第33話 嵐の後の嵐
「日も暮れてきたけど空閑くんは帰らなくてもいいの?」
「あ、はい大丈夫です。今日は家には誰も居ないので」
お父さんは今日は同僚の人と飲み会でお母さんはママ友とどっか行った。
ママ友とランチとか行くならまだしも夜遅くまで何するんだよとか思うけど、晩ご飯代として何故か5千円もくれたのでドンドン行ってくれと思う。
「空閑くんってお母さんに瑞波と付き合い始めたこと言ってないの?」
「言ってないですよ。だって話したら絶対根掘り葉掘り聞いてくるのは分かってるので。俺が言うまでは気づかないと思いますよ」
「これは女の感というより母親の感だけど多分バレてるわね」
「えっ? でも俺は本当に何にも言ってないんですよ?」
そう言えばクリスマスの日に出掛けるときにデートなのかとか聞かれたけどそれだけでそこまで分かるものなのだろうか。あの時はノリであんな事言ったのかと思ったんだけど。
「ということで今度瑞波も空閑くんのお母さんたちに挨拶に行って来なさい。いい? この挨拶はとっても重要なの。そこで好印象なら結婚までがスムーズにいく可能性大よ」
「了解です!! ちょっと良いお洋服準備しておかないと!」
ビシッと敬礼している瑞波。いやいや。待って欲しい。なんで急にそんなことが決まってるの!? それに結婚とかお母さんの口からそんな単語が出てくるとは思ってなかった。
「それじゃあ私は夕飯を作らないとね」
あれ。今の話はもう終わりなの? これはガチで俺の家に来て親に挨拶すると? それとも冗談?
「そうだ大樹くん! 今日は家でご飯食べて行ってよ! いいでしょお母さん」
「そうね。空閑くんどう? もしよかったら食べていかない?」
「流石にそれは迷惑なんじゃ…。急ですし」
主婦っていうのはしっかりと冷蔵庫の中を把握して、使う食材とかそういうのを考えてるから1人増えるだけで計画が狂ってしまうとかよく家の母親が言ってた気がする。
部活が終わって勝手に冷蔵庫の中のもの使って間食とか作るとよく言われてた。卵とご飯だけあればチャーハンが出来るあれとか作って晩ご飯の親子丼分の卵が無くなったとかね。
「大丈夫。今日はハンバーグの予定だったし、お買い得のビッグサイズ合いびき肉買ってあるから心配ご無用よ」
すごい。偶々っていうことは分かってるけど俺が晩ご飯を頂くのを事前に把握してるような感じがする。
「それならお言葉に甘えて今日はご馳走になります」
ここまで言われては断ることは無理だろう。瑞波のご両親と一緒に食事とかハードル高いけど好意を無下にも出来ないのでご馳走になることにした。
今日の晩御飯代として貰ったお金は今度の瑞波とのデートで有効活用させてもらおう。まさか5千円渡してくれたのは残りを瑞波と遊ぶためとか…? いやいや。それはないな。
「それじゃあ私は夕食を作ってるから、後は若いお二人でごゆっくり~。玉ねぎ炒めたりしてるから音漏れとか心配しないでね。1時間くらいしたら呼ぶからそれまではね。うふふ」
「私はお母さんが心配だよ! もう本当にもう大樹くんの家の娘になるから!」
「あら瑞波、兄妹は結婚できないのよ?」
「義理ならできます~問題ありませ~ん」
「はいはい。冗談はこれくらいにして私はちゃんと料理してくるから」
「先に始めたのはお母さんでしょ!」
そう言うと瑞波のお母さんは部屋を出て行った。
なんか嵐が去ったみたいな感じがする。部屋の中が急に静かになってしまった。
「な、なんか面白いお母さんだな。瑞波がいつも元気良い理由が分かった気がするよ」
「そんなのじゃないよ。すごい恥かしい。とにかくお母さんが言ったとこは無視して。気にしなくていいからね」
「う、うん分かってる」
瑞波からこれまで感じたととのない圧を感じたのでこれ以上何かを言うのは止めておこう。
「お母さん乱入でちょっと変な空気になっちゃったけど、気を取り直してもう一度ベッドの上に来てもらってもいい? 大樹くん」
「あ、あの…何故でしょう?」
気を取り直してってどういう意味なんですか。今から何をするって言うんですか。
俺が質問するともじもじしながら瑞波が答えた。
「だ、だってキスの途中でお母さん来たじゃない。私はその続きがしたいの!」
顔を真っ赤にしてそういう瑞波。「ほらほら」と恥ずかしさを誤魔化すようにベッドに誘導してくるけど俺には一つ言いたいことがあった。
「あれだけお母さんに言われてなんの躊躇もなく続きするとか瑞波すごいんだけど。それに瑞波お母さんが言ってた時しないとか言ってたような…」
「だってだってあそこで、やったーもっとたくさんキス出来る! なんて言えないでしょ! う~。もう知らない! 早くキスするの!」
「わっ、ちょっ…んっ…ん」
ちょっと強引に唇奪われた…。一階には瑞波のお母さんがいるのに。
ただキスにはそんな理性を溶かす力があるのか3秒もするうちに余計なことは考えられず瑞波の感触だけに神経が集中してしまっていた。
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