第55話 突然の女の子

「ただいま~勉強勉強勉強!」


 そう言って階段を駆け上がる。なんかこのセリフ昔のなんかの宣伝みたいだ。あれはてんじ……あと一文字出てこなかった。


「大樹ちゃんと手洗いなさいよ」


 まるで子供にいうようなことを言われてしまったが、カバンを自分の部屋に置いてからでもいいだろう。


「今帰ったよ俺の部屋! ってあれ……?」


 勢いよくドアを開けるとそこにはいるはずのない人が俺のベッドに座って本を読んでいた。


 見間違いだろうと目をこすってみるのだがその女の子の姿は変わらない。


「失礼しました」


 勢いよく開けたドアをゆっくりと閉めた。うん。もうすでに勉強のし過ぎで頭がおかしくなったらしい。いや、勉強して頭おかしくなったら本末転倒だけど。


「どうして閉めちゃうの!?」


 そこにいたのは瑞波ではなく。瑞波よりちょっと小さい女の子。そんな女の子がぎゅっと俺の手を掴んで来た。


「ちょっとたーにい! なんで逃げようとしたの!」


「なんでここにいるのさそらちゃん」


 この女の子は従妹の芦原天あしはらそらちゃん。お母さんのお姉さんの子供で小さい頃はよく遊んだ覚えがある。


「天はたーにいのこと大好きだからこうして会いに来たの」


「そういうの良いからね。で、今日は学校じゃないの? ってかこんなところ瑞波に見られたら浮気と勘違いされるだろ」


「ん? 瑞波ってだれ?」


「今はそれはいいの。とにかくひっつかない。もう高校生になるんだろ?」


 自分で言ってふと思った。あれ? 今年高校生になるなら今って受験期真っ只中なはず。こんなところで遊んでる暇なんてないはずだ。


 ちなみに天ちゃんは小動物のように小さく小学校高学年といったらそれで通じそうなくらいに小さい。


「今、天がここにいるのはねたーにいにお知らせがあるからなの」


「お知らせって?」


「ふふーん。天ね高校受験に合格したの!!」


「ふーん……え? 天ちゃん合格したの!?」


 これには驚いた。今年は受験の年だからっておじいちゃんの家にも来てなかったけどまさかみんなより早く合格をもぎ取るとは。


「推薦入試だったからね」


「推薦って学校で成績が良くないと取れないのによく通ったな。俺にはいたずらっ子なイメージしかない」


「それにはいろいろ言いたいことがあるけど今はいいや。そ・れ・よ・り!」


 グイっと天ちゃんが俺に顔を近づける。


「受験合格したからご褒美に頭なでなでして!」


「ぶっ!」


 なんか全然変わってないな。もう高校生になるっていうのに小学生のころみたいなこと言って。でもまぁ受験頑張ったんだしそれくらいなら。


 そう思いながら天ちゃんの頭に手を乗せようとした瞬間、背後から恐ろしい空気が漂って来た。


「た~い~き~く~ん? 浮気かな?」


 何故俺の家には住人でない人がこんなに多くいるんだろう。それに瑞波の気配さっきまで一切しなかったんだけど。



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