第36話 白井さん
「はぁ…まさかいつものメンバーが全員風邪だなんて」
3学期が始まって2日目。いつもご飯食べてるメンバーが全員まさかの風邪で欠席。いつもぬくぬくなこたつの中で過ごしてたから急な変化に身体がついていかなかったとか言ってた。
でもそんなぬくぬくな生活をしてたのは隼人だけなはずで、純也とか修とかは俺と同じように部活だったのになんで風邪ひいたんだろ。
まあそんなこと言っても仕方ない。3人には早い回復を祈っておこう。どうせ風邪ひいたことを良いことにゲームずっとやってるんだろうな。
そんなことを考えながら教室の扉を開ける。俺が入ろうとしてる教室は空き教室。つまり誰も居ない場所。
お弁当持ってここに来たっていう事はその通り。俗に言うボッチ飯。
いやいや、他の友達と食べればいいだろとか思うだろうけど中々そんなこと出来ないんだよ。簡単に喋るくらいは誰とでも出来るけどお昼ご飯を一緒に食べるのはハードルが高い。
分かってくれる人もいるんじゃないだろうか。違うグループに入る難しさを。
どうせ明日からまた土曜日だから今日1日くらい気分転換ってことで。朗報なのが月曜日が成人の日なので三連休ってことだ!
「しつれいしま~す」
誰も居るはずのない教室のドアを恐る恐る開ける。うちの学校は全館冷暖房設備完備なので誰も居ない教室でも寒いことはない。
お金とか電気とか諸々がもったいない気もするけどありがたく有効活用させてもらおう。
「誰も居ない教室か。新鮮だな。暖房の近くに座ろう」
ドアを閉めて暖房機の方に移動しようとしたのだが。
「私がいるんですけど」
「わぁ!?」
まさかの先客がいらっしゃった。机にお弁当を広げて1人でもくもくと食べている。
ただその顔には見覚えがあった。少し茶色っぽいセミロング。そしてすごく可愛い。瑞波一筋の俺でなければ一目惚れするくらいに。
そうだ。この人が隼人が好きだと言っていた白井亜由美さんだ。
ただなんでこんなところにいるんだろう。白井さんは男子に超人気だからてっきり教室でみんなでご飯食べてると思ってたのに。
俺にかけた声もなんだかトゲがあるってわけじゃないけどちょっと冷たい感じしたし。
「それで今日はここでどうしたの? あ、ここで私がお昼食べてることは秘密だよ?」
「え?」
なんか急に人が変わったかのようなフレンドリーな話し方を変わったんだけど。
「あれあれ? どうしたの?」
「あの白井さんさっきと雰囲気変わった?」
「なんのことかな? 私の名前知っててくれたんだね。それでそれで君はどうしてここに〜? 名前はなんて言うの?」
「あ、空閑大樹です。今日ちょっと友達が風邪ひいたから気分転換にこっちで食べてみようかなって」
「そうなんだ。空閑くんは今日だけなんだよね?」
「うん。今日だけだと思う」
「そっかそっか」
白井さんはそれだけいうとまたお弁当を食べて始めた。いろいろな疑問が浮かんでくるけど初対面だし深く詮索するのは辞めておこう。
ということで俺も初の完璧なボッチではないけど1人でお昼を食べることにしよう。はぁ、瑞波と一緒に食べたい…
そうしたら絶対楽しいだろうなぁ。正面に座って雑談しながらとか。たまにあーんとかまでしたらもう幸せだろうな。
「空閑くんって彼女とかいるの?」
「ゴホッゴホッ! い、いきなりどうした?」
「ちょっと気になっただけだよ。いるの?」
「いるよ。誰かは言えないけど大切な人がね」
「ふーん。なるほど。だからか」
「なにか言った?」
「ううん。なにも言ってないよ。じゃあ私は食べ終わったから。じゃあね」
そう言って白井さんはお弁当箱を持って教室を出て行ってしまった。掴み所のない感じの人だったな。
◆◆◆
そして放課後の部活も終わって今は瑞波と通話している最中だ。
「と、言うわけで俺は瑞波と一緒にお弁当が食べたい」
「私もすっごいわかる! 友達と一緒に食べるのもいいんだけどやっぱり大樹くんとも過ごしたい。事情があるから難しいけどしてみたいな」
教室で思いっきり2人で机をくっ付けて一緒にご飯を食べるのは難しい。でも今日の昼みたいにあんまり人がいないところならどうだろう。
少子化のせいで空き教室が増えている。そういう教室は多目的室として授業で使われることはあってもその他の用途で使うことは滅多にない。
そこなら大丈夫なんじゃないだろうか。
「うん! そうしよう! ホームルーム棟じゃなくて本館とかにも空いてる教室あるしね。美穂ちゃんたちに言っておかないと」
瑞波は俺の提案に笑顔で乗ってくれた。2人だけの空間か。なんか良いな。
「なら火曜日は私がお弁当作ってきてあげる! とっても美味しいお弁当作ってきてあげるから楽しみにしててね!」
瑞波と一緒にご飯を食べられることも、嬉しいけどお弁当を作ってくれるっていうのが想像以上に嬉しかった。
もう三連休とかどうでもいいから早く火曜日の昼になってくと思う俺だった。
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