いいけど…」
「よかった! それじゃあ…」
私はそっと陽真君に近づいた。
きゅっ……
「え?///」
「行こっ」
私は陽真君の腕に抱きついた。案の定戸惑う陽真君。私からこんなスキンシップを取ったことはないから。自分でこんなことするのも恥ずかしいけど、花音ちゃんから言われたんだもん。
「お、おう……///」
もちろん昇降口にいる生徒の視線が降り注ぐ。学年一イケメンな陽真君に近寄るおかしな女子生徒に。私は陽真君の腕を引きながらさっさと校舎を出ていく。早くあそこに行かなくちゃ!
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