第34話 お父さんよりも瑞波は強い
「2人とも~夕食出来たから降りてきて~」
一階から瑞波のお母さんの呼ぶ声が聞こえる。「はーい」と瑞波が大きな声で答えてベッドから抜け出す。それに習って俺もベッドから抜け出して一階へ向かう。
なんでベッドに2人がいたかというとそれは瑞波襲われた後寝転がって春休みに行くデートの場所を考えていた。それだけだ。
もちろん変なことはしてないし、ベッドの上でキスなんて少ししかしてない。
「お母さんの料理ってとっても美味しいから期待してていいよ。私も練習してるんだけどね」
「瑞波の作ってくれたビーフシチューもすごい美味しかったよ。また作ってくれると嬉しいな」
「えへへ。そう? そう言って貰えるととっても嬉しい。また作ってあげる! 次はもっと美味しいもの作って見せるから!」
そう言って顔をほころばせる。前回食べたビーフシチューだって俺が今まで食べた料理の中で一番美味しいと思ったものなのにそれ以上のものとか期待値がグングン上がっていくんだけど。
そんなことを考えながらリビングの扉を開いた瞬間、息を飲んだ。
瑞波のお父さんがいらっしゃる!! 何の音もしなかったのに!
「あれ? どうしたの? そんなところで立ってないで早く入っていいよ」
「あ、うん…」
そうはいうものの俺の足が動いてくれない。失礼な言い方になってしまうけど魔王の居城に行くって感じ。もうやばたん。
今、お父さんは後ろ向いてて表情がめっちゃ怖かったらどうしよう。娘は渡さん!! とか言うお父さんをドラマとかでみたことあるしなぁ。
「空閑くんの席はこっちね。瑞波の隣。ささっ座って座って」
「あ、はい」
ある種の覚悟を決めて俺は瑞波のお父さんお母さんが座る席の正面に腰を下ろした。瑞波もおれの横に座ってる。
ここに美味しそうに湯気の出てるハンバーグがなかったら最早正式なご両親への挨拶になってしまうのではないかと思ってしまう。
「君が瑞波の彼氏の空閑大樹君か」
少し威圧感のある声にただでさえピンと張った背筋が限界まで伸びた。
「そうです。瑞波さんとお付き合いさせて頂いております空閑大樹です」
出来るだけ丁寧にゆっくりと。第一印象はとても大切。瑞波のお母さんの時よりずっと緊張する。
「そうか…」
お父さんはそれだけ言うと黙ってしまった。何なんだろうこの雰囲気。落ち着かない…
「…………」
ふと、お父さんの顔を見てみるとなんだか顔は赤いし、ちょっとプルプル肩が震えてるような…まさか気に障るようなことをしてしまったとか?
いや。でもまだ挨拶しかしてないのに。
「あの…」
「空閑君」
そう言ってガバッと立ったかと思うと両手で俺の肩をしっかり持った。そして少し力を込めて俺の肩を叩く。前のめりになったせいで服にデミグラスソースが付いてることなんてお構いなしに。
「いや~君が空閑君なのか。うんうんしっかりした子じゃないか! 身体もしっかりしてるしイケメンだな! 一年でもうレギュラーなんだって? 素晴らしい努力の賜物だな! 空閑君は今日から私のことはお義父さんって呼んでくれ! もしくは和彦でもいいぞ! 好きな方で呼んでくれ!」
な、なんなんだ! このマシンガントークは! 顔もすごい笑顔だし何があったんだ!?
「あなた、もう我慢できなかったのね」
「あの…これはどういう?」
「瑞波がよく空閑くんの話で惚気てるっていう事はさっき二階で話したでしょ? この人ったらもう会いたい会いたいってうるさくて。瑞波の前では親の威厳がどうのこうので気にしてない振りしてたけど実際に会ってもう限界だったみたい」
「私そんな話聞いたの初めてなんだけど! こんなテンションハイなお父さん見るのも初めてだし」
瑞波も驚いてるけど俺も相当驚いてる。瑞波の両親やばいな。さっきまで緊張してた自分が何なんだったんだろうって感じだ。
「よし! 今日はめでたいし一杯やるか! ってソースが付いてるんだけど!? いつの間に!?」
もうテンションがやばい。1人ですごい楽しんでる気がする。
「たぶんこの人は私の知らない人…私のお父さんはどちらかというと静かなはず…」
そんなこんなあったけどとても楽しい夕食になった。俺のことを受け入れて貰えたと思うし、とにかくハンバーグが美味しかった。
◆◆◆
「ごちそうさまでした。とっても美味しかったです」
「そう言ってくれて嬉しいわ。またいつでも来てね」
「うんうん。次はもっと沢山話そう」
「はいはい。お父さんお母さんはもう戻っていいよ」
玄関でお見送りしてくれてる両親をグイグイと退場させて玄関先で瑞波と2人きり。もう陽もすっかり落ちて夜になっている。一月の夜はやっぱり寒い。
「じゃあ…大樹くんまた明日ね。明日から学校が始まるけど頑張ろうね」
「うん。じゃあまた明日」
手を振ってそのまま家路につこうとした瞬間…
「ん~♡」
「っっっっっ~!!!」
「えへへ。おやすみのキスだよ。それじゃあね!」
「あ、あぁ…」
俺は半ば意識手放したような状況で家へと帰った。ただ一つ分かったのは一月の夜って暑いってことくらいだろうか。
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