第67話 テスト返し
「今日のところはここまでにする。各自しっかり体のケアをしておくように。それで前から言ってるように成績が悪かった奴は俺、直々に補習をしてやるからな。部活はさせないからそのつもりで。それと空閑。今日は集中力が全然無かったぞ。テスト明けで気が緩んでるのかもしれんが部活中はちゃんとしろ。はっちゃけるのはその後だ」
「はい……すみません」
結局、今日の俺は散々だった。簡単な打球はある程度いたけれど、いつもだったら捕れるちょっと難しい打球をめっちゃ逸らしてしまった。
あの寺岡先輩の出来事以降全く集中できなかったのだ。あの先輩の行動はなんだったのか。もしかしてバレているのか。
そんな部活には関係ない事ばっかりが頭に浮かんで消えてくれなかった。そしてこのザマというわけだ。
「はぁ……ほんとなんだったんだ」
夕暮れの帰り道。今日は1人で帰路についていた。瑞波は横にはいない。マネージャーの方で今日は備品チェックをするらしい。
こうして低いテンションで帰るのはいつぶりだろう。最初に瑞波の告白を断ったところだろうか。
あの後すっごい後悔して。瑞波が俺をクリスマスの日にお出かけに誘ってくれたから。あの日以降、毎日がすごい楽しかった。
それまでも十分楽しかったけど、いつも感じていたのとは違う、新しい楽しさとドキドキを瑞波は俺にくれた。
ってなんかしみじみしちゃってるけど瑞波と別れたとか別れそうとかそんなことは絶対にない。
ただ、次は選択を間違えない。瑞波が勇気を出して俺を誘ってくれたから次は俺が勇気を出さないと。
この帰り道を堂々と瑞波と歩いて行けるように。
「はい、テスト返すぞ〜」
早いものでもうテスト返却となった。クラスのみんながざわざわし出す。まずは恒例の最高点と平均点の発表。
「え〜平均点は63点。まぁ先生が思ってた通りの感じだな」
そういえばテストって平均が60点になるように作るんだっけ。今思うとそれってすごいよな。
「それでクラスの最高点は98点。残念ながら100点はいなかった。ただ先生は嬉しかったぞ」
なんなんだ? 先生の意味深な発言は。とにかく90点あれば大丈夫だ。トップは全科目で90点を取れば行ける。
最高点を取る必要はない。
「それじゃあ出席番号順に取りに。1番阿部」
そのままぞろぞろと先生から答案をもらっていく。ちらっと点が書いてあるところを見て方をがっくりさせる人、ガッツポーズとする人。めっちゃわかりやすいな。
瑞波は「いずみ」だから俺より早い。ちらっと瑞波の方を見ると納得の顔。結果は良かったみたいだ。
そして前の人も答案を受け取って次はいよいよ俺の番。
「空閑」
「ハイっ」
返事をしたのに先生が俺の答案をくれない。それどころか俺の方をじっと見つめてくる。
ちょっと怖いんだけど。まさか悪くて怒ってるとか?
そう思った瞬間、先生が見たこともないような笑顔で俺に答案を渡してきた。
「空閑。よく頑張ったな」
答案を受け取って恐る恐る点数を見ると大きく赤いペンで「98」と書いてあった。そして先生の「素晴らしい」とのコメントが。
それを見た瞬間に全身から沸き起こる興奮と嬉しさ。その場で飛び跳ねそうになるのをグッと我慢して、落ち着いた感じを装って席に着こうとする。
しかし、邪魔が入った。
「よう大樹。どうだったってお前98点!?」
修だ。こいつ大声で俺の点数をバラしやがった。そして、俺にクラスの視線が一気に集まる。
びっくりするやつや、悔しそうに俺を見るやつ。悔しそうに見てくるやつはこのクラスのトップだ。
「え? 空閑が98!?」
「ちょっと見せろ見せろ!」
「マジじゃんすげぇ! やればできるやつだったんだな空閑って!」
いつもはあんまり喋らないサッカー部のイケイケ組までもが俺の周りではしゃぎ出す。
なんなんだこれは……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます