第58話 学校での出来事

「え~と。この単語の意味は……」


「あ、そこは婚約とか約束、用事って意味だよ。engagement。はい、Repeat after me engagement。婚約、約束、用事。婚約……えへへ」


学校の休憩時間俺が英語の単語帳を見て勉強していたところで瑞波が単語帳を覗き込んで来た。瑞波もしっかり勉強してるんだ。俺も頑張らないと。


「流石だな。俺、ちょっと英語苦手なんだよ。でも英語で足引っ張るわけにもいかないしさ」


「なら今日は英語の勉強した方が良いんじゃない?」


「そうしとくよ」


とここでなんだか変な雰囲気を感じて辺りを見回す。なんか俺たちに注目が集まっている。


「みんなどうした? 何かあった?」


「なんか空閑くんと和泉さんってこんなに仲良かったのかなって。どうなの? やっぱり付き合っているの?」


そう聞いてきたのは隣の席の小島さん。何気なく聞いて来たこの質問だが何故か質問された瞬間一気に教室中が静かになった。


女子からは期待の目を向けられ、男子からは返答によっては袋叩きだと言わんばかりの視線を送られる。


「あ、あ~……」


「え~と私たちはただ仲が良いだけって感じでね。空閑くんとはそんな関係じゃないよ」


取り繕った笑顔で小島さんにそう説明する瑞波。心の中ではどれだけ苦しいだろう。そしてそんなことを瑞波に言わせる俺ってどうなんだろう。


「ちょっとごめんね。私、次の授業の教科書準備しないといけないから廊下のロッカー行ってくるから」


そう言って俺の横を去っていく時の瑞波の寂しそうで悲しそうな顔を俺は忘れられなかった。心が苦しい。


「あ、和泉さん行っちゃった。これはあんまりつついちゃダメなところだった? もしそうならごめんね」


「いや、気にしないで。俺もちょっと教室出るよ」




「和泉、その……大丈夫か?」


「分かってるんだよ。こうやって言わなきゃいけないことも。それにしっかり心は繋がってるんだから。ってことでさ、今日も大樹くんのお家行くからね」


さっきまでの寂しそうな表情はどこへやら。今日も俺の家でイチャイチャすることが確定した瑞波の笑顔はいつも以上に輝いている。


「私は教室に戻るからね。じゃあ勉強頑張ろ?」


「うん。春に一緒に旅行行くためにもね」


瑞波は教室に入って行った。俺も早く教室に戻ろう。


まだ2月の廊下はかなり寒い。今もこの長い廊下に出ている人は俺以外全然いない。


「瑞波、俺に気にさせないようにと言ってくれたよな」


そんな風に考えていた時だ。俺に声を掛けてきたのは。


「なにそんな景気の悪い顔してるのよ。留年でもしそうなの?」


俺に声を掛けてきたのはまさかの白井さんだった。




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