第49話 バレンタイン

「はいじゃあ解散! 明日からテスト週間だからしっかり勉強する様に。成績悪かったら部活させん! とは言わんけどちゃんと頑張るんだぞ」


 先生のありがたーいお言葉が終わって今日の部活が終わった。いつもならみんなぞろぞろと部室に戻っていくけれど今日はその場から一歩も動かない。


 その理由は明白。


「はいどうぞ。はい先輩。はい。あんまり美味しくないかもだけど」


 そう言って瑞波が部員全員にチョコレートを渡していく。つまりそういうことだ。


 みんなめっちゃ嬉しそうに瑞波からチョコレートを受け取っていく。


「和泉さんありがとう! 義理でも最高に嬉しいぜ!」


「今年チョコゼロじゃねぇぞ俺たち!」


 わっしょいわっしょいとお祭り騒ぎ。先生。今、チョコもらった時ニヤけてましたよ。


「はい、大樹くん。どうぞ」


「あ、ありがとう」


 可愛らしくラッピングされたチョコレート。こうしてチョコを貰うと嬉しい。みんなが騒ぐのもわかる。


 でもちょっと独占欲が湧いてしまうのは俺の心が狭いからなのだろうか。


(大樹くんには後で特製のチョコ渡すからね。楽しみにしてて)


 俺の手を見てそう言ってくれる。たぶんそう言ってるんだと思う。






「パンパパーン! いらっしゃい大樹くん!」


 そして瑞波の家にお邪魔した瞬間、こうして盛大に迎えてくれた。


「バレンタインってこんな感じだっけ?」


 こうしてくれるのはとても嬉しいけどバレンタインってこんなパーティーみたいな感じだっけ?


 よく思い浮かべるシーンは好きな人に想いを伝えるなんか落ち着いた雰囲気の日なイメージがある。


 そんな俺を見て瑞波がふふんと胸を張る。それと同時に少しある部分を見てしまったのは秘密だ。


「分かってないなぁ大樹くんは。バレンタインって言うのは大好きな彼氏に思う存分甘えていい日なんだよ。ホワイトデーはその逆」


 へぇ。知らなかった。世の中ってそんなふうになってたんだ。


「と、言うことで今日はたくさん甘えます。ささっ、はやくはやく」


 そう言って瑞波の部屋に通してくれた。やっぱりこの部屋すっごいいい匂いする。


「それじゃあ大樹くんはちょっと待っててね。いろいろ準備があるから」


 瑞波はそれだけ言うと部屋を出て一階へ降りて行った。


 1人残された俺だけど、内心は心臓バクバクだ。


 バレンタインデーに彼女の家に来た。こんなこと俺の人生で初めてだ。去年までこんなイベントなかったので。


「お待たせ〜。ジュースとか持ってきたよ」


 お盆にコップとペットボトル、お菓子をのせて部屋に戻ってきた。そして俺の隣に座ると思いきや


「じゃあまたちょっと待っててね」


「え? まだ何かあるの?」


 瑞波は内緒とだけ言い残してまた部屋を出て行った。


 それからすぐ瑞波は帰ってきた。


 カチャ……


「お、お待たせ〜……」



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