第31話 お母さん

「瑞波〜お客さん?」


 トントンと瑞波のお母さんが階段を上がってきてる音がする。


「どうしよう! もう10秒もしないうちに来ちゃう!」


 おろおろする瑞波を見ながら俺もどうしようか考える。ただお母さんは厳しくないらしいからそんな焦らなくてもいいと思うんだけど。


 ただそれは瑞波に対して思うことで俺は結構やばい心境だった。瑞波のお母さんに会うって言うのに何の準備もしてない!


 こんなことになるとは思っていなかったから挨拶の言葉とかそんなのも考えてないし、今俺が着てる服はお父さんの服。


 これは初回から良いイメージに出来るか分からない。


「と。とにかくベッドから出ないと! これだけは流石にまずい!」


 昼間から(もう夕方だけど)同衾してるとかお母さんに知られたらどんな理由でも1発アウトだ。


 サッとベッドから出てクッションの上に座る。瑞波も俺の横に座った。


「瑞波〜? お友達なの? ちょっと入るよー」


 ガチャっと音がして瑞波のお母さんが顔を出した。


「あら〜こんにちは。いらっしゃい。瑞波のお友達?」


 にこにこ笑顔の瑞波のお母さん。流石瑞波のお母さんというべきか美人だ。それにめっちゃ若く見える。


 って今それはいい。とにかく第一印象はとても大切に。しっかり挨拶しないと。


「お、お邪魔してます。あの、みず、和泉さんのお友達の空閑大樹です。和泉さんとは部活が同じでいつもお世話になってます」


 そしてぺこりと一礼。変なことは言ってないはず。大丈夫だと思う。


 頭を上げると瑞波のお母さんが俺の目の前まで来て俺の手をギュッと握った。何を言っているかわからないだろうが俺も全然わからない。


「あなたが大樹くんね! 瑞波があなたのことすっごく話してくれててね。空閑くんさっき瑞波のお友達って言ってたけど違うでしょう? そういうのもすっごく瑞波が教えてくれてて!」


 なんていうかすごいテンションが高い人だな。俺の手をブンブン振って楽しそうに話している。


「ちょっとちょっと! 大樹くんは私の彼氏なんだからお母さんそんなに手を握っちゃったらダメ! はい離れて離れて」


「あらあら〜そんなに嫉妬しなくていいのに〜。でも瑞波に怒られたくないならちょっと離れようかしらね」


 そう言って握っていた手を離して距離を取る。それと同時に瑞波が俺にくっついて来た。


「それでお母さん。もういいでしょ。今私たちはイチャイチャの真っ最中なんだから早く出て行ってほしい」


 グイグイとお母さんの背中を押す瑞波。


「瑞波、今私を追い出すと後で空閑くんに瑞波が私たちの前ですっごく惚気てたこととかいろいろバラしちゃうわよ。それでもいいの?」


「ぐっ…お母さんそれは卑怯だよ。お母さんそんなとこしないと思ってたのに」


「持てる武器は全て使うのが常識よ」


 瑞波とお母さんが言い争っている。なんかすごい瑞波を脅してるような発言があったけど大丈夫なのかな。ただ惚気てたっていうのはめっちゃ気になるんだけど。


「それでお母さんここに居て何をするの? 居ても結局何もすることないでしょ」


「やっぱり彼氏さんのこといろいろ知りたいじゃない。瑞波が大好きな空閑くんをね」


 なんなんだろう。多分お母さんは俺のことを受け入れてくれてると思う。ただすごく恥ずかしいこと言われてる気がする。


「あ、ちょっと私お茶とか用意してくるね。今日たまたまだけどシュークリーム買って来たの。お父さんの分は無しってことでみんなで食べちゃいましょう」


 そう言って一度お母さんは部屋から出て行った。シーンとなると部屋。ポカンとしてる俺の後ろから瑞波が手を回してくる。


 ぎゅーっと。いや…ちょっとキツイキツイ! 苦しいって!


 瑞波の手をポンポンと叩くと少しだけ緩めてくれた。


「私は今怒っています。さてどうしてでしょう?」


 この質問をされた時点でどう答えても死ぬという、もはや言われた時点で詰みな状況へと早変わりする魔法の言葉。


 正解しても「ならなんでそうしてくれないの!」と言われ不正解でも「どうして分かってくれないの!」と言われるという確定の詰み。


「ちなみに間違えたらお母さんの前でチューってしてもらうから。はい10、9、…」


「ちょっとカウントダウンとかしなくてもいいよね!」


「はーち。なーな。ろーく」


「止まらない!? 分かりました! 答えます! 俺が最初にお母さんにお友達って言ったところですよね?」


 そこしかないと思う。俺もどういうのが一番なのか迷ってあぁ言ってしまった。


「ぶぶ〜違いま〜す。正解はお母さん見て大樹くんがちょっとニヤけてたのを見て私は怒ったんでした〜」


「いや、俺そんなことしてない! 瑞波みたいにすごい美人でとかは思ったけどそれ以上はないって!」


「ふ、ふ〜ん私のこと美人とか思ってたんだ。ふ〜ん」


「瑞波は美人よりはすごい可愛いって感じだけどね。とにかく変なことはしてません」


「仕方ない。今回はそういうことにしておきましょう。お母さんも戻って来そうだし。お母さん変な事言うかもしれないけどそういうのは無視していいからね」


 そうこうしているうちに瑞波のお母さんが部屋に戻って来た。どんな話されるんだろう。



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