第41話 瑞波も挨拶

「着いたね購買。さてさて何が残ってるかな?」


 人気のなくなった購買。なぜ人気がないのか。そんなこと分かり切ってる。


「ってもうパンないじゃん!」


「ごめんね〜もう売り切れててね。今日も争いが激しくてさ」


 購買のおばちゃんが申し訳なさそうに誤ってる。まぁこれは想定内。パンがなくなればもう購買に来る必要ないもんな。


「おばちゃん、予約してある空閑です」


「あーはいはい空閑くんね。ちょっと待っててね」


 おばちゃんはそういうと奥へ行って俺のパンを持ってきてくれた。


「はい、お待たせ。空閑くんね。お金は昨日貰ってるから。毎度ありがとね」


 パンの入った袋を受け取って購買を後にする。


「本当に全部無くなってるんだね。私、来たことないからびっくりしちゃった」


「そうだろ? 瑞波はあの戦いを見たことないだろうけどあれはやばいから絶対行くんじゃないぞ。瑞波が怪我したら嫌だからな」


「そんなに激しい戦いなんだ。でも私が怪我したら看病してくれるよね?」


「あほっ」


 瑞波の頭をコツンとしておく。痛くないはずなのに「いた〜い」って俺の方を可愛く見てくるけどここは我慢だ。我慢。


「も〜冗談だよ。でも大樹くんがもし風邪引いたら私が看病してあげるからね。もちろん健康が1番だけどね」


「瑞波に看病か……」


 瑞波に看病されているところを想像してみる。あーんされたり少し甘えてみたり。


「それも悪くないな」


 それどころかめっちゃいいじゃないか。でも瑞波に移してしまうかもしれないからな。いいことだらけではない。


「それでも憧れる。インフルエンザとかじゃなければ大丈夫か?」


 そこら辺どうなんだろう。ちょっと養護教諭に聞いてみるか。


「こらっ。変なこと考えない。そんな悪いこと言うのはこの口か〜」


「こめんなしゃい〜」


 ほっぺを両手でぷにーっと押されて変な声が出てしまった。まぁそうだな。冗談はもうやめておこう。


「もうっ。でもでもさもし、もしだよ? 大樹くんが風邪引いちゃった時に私看病したいから今度の土曜日とか大樹くんの家行ってもいい? そういえば大樹くんの家の場所知らなかったなって」


「そ、そうだな。確かに瑞波に家の場所ちゃんと教えてなかったよね。うん、後で地図アプリで見せるよ」


「違う違う。ちゃんと一緒に行きたいの。まだ大樹くんのご両親に挨拶してないしね。緊張するけどやっぱりしておかないと」


「いやいや。そんなことしなくて大丈夫だよ」


 瑞波と付き合ってるとか知られたらどんな反応されるかわからない。たぶん世紀最大のめんどくさいことになりそう。


 クリスマスの日、瑞波と出掛けに行った時はなんかお母さんが良い感じなこと言ってたけど。でも瑞波を連れていくのは危険すぎる。


 下手したらお母さん瑞波に変な事吹き込みそうだし。


「ダメだよ。やっぱりちゃんと挨拶には行かないと。お義母さんとしっかりお話して将来私たちが結ばれたときに仲良くできるようにしたい」


「瑞波……」


 そこまでしっかり考えてくれていてこれ以上ダメとは言えなかった。こうなったら親が発狂しないことを祈るしかない。


「そうだな。俺だって瑞波の両親に挨拶してるんだし。今度紹介するよ」


「やった〜! ありがとう大樹くん! やっぱり手土産とかいるかな?」


「そんなことしなくていいから、いつも俺と一緒にいる感じでいいよ」


 そうは言ったけど瑞波の気持ちすごいわかる。両親と会うって言うのはやばいほどに緊張するものなんだ。


 そんな話をしながら廊下を自分たちのクラスがある方へ歩いていく。後少しすれば到着するので瑞波とこうして喋るのも終わりだ。


「そろそろ着くね。ちょっと寂しい」


「そうだな。あ、瑞波これあげる」


 買ってきたパンの入った袋から1つを瑞波に手渡す。受け取ってから驚く瑞波。


「これって? メロンパン?」


 瑞波に手渡したのはメロンパン。しかし、これはただのメロンパンじゃない。無料って意味じゃないよ?


「そうそう。中にホイップクリームが入っててめっちゃ美味しいんだ。瑞波にも食べて欲しい」


 修が食べたかってたやつもこれ。修にお使い頼まれてたけどそれは余ってたら買ってこいって意味で俺の予約品を売るってことじゃないからセーフ。


「ありがとう大樹くん。大事に食べるね」


「うん。食べ終わったら感想欲しいな」


「分かった! 上手な食レポ考えておく!」


 そうして瑞波は手を振って教室の前の扉から中に入って行った。俺は逆の後ろの扉から入っていった。




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