第72話 第二打席と

 俺に残された打席は残り二打席。ここで決着をつけなければならない。さっき一本ヒットを損したもんだから、プレッシャーがすごいかかる。


 それでも気合を入れ直して打席に入る。残り二打席あると考えず、この打席で決めてやる。


 と、ここで気づいたことがあった。タイムをかけてベンチの方に一度戻る。小走りでベンチへ行くとそこにいるのはもちろん瑞波。


 メガホン片手に俺をずっと応援してくれていたのだ。


「どうしたの大樹くん。後二打席あるんだから落ち着いてね」


「瑞波っ……」


 俺はそのまま瑞波を抱きしめた。突然の出来事に驚いて固まってしまった瑞波だが、俺は気にせずにそのままぎゅーっとする。


「た、大樹くん。ここみんなの前だよっ。流石にまずいんじゃないかな」


「うん。ただこうでもしないと先輩からヒット打つ自信がなくてさ。今後はしないから今だけ力を貸して欲しい」


 俺の言葉に合わせて瑞波も俺の背中へと腕を回してくれる。さっきより密着度が上がって服越しでも瑞波の心音を感じることが出来る。


 十秒ほど。しっかりと力を貰うことが出来た。


「ありがとう瑞波。これでヒット打てるよ。ヒット打ったらまたさせてくれ」


「もちろんだよ。次は私の方からしてあげる」


 十分に瑞波を補給して打席に立つ。


「空閑、どうした。もう諦めて最後の抱擁でもしてきたか」


 打席に立つとキャッチャーの先輩が言ってくる。俺はそれに対して


「いやいや。離れないために今抱き合ったんですよ。これでもうどんな球でも打ちますよ。今の俺は瑞波パワーバリバリですからね」


「完璧な返答だな。今のお前に対して俺はどうリードするかワクワクするぜ」


 俺の返答に対してキャッチャーマスクの中からニヤリと楽しそうな顔をする先輩。


 そして勝負の第二打席。


 一球目。


 何でだろう。この時だけはいつもと感じが違った。ピッチャーの動きがゆっくり見える。


 ピッチャーが腕を回す。そしてボールを放つ。俺にはその投げる瞬間まで見えた気がした。


 そしてその球はアウトコースのギリギリを突いた完璧なボールで。でも俺にはそれは止まった風船のようにしか見えない。


 瑞波の声が一際大きく聞こえ、そして俺はバットを思いっきり振った。




 どこかのプロ野球選手だか、メジャーリーガーかが言っていたのを思い出す。バットの芯にしっかりと当たってボールがホームランになるとき空振りしたかと錯覚するほど感触がないらしい。


 そしてボールは最も容易くフェンスを超えるのだそうだ。


 それはソフトボールでも例外ではなかったらしい。


 ボールは綺麗な弧を描いてセンター後方へと伸びていく。ボールはセンターが下がる間も無くフェンスを超えていった。正真正銘のホームラン。空閑大樹第一号ホームランだった。


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