第32話 お母さんは強い

「お待たせ〜。空閑くん紅茶なんだけどいいかな?」

 

「はい紅茶は好きです。ありがとうございます」


 テーブルの上に置かれたカップを手に取り一口。あぁすごく美味しい。これはアールグレイだ。


「こっちは駅前のケーキ屋ベルガモットのシュークリームね。すごい美味しいから是非食べてね」


 なんか紅茶縛りなのかなとか思ってしまうけど偶々だよね。


 そして俺と瑞波が隣同士で座ってる中、正面に座ったお母さん。


「それでそれで? 2人はもうどこまでいっちゃったのかな? こうして家に来て遊んでるってことはもうかなりしちゃってるとか?」


「そういうのはいいからお母さん! 変な事言っちゃダメ! 今日は私が捻挫したから大樹くんが介抱してくれたの!」


 おお。本当に瑞波のお母さんすごいな。めっちゃグイグイだ。瑞波が顔真っ赤にして必死に止めようとしてる。


「そんなに必死にならなくてもいいじゃない。まぁいいわ。今はその話は置いておきましょう。でも本当ね。瑞波大丈夫なの?」


「いや、ずっと置いてて。私たちの前でそういうこと言うのは禁止ね。じゃないと家出するからね。今日大樹くんが私をおぶって送ってくれたの。それでこうしてテーピングまでしてくれて」


「それは嫌だから辞めておくわ」


 そういうとペコリと頭を下げたお母さん。


「空閑くんありがとうね。大変だったでしょう? 瑞波重いから」


「ちょっとお母さん! 私は平均的くらいだから!」


「本当に空閑くん。重いならそう言ったほうがいいわよ」


「大丈夫でした。瑞波は全然重くないですよ」


「そう? それなら空閑くんはしっかり身体鍛えてるのね。それでいつから付き合い始めたの? だいたい予想は付いてるんだけどね」


「えっと…」


 これどうやって言うのがいいんだろう。最初俺が瑞波に告白してもらったのにそれを断ってとか言いにくい。他にもいろいろと言いにくいことがある。


「それはね、クリスマスの日。あの日に私と大樹くんは付き合い始めたの」


「やっぱりね。その前の日は泣きそうな顔して帰って来てたのにクリスマスの日はもう私も見たことがないくらいの笑顔で帰って来たもん」


「そんなにあの時顔に出てた? ちょっと恥ずかしいかも」


「すぐ分かったわよ。あぁ私の娘に彼氏出来たんだって。だいたい瑞波はいつもリビングで空閑くんの話してるんだから。空閑くんに会ったのは初めてだけど思ってた通りね」


 本当にすごいな。瑞波のお母さん観察力半端ないぞ。


 ただ本当にごめんなさい。瑞波に悲しい顔させたのは俺のせいです。


「でも少し面倒臭い事情があるんでしょ?」


 それと同時にピリッとした雰囲気になった。気がした。


「詳しいことは聞いてないけどこれも女の感ね」


「すごいですね。でもそうです。どうしたらいいかちょっと分からなくて」


 瑞波とそう言うことはたくさん話したけどもし何かアドバイスをいただけるなら欲しい。


「それはあなた達2人で考えるしかないわ。でも2人のために私も一肌脱ぎましょう! 空閑くんがくる時は私、雨でも雪でも家を空けてるから何しても大丈夫!」


「お母さんそれ全然大丈夫じゃない! 私たちはそう言うのじゃないから! 清い関係だから!」


 俺が言おうとしたことを思いっきり瑞波が言ってくれた。ただやっぱり思うけど瑞波のお母さんはやばいな。どれだけはっちゃけてるんだ。


「それじゃあ瑞波。空閑くんとあんなことやこんなことしたくないの? 私が居たらそんなことしにくいわよ?」


「くっ…それは…」


 ここで瑞波がすごい顔になって葛藤してる。ただこの親子俺がいるのにすごい会話してるな。


 ちょっと会話について行けそうにないので目の前にあるシュークリームを手に取る。


 クッキーシューと言われるやつだろうか。一口食べるとサクサクの生地が口の中に広がっていく。そしてカスタードクリームがめっちゃ美味しい。濃厚な口溶け。


 瑞波たちが未だに何か口論している間に俺はパクパクとシュークリームを平らげてしまった。めっちゃ美味しかったので今度自分でも買ってみたいと思う。


「それでどう思う? あっ、大樹くんほっぺにちょっとクリーム付いてる」


「本当に? 付いてないと思ったんだけど」


「確かにほんのちょっとだからね。ほらこっち向いて」


 そう言って俺のほっぺに右手を添えて左指でサッとクリームを拭いてくれた。そして指はティッシュで拭いて…


「ん〜やっぱり美味しい! ここのシュークリームやっぱり最高!」


 ティッシュで拭くことなく指をぺろっと瑞波は舐めた。


「ちょっ瑞波!?」


「あらあら瑞波〜見せてくれるじゃない?」


「へ?」


 最初は自分が何をしたのかわかっていないであろうけどだんだんと言われたことが分かったのか顔を真っ赤にさせていく。


「今の顔なかなか見られないから写真撮っておこうかしら」


「やめて! 絶対ダメだからね!」


 こうして瑞波をからかうお母さんを見て母は強しだなと思ってしまった。





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