第29話 同じ布団で

「よいしょよいしょ。どうかな? そろそろ寝ちゃいそう?」


「くッまじで気持ち良すぎて…部活の疲れのせいでもう…」


「もう寝ちゃう寸前だね。いいよ、このままぐっすり眠っちゃお?」


 マッサージが始まって15分くらいは耐えていたけどそろそろ限界が近い。ウトウトしてもう目が潰れかかってる。


 そして瑞波の甘い声。起きていないといけないのにその意思を蕩かしてくる。


「ダメだ。ここで寝たら負けた感じになってしまう」


 もはや意地だった。このままぐっすり寝て瑞波のご両親とバッティングとかそんなことより寝ないと言ったのにやられてしまうのが悔しかった。


「ふぅん。ならトドメ!」


 そう言ってさっきまで背中とか腰とか肩とかふくらはぎを揉んでくれていた手が俺の頭に伸びて来た。そしてこめかみ辺りを押してくる。


「あぁ~やばい…もう…」


 ピンポイントにツボを押されたことで俺はもう限界。マッサージで気持ちよくて寝てしまうのって本当の話だったらしい。


 っていうか、俺瑞波に負けちゃったな。そんなことを考えながら俺は意識を手放した。





 ◆◆◆




「あれ、大樹くん?」


 こめかみを押しだして数十秒。大樹くんが動かなくなってしまった。顔を覗き込むとそこには気持ちよさそうに寝てる大樹くんの寝顔が。


「私、本当に大樹くん寝かせちゃった」


 まさか本当に寝ちゃうとは。それだけ私のマッサージが気持ちよかったってことでいいのかな? そうだと嬉しいな。


「ふふふ。大樹くんの寝顔可愛いなぁ」


 いつもの頼りがいのあるかっこいい感じが一切なくなって子供みたいにスヤスヤ寝てる大樹くんを見るのはこれが初めて。こうして眺めてるだけでも幸せだなぁ。


「このこのっ」


 普段はさせてくれないようなぽっへたつんつんだって今はし放題。ぷにーってなっててなんだかおもしろい。


「ふわわわっ…なんだか私も眠くなっちゃった…」


 大樹くんの寝顔を見てたら私の方まで眠気が来てしまった。私もこのまま寝っちゃってもいいよね?


「わぁすごいあったかい。大樹くんの温もりだ」


 いつも冷たい私の布団は今日は全然違った。とっても温かい。身体だけじゃなくて私の心の中から大樹くんの温もりが伝わってくる。


「えへへ。ぎゅーってしちゃお」


 そしてさらに大樹くんを求めるようにぎゅっと引っ付く。あんまりゴソゴソすると大樹くん起きちゃうかも知れない。でも起きる気配は全くしない。


 私はさらに甘えるようにちょっとだけ自分のほっぺたをすりすりしてみた。ちょっとだけだよ? もちろん。


「ん~大樹くん好き好き大好きっ!」


 何だろう。いつも大樹くんには遠慮なく好意を示してるのに今はいつも以上になってる気がするよ。


「あっ…でも私ももう限界かも…」


 もっともっと大樹君を堪能したいのに睡魔がそうさせてくれない。でも、まあいっか。これからももっとこういう機会はあるだろうし、今はこのまま大樹くんの温もりに包まれて寝るのも最高だしね。


「おやすみなさい大樹くん…」





 ◆◆◆




「んっ…あれ、ここは…?」


 目を覚ましたら俺の知らない天井が。まさか異世界転生? そんなことは流石にないだろと顔を横に向ける。


「!!!!!」


 目が一瞬で覚めた。なんと横には瑞波がいるではないでしょうか。それも幸せそうな寝顔しちゃって。これは異世界転生するより数倍驚いた。


 というかなんでここに瑞波が? 俺もなんで寝てたんだろう。思い出してみる。


「あ、そうだ。俺が瑞波にマッサージされてそのまま寝ちゃったんだ。多分瑞波もそのまま寝ちゃったんだろうな」


 そう俺の中で結論付けてもう一度瑞波眺める。なんかこういう瑞波見たの初めてだな。こっそり写真撮りたいけどそれはやめておこう。ばれたら怒りそうだし。


「これならいいかな」


 たぶん大丈夫だと思って頭を撫でてみる。綺麗なボブカットの髪はスベスベでとても触り心地が良い。このままずっと撫でていたい。


「ん~? あ、たいきくんだぁ。ぎゅー♡」


「ちょっ、瑞波寝ぼけてるのか!?」


「そんなことないも~ん。わたし、おきてるお~?」


 絶対完璧には起きてない。ただ、この寝起き瑞波の破壊力が半端ない。トロンとした目とまだ眠そうな表情。そして口調。もはや可愛いいすら超えていると断言しよう。


「あ~なにその顔~私のこと信じてないなぁ?」


「いやだって本当に寝ぼけてるだろ。いつもの瑞波ならこんな喋り方しないしさ」


「むぅ~! そんなこと言うたいきくんにはこうします!」


「えっ?」


 そう俺が言った時にはもう遅かった。瑞波が俺の唇に自分の唇を重ねて来たのだ。


 あぁ…すごい柔らかい。起きてるとか寝ぼけてるとかそんなのどうでもいいや。ただこうしてたい。


「ぷはっ。これで分かった? わたしがちゃんと起きてるって」


「柔らかかった」


「そっかそっか。分かってくれればいいんだよ」


 話がかみ合ってないけど今は気にしなくていいや。ただ、寝起き瑞波のやばさを知ることが出来たので満足です。











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