第73話 そしてついに

「打った……俺、ホームラン打ったのか?」


 ボールが柵を越えたのを見送った後、俺はその場に立ち尽くしていた。


 まだ打った実感がなくてセンターの方を見ているだけだったけれど、瑞波の喜びの声でようやく実感が沸いてきた。


「大樹くん! やったやった! ホームランだよ! 大樹くんが打ったんだよ!」


 ついに瑞波は喜びを抑えきれなかったのかバッターボックスにいる俺のところまで来てしまっている。


「すごいすごい! 完璧な当たりだったね」


 瑞波の笑顔を見て俺も緊張が溶けて笑みが溢れる。そうだ。これで俺は瑞波と一緒にこの部にいられるんだ。


 そして瑞波と喜び合うところにキャッチャーの先輩から声がかかる。


「文句なしだな。よし、なら二人でホームラン、ベースを一周してこい」


「「はい」」


 ゆっくりと一塁側に足を踏み出す。瑞波も横を俺と同じペースで横を走る。


「ほら大樹くんっ」


 俺に差し出される左手。俺はその手をしっかりと掴む。ぎゅっと、絶対に離さないと思いながら。


 そして一塁ベースを回ったところでまた声がかかる。


「おめでとう。まさかホームラン打つとは思わなかったわ」


「大樹、やるじゃん。流石にあの打球が捕れん」


「二人とも末長くお幸せに……くそっリア充爆発しろ!」


 いろいろな声を掛けられながらベースを回る。みんなから温かい? 声を受けて一周回り終わってホームベースに着く頃にはみんなが、集まっていた。


 その感じはプロ野球でいうところのサヨナラホームランを打った選手を迎えるような感じだろうか。流石にペットボトルとか、スクイズの水をぶっかけようとしていることはなさそうだ。


 そして一周し終わって。部員に迎えられて。俺と瑞波は部公認のカップルとなった。


「キャプテン、最初から俺たちが付き合ってること知ってました?」


 ある程度落ち着いたところで俺は気になっていたことを質問する。俺の質問にキャプテンはさぁなと答えるだけ。他のみんなもそうだった。


「とにかくお前たちは俺の試練を見事に乗り越えた。ここまでの愛を見させられることになるとは思わなかったけどな」


 そう言われるとすごく恥ずかしい。


「おいおい、今更照れるなよ」


「ははは、それもそうなんですけどね」


「じゃあここでキスでもしてもらおうかな」


「えぇ!?」


 先輩、ここで無茶振りしすぎだろ! こんな人前でできるわけない! 


 まして目の前にいる人は俺の友達。恥ずか死ぬ。


 でもここで沸き起こるキスコール。瑞波の方を見てみると……


「大樹くん……」


 めっちゃ期待の目で見てる!? 瑞波、もうちょっと待ってくれ。したい気持ちは痛いほどわかるけど流石にここでは。


「もうっ。していいって言ってるんだからしようよ。私はもう我慢できないよ」


 瑞波が飛びついて俺の首に腕を回す。鼻と鼻がくっつくくらいの距離で瑞波が嬉しそうにいう。


「ありがとう大樹くん。これでなんの遠慮もいらないね。打席に立ってる大樹くんとってもカッコ良かった。大好きっ!」


 その言葉と同時に触れる唇と唇。温かい感触と幸せが全身を駆け巡る。


 ウェーイという大声が聞こえたがそんなのは一切気にならない。目の前の女の子に全ての神経が集中している。


 この日、俺と瑞波は本当の意味で結ばれたのかもしれない。

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