第23話 再確認
「ちょっとこっち来て」
俺は手を引っ張られて人気のない森の方へとやって来た。人混みから離れた瞬間、世界から隔離されたかのように静寂が訪れる。
聞こえるのは葉っぱがなびいて揺れる音だけ。こんなところに連れられてどうされるんだ?
「瑞波……」
「私、今ちょっと怒ってるから」
俺の方を怒気を帯びた顔でじっと見つめている。いつもにこにこしている瑞波がこういう顔するほどに本気なんだ。
「何に怒ってるか分かる?」
「あのおみくじ気にし過ぎてるってことだよね」
それしかないだろう。あれ以降会話も減ってしまって、せっかくの楽しい初詣に俺が水を差す感じになってしまったわけだし。
「うーん。当らずと雖も遠からずってところかな。あの言葉を見ていろいろ思ったんでしょ? 私が言いたいのはおみくじがどうこうじゃあなくてさ」
そこまで言うと瑞波は俯いてしまう。ただ俺はだまって待っていた。今聞こえるのは俺と瑞波の吐息だけ。俺は瑞波の言葉を聞かないといけない。
「私が言いたいのは……。言いたいのは私は大樹くんのこと大好きで大好きで仕方ないってこと!! 横にいるだけでドキドキするし、大樹くんとお付き合い初めてから毎日が楽しくて仕方ないの」
がばっと顔を上げたかと思うと思いっきりの愛の告白をしてくれた。ってそんな冷静に状況を分析できるような余裕はない。
えっ? 俺今、瑞波から大好きって言われたよな?
「私は大樹くんのことほんとに好きなんだからおみくじじゃなくて私の言葉を信じてってこと!」
「!」
「私ちょっと上手く言えないけど、たとえどんなことがあっても大樹くんから離れない。だって好きなんだもん。おみくじの他の部分は大樹くんが変えればいい。恋愛のところは私が大吉に変えてあげる」
とても優しい声でそう言ってくれた。ただガツンと頭を殴られたくらいの衝撃俺を襲う。そうだよ。俺が一番信じなきゃいけないのはおみくじの言葉ではない。
そう。瑞波の言葉なんだ。当たり前のはずなのによほどさっきの言葉に動揺して大切なことを忘れていた。
「ありがとう瑞波。そうだよな。これだけ瑞波が好きだって言ってくれてるんだから信じなきゃだよ。ごめん」
そのままぎゅっと抱きしめた。それと同時に感じる温もり。身体も温かく感じるけどそれ以上に心がポカポカする。
「あっ。ちょ、ちょっと大樹くん! 私はまだ怒ってるんだよ」
「ごめん。離したくない」
「んもうっ。えへへ。仕方ないなぁ。そう言うこと言われたらもう怒れないじゃん」
瑞波の方からも俺を抱きしめてくれる。
「いい? 私を信じて。私も大樹くんを信じるから。まだまだ未熟だけど私は2人でならどんな困難も乗り越えていけると思ってるから」
「うん。出来れば困難なんてきてほしくないけど」
俺望むのはただ瑞波と幸せになれる物語。とことんに幸せになるやつだ。
「そうだね。あ、あのさ……大樹くんほんとに離れないよね?」
「もちろん。俺は絶対瑞波を離さない」
「それならそれを証明して欲しい……」
「え?」
それだけ言うと瑞波は目を閉じて軽く口を尖らせた。ちょんと俺との身長差を埋めるように……
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