第50話 バレンタイン(2)

「お、お待たせ〜……」


 キィッと小さなドアの開く音がして瑞波が入ってくるのかと思ったのに一向に入ってくる気配がない。


 ドアだけが開ききってシーンとした空気が流れる。


「瑞波……?」


「えっ、あ、ごめんねちょっと緊張しちゃって」


 そう言うとスーハースーハーと深呼吸が聞こえてくる。うーん。何がそんなに瑞波を緊張させているんだろう。


「よしっ!」


 そんな一息と共に瑞波が部屋に入って来た。別に変な格好をしているわけでもなく、さっきと同じ服装のままだ。


 でも瑞波の手には黒く輝く箱と、レターパックが。


「今度こそお待たせ。こういうのは私、初めてだから」


 そしてコトンとリボンで結ばれた箱とレターパックを机に置く。


「それじゃあ気を取り直して! 大樹くん! ハッピーバレンタイン! イェーイ!!」


「イ、イェ〜イ?」


 ノリが全然わかんない。最近のみんなはこうしてバレンタインを迎えてるのか?


 そんな戸惑う俺に瑞波はほっぺたをぶぅっと膨らませて机をバンバン叩いて言ってきた。


「ちょっと大樹くんノリが悪いよ。せっかくのバレンタインなんだからもっとテンションハイにしないと」


「バレンタインってそう言うイベントなの?」


「私もよく分からないけど昨日友達に聞いたらこんな感じにするんだって。それで後はこのままキスを……」


「ちょっと待ってちょっと待って。流石にそれはないと思うんだけど。っていうか誰に聞いたの?」


「桃華ちゃんが教えてくれたの。世の中のカップルはそうするんだよって」


 桃華ちゃんってあの初詣で出会った女の子だよな。そんなでデマ情報流さなくても。


 って……ん? なんで知ってる? あの時にバレてた? あれ?


 急に焦ってきた。これ女の子同士で回されてるやつじゃ?


「瑞波。桃華さんって俺たちが付き合ってること知ってるの?」


「あっ……うん。そう。桃華ちゃんは私が大樹くんのこと好きっていうのも知ってていろいろアドバイスとかもくれたの。ごめんね。黙ってて。私たちが付き合ってるってことはみんなには内緒なのに」


 シュンとしてしまった瑞波。俺は慌てて言葉を繋ぐ。


「大丈夫大丈夫! 仕方ないよそれは。っていうかそこまで俺のこといろいろと考えてくれてたんだね」


 瑞波の友達の桃華さんが俺たちと付き合っているということより、俺は桃華さんと俺たちが付き合う前にしてもらっていたアドバイスとかに興味が湧いた。


 どんなことを言っていたんだろう。俺のいいところ悪いところを言っていたりしたのかな。


 すごい興味ある。悪いところがあるのならそこはしっかり直したいし、もしいいところがあるのならそこは伸ばしていきたい。


「それで桃華さんになんて言ってたの?」


「えっ? そ、それはまぁ女の子同士の秘密っていうか? あんまり教えられないの」


 それって結構いろいろ言われてたとか? 実は俺の行動に少し難があったとか?


「大樹くんの悪口を言ってたわけじゃないから! もう良いところありすぎてそれをたくさん桃華ちゃんに言ってたの。ってすっごい恥ずかしい!」


 不安感が顔に出ていたのか、瑞波はブンブンと手を振って俺に捕捉をしてくれた。


 そしてそのまま顔を真っ赤にさせて机に突っ伏してしまった。


「瑞波ありがとな。そこまで俺のこといろいろ見ててくれて。すごい嬉しいよ」


「もうっ! そうやってからかって!」


 どんなことを言っていたのか聞いてみたかったけど瑞波が絶対に答えてくれそうになかったので今回は諦めた。



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