第24話 初めてのキス

「ならそれを証明して欲しい……」


「えっ?」


 瑞波が目を閉じて軽く口を尖らせる。つま先立ちになった瑞波との距離はほんの少し。距離にして10センチもないだろう。


 すぐそこで聞こえる吐息。冬の寒さのせいで吐く息は白くなってる。唇はぷっくりしていてほんのり赤みを帯びている。


 軽く瑞波の肩に手を置く。それと同時に肩がピクッと跳ねた。


 瑞波の方も緊張しているんだろうか。でも俺の方もこれ以上ないほどに緊張してる。ここ最近、瑞波と一緒にいて緊張やドキドキしてきたがそれを遥かに凌駕するレベルだ。


 告白したときも相当緊張したけどこれはまた違った緊張がある。肩に置いた手が震える。瑞波も気づいているのかな。たぶん気づいてるよね。


 覚悟を決めた俺はゆっくりと、しかし着実に瑞波とその距離を縮める。


 風の音すら聞こえてこない。今、目の前にいる女の子。和泉瑞波に俺の全神経が注がれている。


 そして……


「瑞波……」


「んっ……」


 俺は瑞波の唇にキスをした。唇と唇がすこしだけ触れるくらいの簡単なキス。世の恋人ならいくらでもしてるだろうそんな普通なキス。


 でも、俺にとってその一瞬は一生忘れられないほどのものとなった。大好きな人との初めてのキス。心がポカポカしてる。


「えへへ。しちゃったね私たち。私のファーストキスだよ」


「俺も初めてだよ。その相手が瑞波でよかった」


「うんっ! 私もそう思うよ」


 軽くさっき俺が触れた唇を指でなぞる瑞波。そしてまたえへへと嬉しそうな顔をする。


 その仕草にまたドキッとしてしまった。いつもの可愛い感じではなくなんだか今の瑞波は大人っぽい。


「私、嬉しかった。大樹くんがこうしてキスしてくれて。私のこと離さないってすごく感じられた。嬉しくて嬉しくて……ちょっと泣いちゃいそう」


「絶対瑞波を離さないよ。それだけは誓う」


「なんだか結婚式の誓いのキスみたいだね」


 結婚。あぁなんて良い言葉だろう。瑞波のウエディングドレスって可愛いだろうなあ。その瑞波の隣にいるのは俺でいたい。


「ねぇ大樹くん。そ、そのもう一回キス……してくれないかな……。さっきの感触が最高過ぎて……」


「もちろん」


 そう言ってもう一度今度はゆっくり5秒ほどかけて。瑞波は目を瞑らず俺としっかり目を合わせる。心と心が直接触れ合ってるようなそんな感覚。


 そして口が離れていくとなんだか寂しい。そして瑞波も名残惜しそうな顔をして口を離す。


「これはまっちゃいそう。大樹くんとキスするのとってもいい。次は私の方から良いかな?」


 瑞波が俺の首に腕を回して自分の方に引き寄せるようにチュッと。そしていたずらっぽく笑う。


「えへへ。私の方からもしちゃった。どうだった?」


 どうだったって…。最高でした以外の回答が思い当たらない。瑞波はそれを分かっているかのように続けて俺の唇を奪った。


「止まれなくなっちゃう」


「それは俺のセリフだ」


 ぎゅっと抱きしめて次は俺の方から。口を離せばまた瑞波が「もっと」という目で俺を見てくる。


 誰にも見られない場所で俺たちは完全に2人だけの世界に入ってしまっていた。とめどなく溢れてくる好きだという気持ち。


 もっとしたい。そう思ってまた顔を近づけたところで「ニャー」という声が。驚いて振り返ってみるとて一匹のネコが。


 こんな時期にネコ? 炬燵で丸くなってるのが普通じゃないの? 首輪もしてるし。今外に出たがるネコとかいないだろ。


「ソラ~」


 そう呼ばれたネコは飼い主であろう人の方へと向かって行った。俺たちには気づいていないっぽかったからよかった。


 ただあのネコによって冷静さを取り戻した俺たち。


「あ……そろそろ帰ろっか……」


「そうだね。うん」


 その後はお互い照れてしまったせいでロクに会話も出来ず、でもただ隣にいると幸せで。そんな不思議な時間を過ごした。


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