第44話 風邪ひいたら
「う~ん。これはガチで暇だ。学年末テストも近いっていうのに何もできないなんて」
自室のベッドの上でポツリと一言。誰かが答えてくれるわけでもない。
学校を早退した後病院に行ったのだがインフルエンザではなく普通の風邪という診断を受けた。インフルエンザだったらかなり長い時間学校を休まないといけないのでマジでインフルエンザじゃなくてよかったと思う。
瑞波にもただの風邪だとメッセージを送ったら、安心したっていうこととお大事にっていう内容の返事がやばいくらいに来てた。
「ただマジなほうでどうしよう。熱も下がったしそろそろ学校行けると思ったのに母さんまだダメっていうし」
言葉通り俺の風邪はたぶん完治してると思っていい。熱も次の日には下がってたし、咳とかも出ない。なのに母さんが大事を取って明日まで休ませると言って聞いてくれない。
心配してくれてるのも分かるし下手に無理してまた熱を出すとかってなるといけないので従うけど。何回も言おう。暇だと。
「勉強しようかなあ。動画とかもけっこう観たし、ラノベも相当読んだしなぁ」
することがなさ過ぎてついに勉強しようか悩んでしまう状況。俺の成績自体は半分よりけっこう上だけど、かなり詰め込むタイプ。
つまりおさらいテスト的なやつをやられると悲惨な結果になると思う。
「お昼ごはん食べてなんか眠くなったし軽く寝てから勉強しよ」
そう言って俺は目を閉じる。そう言えば今日は職員会議で部活もなくて午後には授業終わるんだっけ。
風邪ひいてなかったらこういう時瑞波と一緒にどこかに行けたのにな。もうしばらく瑞波と会ってないしそろそろ会いたい。
でも万全の状態で会いたいしもうしばらくの我慢だ。俺はそう考えながら眠りについた。
「ピンポーン!」
俺が寝て20分くらい経っただろうか。玄関の方からインターホンが鳴り俺はその音で目を覚ました。一階には母さんがいるしこのまままた寝ても問題ないだろう。
玄関の方からは母さんの大きな話声が聞こえてくる。中に入ってとか聞こえてくるから多分ママ友が来たんだと思う。
と、しばらく寝ずにぼーっとしていると階段を上ってくる音がした。母さんが俺の様子を見に来たらしい。丁度良かった。飲み物がなくなったしスポーツドリンクを頼もう。
「母さん喉乾いたからなにか飲み物持って……」
ドアを開けた瞬間母さんに飲み物を頼もうとしたらドアの向こうにあったのは俺のよく知る、でもここにはいないはずの人物の顔だった。
「なんで瑞波がここに……?」
そう。俺の部屋の入り口にいるのは紛れもない和泉瑞波その人だった。後ろには母さんがいてすごいニヤニヤしながらこっちを見ている。
「えへへ。ちょっとお見舞いに来ちゃった」
嬉しそうに俺の部屋の中をぐるりと見渡すと瑞波が俺のベッドに近づいて来た。
「久しぶりだね、大樹くん。なかなか会えないから寂しかったよ」
「あ……うん。俺もそうだった。それでなんで瑞波がここにいるんだ?」
これは幻覚だろうか。俺が瑞波に会いたいって考えすぎてみてしまった幻? それにしてはリアリティがあるし、ふわっと瑞波から甘い匂いが漂ってきてる。
「だから言ったでしょ? お見舞いに来たって。まぁ私がもう我慢できなくて急に来ちゃったんだけどね」
そう言って寝ている俺の横に腰を下ろした瑞波。どうやらこれは幻でも夢でもないらしい。
「もう和泉ちゃんったら積極的ねぇ! 大樹もこんなに可愛い彼女がいるならもっと早く教えなさいよ! 最初びっくり
しちゃったんだから」
瑞波の後ろでニヤニヤしてた母さんも中に入ってきた。うん。母さんのあの表情はけっこうめんどくさいこと考えてる顔だ。
「はい大樹くん。スポーツドリンクとかゼリー飲料とか買って来たからもし良かったら飲んでね」
「瑞波ありがとう。それで母さんはそろそろ出て行ってくれると嬉しいんだけど」
「もうそんなに和泉ちゃんと2人になりたいの?」
あ~もうめんどくさい! これだから瑞波を家に連れて来たくなかったんだ。でも俺の事心配して来てくれた瑞波は何にも悪くない。
悪いのはこのめんどくさい母さんだ。
「あ、お義母さん。私のことは和泉じゃなくて瑞波って呼んで下さい」
「もうすごいいい子じゃない! 大樹! この子絶対離しちゃダメよ! あんたにこれ以上の子は絶対寄ってこないんだから!」
「失礼だな!」
確かに瑞波以上にいい人なんて俺の中にはいないけども。
「まぁ邪魔者のお母さんはもう撤収しまーす。あとはお二人でごゆっくり」
それだけ言うと場を乱しに乱した母さんはどこかへ行ってしまった。
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