第53話 バレンタイン(5)
「大樹くん。次はこれなんだけど」
瑞波お手製の生チョコを堪能した後、次は俺に手紙をくれた。
「ちょっと待って!! それは今読んじゃダメ! 今読まれたら恥ずかしい!」
封を開けようとしたら瑞波に全力で阻止されてしまった。顔を真っ赤にして必死に俺の手首をつかんでいる。
そんなに恥ずかしいことを書いたのかと思ってしまう。それって俺が読んでもいいの?
「大樹くんには読んで欲しいから。家に帰ったら読んでね」
絶対家で読んでということで俺はその手紙をカバンの中に入れておいた。
「そろそろ暗くなったし俺、帰らないと」
窓の外を見るともう辺りは暗くなっている。さっき眠っていた時間が思ったより長かったみたいだ。
「ほんとは帰りたくないんだけどさ」
楽しい時間は本当にあっという間に過ぎていく。そしてそんな日々は明日からも続いていくと思っていてもやっぱり寂しさだとかを感じてしまう。
「うん分かってるよ。私も帰って欲しくないもん……」
「瑞波……」
「大樹くん……」
お互い目を瞑って。でも唇は少しずつ近づいていく。そして俺たちの唇が重なって……
てててってってってってん♪
「「……」」
まさかのこのタイミングでの着信。俺のスマホかららしい。こんなことになるならマナーモードにしておけばよかった。
ごめんと謝ってスマホを見る。母さんからの着信だった。瑞波も気になっていそうな感じだったのでどうせ大した内容でもないと思いハンズフリーモードで通話することにした。
「なに」
「あ、大樹? お楽しみ中にごめんなさいね」
「お楽しみってどういう事ですかねえ!?」
会話初っ端からの爆弾発言にドキッとした。ちょっと待て。母さん俺たちのこと見てる訳じゃないよな?
「もううるさいわね。それで今瑞波ちゃんとデートかなにかしてるんでしょ? お母さんとお父さんも今日出掛けることにしたから瑞波ちゃん連れこんじゃっていいわよ。私たちも夜遅くにならないと帰らないから。なんならどこかにお泊りしてもオッケーよ」
「マジで言ってることが分からないんだけど!?」
これ以上瑞波に聞かれるとまずいのでハンズフリーモードをOFFにする。母さんこんなやばい人だったっけ?
「とにかくそういうことだから。じゃあね~」
母さんはそれだけ言い残して通話を切った。
「「……」」
それと同時に訪れる静寂。気まずいにもほどがある。母さんやってくれたな。
「あのさ、大樹くん」
「あ、さっきのは気にしなくていいから! 母さんが冗談で言っただけだからさ。ということで俺は帰ろうかな」
そう言ってカバンを持って部屋を出ようとしたのだが、瑞波にがっちりと手を掴まれてしまった。そして上目遣いで言って来た。
「ほんとに帰っちゃうの?」
「っ!」
その言葉に俺はその場から動けなくなってしまった。
「泊まって行かない?」
「い、いやいやいや! それは流石に急にもほどがあるし、服もないしお泊まりは春休みどこか遠くにデート行くって約束してるしさ。まだちょっと覚悟決まってないので勘弁してください」
あれだけイチャイチャはしても一晩一緒っていうのには相当な覚悟がいる。深くは言わないけどいるんだよ。うん。
俺の必死な訴えが功を奏したのか、瑞波はちょっと残念そうにだけど分かったと言ってくれた。
「だけど晩ご飯は食べて行って。それと……春休みは本当に期待するからね。私も覚悟決めるから」
退路を断たれた俺。春休みが楽しみでもあり怖くもある。
ってその前に学年末頑張らないと何にも始まらないんだけどな。
こうして俺たちの初めてのバレンタインは過ぎて行った。
本当に最高だった。
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