第18話 キッチンでの出来事
「この試合勝ててよかったよね。最後まではらはらしてたよ」
「一点差でランナー二塁だったからな」
あの後俺たちは全部試合を見続けた。そしてウイニングボールをセカンドが捕球したところで再生を止めた。
「あ、そろそろお昼だね。お腹空いてない?」
時計を見るともう12時30分を指している。試合が2時間くらいあったから確かにお昼時にもなる。
「確かにもういい時間だし家に帰ろうかな。俺も今日は母さん居ないからコンビニだけど」
俺だって料理が出来ないわけではないけど今から作るのは流石に疲れる。ちなみに俺の得意料理はカレーライス。簡単で美味しいし、一度にたくさん作れるのでとてもいい。あ、両親は普通にいます。
「待って大樹くん。今日はお昼私が作ったのがあるんだけど食べていかない?」
「いいの?」
「もちろん。大樹くんに食べてもらう予定だったから食べて欲しいな。じゃないと寂しい。真心こめて作ったから」
何なんだろう。もう瑞波のその気持ちでお腹いっぱいだ。どんな高級料理よりも価値がある。俺はそう思う。
「ありがとう。なら是非お願いします」
「うん。ちょっと待ってて。大樹くんが来る前に作っておいたから後は温めるだけだから」
それだけ言って瑞波は台所の方へ行ってしまった。しばらくしたら「ふんふふーん」と機嫌の良さそうな鼻歌が届いてくる。
「瑞波、俺も何か手伝うことない?」
流石にこのままずっとソファーに座って待っているのも申し訳なくなってくる。瑞波にばかりなにかをさせるのはやっぱり気が引けるので何かすることがないか聞いてみたんだが。
「大丈夫だよ。大樹くんはお客さんだからゆっくりしてて?」
「でも……」
ここは好意に甘えた方がいいのだろうか。無理に何かさせろと言うのもめんどくさい奴な気がする。瑞波だって言ってくれてるんだし。
ただ、俺には言っておかないといけないことがある。
「そのエプロン姿めっちゃいい」
これだけは言っておきたかった。私服の上から羽織った花柄のエプロン。その姿はもう最高としか言いようがない。
「えへへ。まさかそんなところを褒められるとは思っていなかったよ。でも嬉しいな。似合ってる?」
「もちろん。すごい可愛いしなんか新婚さんみたいだ」
「えっ?」
俺が言った瞬間、鍋をかき混ぜていた手が止まってそのまま俯いてしまった。まさか俺が知らない言っちゃダメワードを言ってしまったとか?
「もう大樹くんったら。新婚さんみたいだなんてちょっと気が早いよ。私たちまだお付き合い初めて3日目だよ」
ここで俺が何を言ったか理解した。冷静になるとやばいことを言ってしまっている。
「み、瑞波。これはちょっとした言い間違いというかなんていうか」
必死に弁明しようとするが俺も慌ててしまって何も言えない。
「ううん。ごめんね。別に責めてるわけじゃないの。むしろそう言って貰えて嬉しいというか。やっぱり好きな人のお嫁さんになるのは女の子の夢だし……」
ただ瑞波の手伝いに行っただけなのにどうしてこんなにドキドキしているんだろう。もう俺のライフは0だ。瑞波が可愛すぎて俺のHPは一気に無くなってしまった。
好きな人のお嫁さん。やばいそう聞くともうにやけが抑えられない。でも本当にそういう関係になれたらどれだけいいのかな。
「あわわわっ! 温めたのが焦げちゃう。あはは。せっかくいい雰囲気だったのに……」
「これは仕方ないよ。でも大丈夫。俺、やっぱり瑞波のこと大好きだってことをしっかり確認できたから」
こんなに可愛い瑞波を絶対誰にも渡さない。
「ありがとね。私も何回でもいうけど大好きだから。さ、ご飯にしよ?」
このあと食べた瑞波特製のビーフシチューは俺がいままで食べてきた料理の中で一番美味しかった。
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