第37話 合言葉と愛言葉
長い三連休が終わり、さらに長いと感じる午前中の授業も終わってようやく昼休みに。
そしてやって来たみんながいるホームルーム棟ではない本館。本館は理科とか家庭科みたいなふつうの教室ではできないような科目の時に利用される。
四時間目の授業が終わってぞろぞろと自分たちのクラスに戻って行く生徒たち。その流れに逆らうようにしてたどり着いたのは生物講義室の前。
ガラガラと扉を開けるとそこには誰も居ない。瑞波とは別々に来る約束をしてるのであと2,3分もすれば来てくれると思う。
コンコン。
椅子に座って瑞波を待っているとドアをノックする音が。瑞波はここに俺がいるって分かってるはずだから他の人?
生物担当の優しいおばちゃん先生には使うよって言ってあるから別の先生にもお咎めなしだとは思うんだけど。
「は~い?」
とにかくドアをノックした人をそのままにしておくのも悪いので返事を。
「合言葉を述べよ。いや、この場合は愛なのかな? と、とにかく愛言葉を述べよ! 大樹くんは瑞波のことが…」
「え? どうした急に。そこにいるの瑞波なんだろ?」
どうやらノックをしたのは瑞波らしい。ただこの状況はなんなんだろうか。急に合言葉とか言い出して。
もちろんそんな事前打ち合わせみたいなことはしてないので正解が分からない。それに合言葉って中の人間が外の人間を入れるときに使うものじゃなかったっけ?
「ちょっと早く答えてよ!」
答えなくても鍵もかかってないし入ってくればいいのに。
「ほら、もう一回言うからね。大樹くんは瑞波のことが…」
「ってそんな合言葉あるか!」
さっきは合言葉というパワーワードに意識が持っていかれてて全然分からなかったけどそんなこと言ってたのか!
「あるに決まってるよ! 愛言葉っていうのは愛を確かめる行為なんだから」
そんなこと初めて聞いたんだけど。仲間かどうか確かめるのが起源じゃないだろうか。
「もう。大樹くんは瑞波のことが…」
あ、これ絶対引かないやつだ。瑞波これは絶対に俺に言わせる気だ。
「大好きです」
学校でこんなこと言うのすごい恥ずかしいけどここで押し問答しても仕方ないので素直にいう事にした。別にツンデレじゃないからね。
「えへへ~。そうなんだ。大樹くんそんなに私のこと好きなんだぁ」
ガラガラとドアを開けた瑞波はかなりご満悦といった表情で俺の方を見ていた。なんか瑞波にしてやられた感がすごい。
「ふふふ。そう言ってくれて嬉しかった。私も大樹くんのこと大好きだよ?」
「っっ~~~!!」
「あ~照れてる~。もう可愛いなあ。私たちキスとかまでしちゃったのに初心なところもあるんだね」
「そんなのいいから。ほら早く食べよう」
「うん、そうだね。でもなんだかこういう密会みたいなのも良いよね。みんなの目が無いから何してもばれないし」
「そんなことしないよ!? そういう事するためにここに来たんじゃないんだからね!?」
「分かってるよ。大丈夫」
本当だろうか。瑞波って結構グイグイくるタイプだからなあ。そこも良いところなんだけど。
「それでね今日は頑張って作って来たんだよ」
生物講義室は教室みたいな1人1机ではなく4人グループで一つの机を利用するのでこうして二人で並ぶにはすごい便利だ。
「じゃじゃーん。これが今日のお弁当だよ!」
「おぉっ!!」
なんと瑞波が持って来てくれたの一人用のお弁当箱じゃなくてピクニックで使うような大きめのお弁当箱だった。
そしてその中に詰められていたのは黄金に輝く(俺の目から見たら)おかずたち。小さいハンバーグにたこさんウインナー。ポテトサラダにおにぎり。
控えめに言っても神がかってる弁当だった。
「ちょっと頑張っちゃった。いろいろ大樹くんに食べて欲しくて」
「ありがとう瑞波。俺、すごい幸せだ」
「大げさだよ。これくらいどうってことないよ」
大げさなんかじゃない。だってこんなに作るのにどれだけ時間がかかるだろうか。多分今日は結構早起きしてるに違いない。
そこまでしてくれて俺のためにお弁当を作ってくれたっていう事がすごい嬉しかった。
「よ~し。それじゃあ食べよっか!」
「そうだね。瑞波の料理だからすごい美味しんだろうな」
「「いただきます!!」」
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