第19話 大晦日から新年

 瑞波の家にお邪魔した日は瑞波手作りのビーフシチューをご馳走になった後、しばらくゆっくりしてそのまま帰宅した。


 そして今日は大晦日。一年の終わりの日。あの日以降瑞波とは会っていない。ただこればかりは仕方ないと思う。年末は何かと忙しいから。


 ただメッセージアプリでの会話はしている。とは言っても大変にならないくらいに。何してるとかそんな他愛のない話を。


 でもそれだけなのに何故かとても嬉しくて楽しくて。スマホを見てにやけているところを母さんに見られてしまった時はめっちゃ恥ずかしかった。


 俺と瑞波が付き合ってることは言っていないはずなのに何かを察したあの表情。母さん恐るべし。


「あはは! やっぱり大晦日の夜はこれよね」


 そう言って大笑いする母さん。何を観ているのかというとあの笑ったらケツバットされるやつ。歌番組じゃなくて我が家はこれを観て年を越すのか当たり前になってる。


 後2時間で新年。今年は最後の最後に半端ないことが起こったな。瑞波と付き合えて……。


 ピロン♪


 この一年間を振り返っていたら不意に俺のスマホから通知が来た。送り主は瑞波で一文「今から通話できる?」とだけ書かれていた。


「ちょ、ちょっと俺用事あるから部屋に戻るから! じゃあよいお年を!」


「よいお年を。明日は父さんはゆっくりしたいから出掛けんからな」


「はいはいよいお年を。もうテレビは見なくていいの? お母さんたちが見終わったら消すよ?」


 俺はそれに了承してリビングを後にした。そして自室にもどったらそのままベッドにダイブ。


 と、ちょうどそこで瑞波から着信が来た。振動するスマホに瑞波と示された画面。一度大きく深呼吸して「応答」をタップした。


「も、もしもし?」


「あ、こんばんは大樹くん。聞こえてる~?」


 スピーカー越しに聞こえてくる瑞波の声。4日ぶりの彼女の声にほっとした感じがした。前まで瑞波と10日くらい話すことがないとか普通だったのに今じゃあ4日も経てば寂しとか思ってしまう。


「ふふふ。久しぶりだね。ちょっと声が聞きたかったの。何か連絡することがあるとかじゃなくてただお喋りがしたい」


「うん……俺も瑞波と喋りたかった。本音を言うとちゃんと面と向かって話したいんだけどね」


 やっぱり瑞波の顔を見て話がしたい。うん。なんか俺強欲になってないか?


「私だって大樹くんと会いたいよ。でもこれはこれで良いよね」


「そうだな」


 そこからはただ通話を繋いでただお喋りするだけだった。今日のこととかそんなところ。


「あ、あとちょっとで年越しだよ」


 瑞波に言われて時計を見ればもう10分もすれば年越しって時間だった。結構長い時間喋ってたんだな。


「来年もよろしくね大樹くん。来年はもっともっとたくさんお喋りして思い出作って……すごい。したいことたくさんだ」


「いろんな所行ってみたい。夏とかちょっと遠出とかいいかも」


「それいい! ならもう春休みに桜見にどこか行っちゃおうよ。何日かはお休み先生だってくれるだろうし」


 かなり先のイベントに花を咲かせる俺たち。ただそういう事ならお金貯めておかないとな。これからは貯金していこう。目標があれば大丈夫な気がする。


「あと1分……こうして大樹くんと年越しできるの幸せ。それじゃあ来年もよろしくお願いします」


「こちらこそ。来年もよろしくおねお願いします」


「「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1……あけましておめでとう!!」」


「あはは。私たち息ぴったり。Happy New Year!」


「Happy New Year! 今年もよろしくな」


「よろしくね。初夢には大樹くんが出てきて欲しいよ」


 突然だな! 俺にそんなこと言っても瑞波の夢には干渉できないし、初夢って今から寝るときじゃなくて元旦の夜に見る夢じゃなったっけ?


 そんなこんなで俺たちの新しい年が明けた。










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