第78話 瑞波と

 食べ歩きを堪能した俺たちは竹林に来ていた。そこは某アニメなんかでもヒロインたちが来ていた有名な場所。


 その名を竹林の小径。渡月橋と並ぶ嵐山のシンボルと言ってもいいくらいだ。


「大樹くん、ここ私も来てみたかったの!」


 俺の横を歩く瑞波の声が弾んでいて扇子をパタパタさせて喜んでいる。


「はぁ、涼しくて気持ちいいね」


「たしかに晴天すぎて暑かったもんな」


 天気がいいのは良いことだが、それにしても暑い。着物というのもあってか汗ばんでいる。


「大樹くんキスしたいね」


「そうだな」


 ……。え……? 今なんと?


「どこか人いないところ行ってしちゃおうか」


「いや、何喉渇いたみたいなノリで言っちゃってるの!?」


 瑞波は何を考えているんだ。ちょっと瑞波のテンションについていけない。


「えー? したくないの?」


 たしかに着物姿の瑞波を抱きしめたいとは思ったけれど、キスまでは行き過ぎではないだろうか。


「それに今、人いないよ?」


 周りを見てみると何故か一本道に人が俺たち以外人がいなかった。さっきまでチラホラ人がいたのに、なんで?


「ほら今のうちっ」


「うわっ」


 首に手を回されそのまま唇が触れ合うキス。軽く触れ合った誰のキスなのにもう足がくらくらしてしまう。


 着物や場所というのが相乗効果になっているのだろう。まるで瑞波と付き合い始めた頃みたいなドキドキ感がある。最近はある程度一緒にいて、落ち着く感じだったのに。


「大樹くんドキドキするね。私、やっぱり大樹くんのこと大好きだよ。あの日、ホームラン打ってくれた瞬間のことお母さんにすっごく語っちゃった」


「めっちゃ恥ずかしいな。でもあの時、本当の意味で瑞波と結ばれたと思う」


 みんなに認められて。こうしてお泊まりデートも出来るし、世の中のカップルと同じようなことが出来る様になった。


「大樹くんもう一回っ」


 不意打ちのように瑞波が俺の唇を奪う。なんかされてばっかりで悔しい。


 手首を軽く掴んで正面から瑞波を見据える。瑞波は挑戦的な目で俺の方をじっと見つめた。


 踵をスッと上げて目を閉じて俺を待つ瑞波。そんな表情を見させられたら俺も止まれるはずがない。


 なお、この後瑞波におかわりを何回からされたがそれはまた別のお話。

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