第71話 第一打席

 瑞波の声援を受けて打席に立つ。俺は左バッターなので立つのは左打席だ。


 プレイという審判(同級生)の合図を受けてピッチャーがキャッチャーとサインを交わして投げる準備をする。


 先輩がゆっくりとモーションを始め、大きな円を描くように腕を回転させて一気に踏み込む。それと同時に放たれる豪速球。


 ストライク!! 


 ズバンとミットからいい音が鳴る。キャッチャー気持ち良くて痺れるだろうなぁ。


「ナイスボール!」「良いよピッチャー!」「バッタービビって手が出てないよ!」


 おいおい。先輩気合い入り過ぎだろ。そんな球試合でもなかなか見ないぞ。


 これは並大抵のやつなら打てないかもしれない。バットに当たっただけでもすごいだろう。


 それに俺は左バッター。足も結構速いほうだ。となると一塁への距離が短いソフトボールなら転がしたらヒット。内野安打になる可能性は高い。


「綺麗にヒット決めたいとかってやっぱりわがままかな」


 しかし、この状況で俺は綺麗なセンター前ヒットを狙っていた。


 瑞波のことを認めて欲しいなら何がなんでもヒットが必要。泥臭くても全然良い。でも俺は瑞波にカッコいいところを見せたかった。それが男ってものだろう?


 そして二球目。これは高めに外れてボール。


 三球目。(甘いコース!!)腰付近への打ちやすいボール。これは行けるとバットを出す。そしてそのままバットはボールを完璧に捉え……


 ることはなくそのままキャッチャーミットへと吸い込まれた。空振りだ。


「今のは……ドロップ……」


 ソフトボールの中で落ちる球、ドロップ。嘘だろ。今、完璧に捉えられたと思ったのに。


 追い込まれてしまった。できれば追い込まれる前に勝負をつけたかったんだが。次の一球にかけるしかない。


 四球目。ストレートをなんとかファール。そして五球目。


 カキーン!


 鋭い金属音が響いて打球はセカンドとファーストの間へ。抜ければライト前ヒットだ。頼む、抜けてくれ!!


 必死に願いながら一塁へ走る。とここで俺の視界に入ってきたのは純也。そのままダイビングキャッチ。素早く一塁へボールを投げて結果はセカンドゴロ。


 一塁へ走り抜けたあと呆然としてしまう。今、かなりいい感じに捉えることができたのに。まさかあれを捕る!? 冗談にならないぞ純也!


「大樹くん惜しい! でも次打てるよ!」


 瑞波が俺を励ましてくれるが、さっき以上にまたボールを捉えるのは至難の技。このチャンスを潰されるのはかなり痛い。


 しかし、まだ行ける。絶対に打つ。勝負の第二打席だ。

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