第21話「浮気? その3」



「は~い、ラストスパートよ~! みんな頑張って~!」

「くそっ! 何で俺らがこんなこと……」

「文句言うな。女王の命令だ」


 私は城のキッチンに来た。そこには過去に私達を襲ったギャング達や、騎士達が必死にチョコレートをかき混ぜたり、クッキーの生地を練ったりしていた。ケイトさんを中心に、みんなお菓子作りに励んでいる。


「おいアーサー、どこに行ってたんだ。さっさと手伝えよ!」


 騎士の中には陽真君の相棒であるロイドさんやヨハネスさんもいた。あの強面なギャングや騎士が和やかにお菓子を作っている光景を見ると、何だか複雑な気持ちになる。


「アンジェラに呼び出されてたんだよ。個人で義理チョコ貰っちまった」

「何!? 羨ましい奴め!」


 陽真君は紙手袋をはめ、間にクッキーの生地を練り始めた。


「え? 陽真君も作るの?」

「あぁ、これが俺の言ってた仕事。アンジェラに菓子作るの手伝ってくれって言われたんだ」


 その後、アンジェラが詳しく説明をしてくれた。どうやらフォーディルナイトの国民全員にお菓子を配るらしく、ギャングと騎士で協力して作っていたようだ。そこで陽真君も手伝うように頼まれたみたい。後で蓮君や豊さんも手伝っているのを見つけた。あの二人は料理が得意だから誘われるのは理解できるけど、陽真君も料理が得意だということは知らなかった。本当に陽真君は何でもできてすごいなぁ……。


 事情を知った私も一緒に手伝うことにした。全部作り終え、みんなで街中でお菓子を配って回った。幸いフォーディルナイトは人口一万人程度の小さな国だから、国民全員分配り終えるのに時間はかからなかった。笑顔で受け取ってくれる人々を見て、釣られて私も笑顔になった。




 仕事を全て終え、私達は現実世界に戻ってきた。気づけばもう午後5時だ。現実世界でのお祈りの相手は事前に万里ちゃんにお願いしてあったため、私達はすんなりと戻ってこられた。私達も二つの世界の往き来にすっかり慣れてしまったものだ。


「ごめんな、凛奈。アイツのことだから俺にチョコ渡してくるだろうと思って。俺が他の女にチョコ貰ってるの見るの、お前辛いだろ。だから言わなかったんだ」


 陽真君は私のためを思って仕事の内容を教えてくれなかったという。確かに、陽真君が他の女の子にチョコを貰ってるのを見ると、心がモヤモヤとする。陽真君はとってもカッコよくて想像以上にモテるため、春休み中でも他の女の子がチョコを渡しにやってくることだろう。これからモヤモヤとした日々が続くのかな。


「凛奈、アレ渡しなさいよ」

「え?」


 哀香ちゃんが横から呟く。さっきからスカートのポケットに入れたままのキャンディのことだ。


「私も優衣も花音も既に渡したわ。あとはアンタだけよ」

「うん……」


 私は陽真君に歩み寄る。キャンディの入った袋をポケットから取り出す。哀香ちゃん達は草むらに隠れて私達の様子を伺う。


「やっぱりこれはバレンタインに渡したかったの。今日じゃないと意味がないんだもん」

「そうか、本当に悪いな……」

「ううん、いいの。あ、今年はキャンディ作ったんだ」

「キャンディ……そいつはいいな」


 陽真君も私が今から渡すのが本命だとなんとなく察している。私は顔を真っ赤に染めながら袋を陽真君に差し出す。


 さぁ、言うんだ……




「陽真君、私と付き合ってくれてありがとう。今までも、そしてこれからも、陽真君のことが大好きです……///」


 言い切った。わずかな静寂が私達の間を敷き詰める。




 ヒョイッ


「え?」


 なんと、陽真君は何も返さずに袋を開け、キャンディを一つ手にとって口に入れた。


「陽真君……?」

「んんっ、酸っぱいなこれ」

「あぁ、クエン酸入れたんだ。陽真君よく体動かすから、甘いだけじゃなくて爽やかな感じの味にしたの。どうかな?」

「俺のため?」

「うん。それにキャンディならすぐ無くならないし、いつまでも楽しめるでしょ」


 運動が好きな陽真君のために酸っぱい味にした気遣い、キャンディというチョイス、陽真君は喜んでくれるだろうか。


「無くならないキャンディか、俺達みたいだな……///」

「えっ……///」


 陽真君も頬を赤く染めながら、私の頭にぽんと手を乗せた。


「ありがとう、凛奈。俺も凛奈が大好きだ……///」

「うん……///」




「うぉえぇぇぇぇぇ……」


 草むらから大きなうめき声が聞こえた。哀香ちゃん達が口を押さえて悶え苦しんでいる。


「この二人はもう! 結局こうなるんかい!」

「口が甘ったるいぃぃぃ……」

「こら優衣! 気持ち悪いからって雑草を食べるな!」


 いつもの光景だ。私と陽真君がいい感じの雰囲気になると、みんなが口の中の甘味に襲われる。どういう原理だろうか。


「俺達は一体どうすればいいんだ……」

「あはは……(笑)」


 悶え苦しんでいるみんなを私達は苦笑いで眺める。とにかく、今年も甘い一日で終わったバレンタインだった。






 ……いや、少し酸っぱい時間もあったかな? えへへ♪


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